『家族信託』について、資産家や地主、中小企業オーナーなど、資産をある程度お持ちの方向けのサービスとして捉えられがちです。

資産家向けの「資産防衛対策」「節税対策」「相続争い対策」というようなイメージがありますが、家族信託は、決して資産家だけを対象にした制度ではありません。

そもそも家族信託の制度は「認知症対策」にあります。

「認知症」は誰にでも起こりうる大きなリスクです。

しかも実際には、一般的な資産状況の家族こそ、老後資金のことで問題になるケースが多いのです。

今回は、一般家庭で問題になりやすい財産の件、また、認知症対策の重要性や家族信託の活用事例についてお伝えします。

一般家庭こそ財産のことで揉めやすい?

1つ、興味深いデータがあります。

「74.2%」

この数字は、家庭裁判所にて遺産の価額別に認容・調停成立件数を分けた場合、財産額が5,000万円「以下」だった方の割合です。

つまり、実際に遺産分割の場面で家族間で揉めてしまった方の7割以上は、それほど大きな資産額ではなかったということです。

「相続に関する問題」は決して資産家の家系に限った話ではない、ということが分かりますよね。

そもそもの家族信託の機能は「認知症対策」にあります。

  • 認知症を発症するか否か
  • 介護費用を家族が負担できるか否か
  • 相続の際に自宅をどう処分するか

高齢になると不安事項は増えていきますが、とくに「認知症」は誰にでも起こりうる大きなリスクであり、対策していくべき問題だといえます。

高齢親の「認知症」「入所費用」…老後費用に備える

現在、65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は15%と推計されていますが、2025年には全国で730万人、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されています。

認知症についてのサポート制度として「後見人制度」などいくつかありますが、とくに「家族信託」であれば、意思判断能力のはっきりしている段階からさっそく制度を利用することができます。

すぐに家族内の取り決めでスタート出来る点が家族信託の使いやすさなのです。

以下、一般家庭で実際に生じた事例と家族信託の重要性をご紹介します。

【事例1】高額な介護費用の捻出について

都内在住のAさん(50歳)。下の子は大学受験を控えています。

Aさんの父は横浜の実家で一人で暮らしのため、いずれは高齢者施設に入居することも考えています。

ただ、調べてみたところ、思っていたより施設費用が高額でした。父の預金は1,500万円程度ありますが、入所費用は軒並み高く、数年後には足りなくなる計算です。

ゆくゆくは実家の売却も必要になりそうです。

しかし、いざ売却しようというときにもし父が認知症になっていたら、当然売却はできない、という事態に陥ります。

もしそうなってしまうと、Aさんが父の施設費用を数年もの間、代わりに払っていく必要がありますが、大学生2人を抱えるAさんにはそんな余裕はありません。

そんな事態を防ぐために、父に相談の上、実家の不動産を家族信託に入れて、Aさんの判断でいつでも売却できるように準備しておきました。

これによって、Aさんは将来のお金の不安を解消することができたのです。

【事例2】共有名義のため実家を売却できない可能性が

神奈川県で家族(妻・子1人)と暮らすBさん(47歳)。

あるとき離れて暮らすBさんの父が逝去し、母も認知症の可能性が出てきました。

施設への入所と各種費用の捻出のため実家の売却を考えていましたが、実家の土地と建物は、父の逝去後、Aさんと母とで共有名義になっていたのです。

もし母の認知症が進行すると、母の持ち分については売買契約行為ができなくなります。

また、仮に無事入所できても、そのうち介護施設の費用が不足しますし、誰も住まなくなった実家の管理が必要になるという問題に気が付きました。

その時期、Bさんは知人の紹介で家族信託の仕組みを知り、母の持ち分を信託資産に入れて契約することができました。

自身の仕事で多忙だったため、Bさんは司法書士法人へ相談。

契約書の作成や信託登記関連についても依頼し、スムーズに契約完了まで進めることができたのです。

初期費用は掛かりましたが、これで母に何かあっても、Bさんの判断で実家を売却して金銭に換えることができます。

これにより安心して施設へ入居させることができました。

親の認知症が進行すると、実家の売却が非常に難しくなることがあります。共有名義や土地家屋の持分の関係により売却が進まないケースも多いのです。

こちらの参考記事もご参照ください。 →『認知症と不動産売買】家族が代理人になれば自宅は売れる?

【事例3】預貯金が少なく不動産頼みの例

母(80歳)、子(55歳)の2人家族で、子は独立して家があり、母は父から相続した自宅マンションに住んでいます。

最近、母の判断能力が衰えてきているため、近い将来、施設に入居することを検討しています。

年金と少しの預金しかない母ですが、自宅マンションがあるからと不安はありませんでした。

しかし施設の入居費用は思っていたよりも高額で、自宅を売却しない限り施設への入居は難しいことが分かりました。

しかし、もし認知症になってしまったら自宅の売却すらできません。自宅を売却したい場合は、成年後見制度を利用するしかありません。

認知症が進行してしまったら(判断能力がなくなってしまったら)

  • 母が自宅を売却することができず、その場合は成年後見を申立てるしか方法がない
  • 成年後見人(主に弁護士、司法書士等)の選任に時間がかかる
  • 自宅マンション売却の手続きは成年後見人が行うが裁判所の許可を要するため時間がかかる
  • 成年後見人に対する継続的な報酬が発生する(毎月、数万円)

これらのデメリットが発生してしまいます。

ここで仮に認知症の症状が進行していなければ家族信託の契約が可能であり、信託契約の利用により問題をスムーズに解決できるようになります。

まず母が委託者(兼受益者)、子が受託者となり、自宅不動産を信託財産とする信託契約を結びます。

自宅の名義は受託者である子に変わり、以後は子の判断で不動産を管理処分(リフォーム・売却等)することができます。

もちろん、成年後見の申立てや売却の際の裁判所の許可は必要ありません。

そして売却で得た金銭は受益者である母のものになりますので、この売却代金を施設への入居費用とすることができるのです。

家族信託の他に高齢者の認知症対策となる方法はないのでしょうか。こちらの記事『家族信託の他に、資産の認知症対策として有効な手段はないのか?』でも解説しています。

老後資金の問題解決のために

このように、家族信託の必要性はどの家庭にも生じうるものです。

  • 入所費など、いくらお金が必要なのか?
  • 自宅を売却したら、いくらになる?
  • 売却したい時期に売却手続きをすることができるのか?

家族全員の未来に関わる大切なことです。

家族信託は資産家の財産管理として有効な手段であると同時に、認知症対策としても非常に有効な手段となります。

万が一のために家族信託をしておく必要があるといえるでしょう。

ただし、認知症対策としての家族信託は、認知症になってしまった後ではできない、という点に要注意です。

将来の万が一に備えて、早めに家族信託の利用を検討されることをおすすめします。ぜひ一度、ご家族みなさんで話し合ってみてください。