要約

  • 成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力を喪失してしまった人の援助者を選び、法律的に支援する制度
  • 成年後見制度には第三者が介入する・費用が高い・財産活用に制限がある・やめられない・負担が大きいという5つのデメリットがある
  • 可能であれば任意後見制度あるいは家族信託の活用を検討することがオススメ
  • 法定後見制度・任意後見制度・家族信託のどれを利用すべきかは状況により異なるため、まずは専門家にご相談を

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高齢の親の判断能力が低下した際などに利用される「成年後見制度」について、
認知症患者の拡大とともに毎年3万4千件を超える申立てが家庭裁判所になされています。

参考:最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況

高齢になると判断能力の低下により預金口座が凍結されてしまうことがあるため、成年後見制度はその解決方法の一つとしてよく知られています。

家庭裁判所を通すことから難しいイメージもありますが、申立て件数のうち95.5%が認められているという状況で、認知症の高齢者への対策としては非常に助かる制度です。

ただし成年後見制度の利用に際してはデメリット部分も多く、注意が必要です。

実際に利用する段階になって実情が分かり、失敗したと後悔する点もあるのです。

この記事では、成年後見制度の注意点やデメリットの中から、5つのポイントに絞って解説します。
家族が将来、同制度を利用するかもしれないと考えている場合はぜひ参考にしてみてください。

成年後見制度とは

成年後見制度とは、 認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力を喪失してしまった人の援助者を選び、法律的に支援する制度です。

家庭裁判所に申立て成年後見制度を利用すると、本人の代わりに「成年後見人」が法的な行為や財産の管理が可能になります。

成年後見制度についての詳細は以下をご参照ください。
【完全版】成年後見制度とは?司法書士がわかりやすく制度を解説

成年後見制度を利用する際の5つのデメリット

成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が低下してしまった人の生活と財産を保護することを目的として作られた制度です。

家庭裁判所に申立てることで判断能力のなくなってしまった人の後見人(代理人)を選任し、
その後見人を監督することで後見を受ける人の生活と財産を守ることを目的としています。

ただしこの制度を利用する場合は、以下5つのデメリットを見込んでおかなければなりません。

【デメリット1】
後見を受けている人の生活や財産に関して、裁判所や弁護士・司法書士などの第三者が介入する制度である

【デメリット2】
後見事務の手間が発生する・成年後見人に対する報酬(費用)が発生する

【デメリット3】
相続対策や資産運用など、後見を受けている人が所有する財産の変更や活用ができなくなる

【デメリット4】
特別な理由がない限り基本的には成年後見制度を途中でやめることはできない

【デメリット5】
親族が成年後見人になった場合の負担が大きい

これらのデメリットについて、それぞれ詳しく解説していきます。

デメリット1:裁判所や弁護士・司法書士などの第三者が介入する

家庭裁判所により成年後見人が選任され後見が開始すると、それまで滞っていた預金の払い戻し等が可能です。

この成年後見人には、本人の親族または弁護士・司法書士といった専門家が就任します。
統計的には、全体の8割が専門家による後見人となっています。

これは、身寄りのない高齢者が利用する支援事業所が裁判所への申立てを行うこともあるため、その数値を含んだデータとなっている面もあると言えるでしょう。

ただし、親族が成年後見人となることを希望して認定された場合でも、成年後見人を監督する立場として「後見監督人」が選任されるケースがあるのです。

後見監督人の選任は家庭裁判所に一任されており、家庭裁判所が所有している名簿に登録された弁護士・司法書士などの専門家が選任されます。

そのため成年後見制度を利用する場合は、いずれにしても成年後見人または成年後見監督人として、弁護士・司法書士などの専門家が関与する可能性が高いのです。

成年被後見人(後見を受ける本人)の財産が極めて少ない場合、親族が成年後見人に就任する場合もありますが、認知症の場合には基本的に本人が亡くなるまで、成年後見人を通して財産の処分を行うこととなります。

成年後見人も、家庭裁判所や後見監督人の監督を受け、報酬の支払いも発生するという状態が続くことになるため、第三者の介入を免れることは難しいといえます。

専門家などの第三者が生活に介入するという難しさ

成年後見制度の利用がはじまると、本人の財産状況や生活状況(収入・支出)を家庭裁判所にすべて開示しなければなりません。

その情報は成年後見人や後見監督人にも共有されます。
(正確には、成年後見人が本人の財産状況を調査し、家庭裁判所に報告します。)

これらの情報は個人情報として管理されますが、本人の財産状況を含め家族の暮らしが家庭裁判所や成年後見人等に知れてしまうことに抵抗を感じる親族もいるでしょう。

また、本人のための支出についても家族が生活費を立て替えた場合は成年後見人に対して領収書を提示し請求しなければなりません。
これら1つ1つの手続きを長年継続することになります。

さらに立て替えた分であっても、成年後見人から「本人の生活費として評価できない」「生活に不必要な費用なので請求には応じられない」といった対応をされてしまうことも考えられます。

専門家の成年後見人は成年後見制度を厳格に運用する責務があり、家庭裁判所も管理を担うため、一般の感覚よりも厳しい管理内容となることを事前に知っておく必要があるでしょう。

デメリット2:後見事務の手間・成年後見人に対する報酬(費用)

成年後見人はその職務として、成年被後見人(後見を受けている本人)の法律行為を代理し、財産を管理します。

また後見開始直後とその後、最低年に1回のペースで家庭裁判所に対して成年被後見人の財産状況(収入と支出を含む)を文書にして提出しなければなりません。

この報告は成年後見制度を利用中、ずっと続きます。
常に本人の生活状況などに関して領収書などの記録を保管しておかなければならないのです。

また、弁護士・司法書士といった専門家が成年後見人となる場合や、後見監督人が選任された場合には、これらの方に対して報酬を支払わなければなりません。

支払いは成年被後見人(後見を受けている本人)の財産から支出しますが、決して少なくはない報酬の支払いが続くため、この点でも負担が大きいと言えるでしょう。

後見人や後見監督人の報酬に関する詳細はこちらをご参照ください:
後見人等の報酬の相場は?

デメリット3:財産の変更や活用ができない

家庭裁判所は 「本人の財産保護の観点」から監督を行うため、親族には例えば以下のような負担が発生します。

  • 同居の親族と共同生活をしている場合でも生活費の負担割合を明確にしなければならない。
  • 本人の財産を他の親族の利益のために使用・活用することができない。
  • 不動産投資や株式投資など、積極的な資産運用ができなくなる。
  • 相続対策としての不動産購入や保険の加入などができなくなる。

《生活費の負担割合の明確化について》

通常、同居している親族の生活費を1人1人の負担分に明確に分けていることは少なく、その負担割合の内訳は曖昧になっていたり、誰か一人がまとめて負担するなどのケースが多いでしょう。

そして後見を受ける本人が生活費の柱となる収入を得て家族とともに暮らしていた場合、子の生活費の仕分けが問題になりやすいのです。

後見が始まると、原則的に本人の財産は本人のためにしか使用できなくなります。

つまり本人の収入により生活を賄っていたほかの親族は、後見開始以降、自らの生活費を工面する必要が出てくるのです。

例外的に、同居の親族の生活費を本人の財産から負担して問題ないものと判断するケースもありますが、条件があります。

  • 同居の親族に収入を得る力が全くない
  • 後見を受ける本人がその者を養うだけの収入を得ている
  • 現に後見開始前からその者を養っていた

これらをすべて満たす場合には、後見開始後もその親族の生活費について認められています。

また、後見を受けている人に扶養義務がある場合にも、その義務の範囲内での親族の生活費の負担は問題ありません。

ただし、その金額は「相当の範囲」に制限されますので、これまで通りの生活が維持できるとは限らず、支出は基本的に制限されるようになると言えます。

本人の財産を他の親族の利益のために使用・活用することができない

成年後見制度では、成年被後見人(後見を受けている本人)のための財産保護が目的です。

本人が潤沢な財産を持っていたとしても、その財産を活用して親族のために活用することは原則、認められていません。

例えば、本人が親族のために不動産を購入しようとしていたり、数年後に教育費などの資金を渡す予定だったとしても、成年後見制度の利用開始以降は、そのようなやり取りはできないことになります。

親族内で約束があったとしても、基本的に諦めるしかないのです。

生前贈与ができなくなる

成年後見制度を利用すると、相続税対策や節税のために用いられる生前贈与は行うことができません。

こちらも同様、成年後見制度の目的はあくまでも、成年被後見人(後見を受けている本人)のための財産保護だからです。

相続税対策は、相続人の利益のための行為にあたると判断されてしまうのです。

相続税対策が目的ではない、家族間での扶養義務として生活費といった少額の生前贈与は相談が可能ですが、実際にどのくらいの金額を生前贈与すべきか家庭裁判所との相談が必要です。

生命保険の活用や不動産購入など、資産の組み換えによる相続税対策をしたい場合も同様、成年後見制度を利用しているケースでは基本的に認められません。

これらも家族のための行為であり、被後見人本人の財産保護が目的ではないからです。

仮に家庭裁判所に申請をしても、基本的に認められないでしょう。

不動産投資や株式投資など、積極的な資産運用ができなくなる

高齢者の中には資産を活用して資産運用を行っているケースもあるでしょう。

資産運用は、資産の購入・売却のタイミングが重要となりますが、成年後見制度が始まると成年被後見人(後見を受ける本人)の「財産保護」が最大の目的となります。

よって、原則、積極的な運用は出来なくなります。

成年後見人は本人の資産の積極的な運用はできる限り控え、預金などの少なくとも元本が減少するリスクのない形で資産を保持することになるのです。

したがって、後見開始後は上記のようないわゆる資産運用はできなくなります。
また、すでに収益目的で所持している不動産や有価証券は、徐々に現金などに換価されていくこととなります。

相続対策としての不動産購入や保険の加入などができなくなる

資産運用についてと同様、本人にとって直接の利益にならないという理由から、相続対策も行うことができなくなります。

相続税はその対策の有無により金額に大きな違いが発生する可能性があります。

また、相続対策が未了の場合は成年後見制度の利用を開始するか慎重に検討する必要があります。

成年後見制度について詳しくはこちらを参照ください:
成年後見制度とは?

デメリット4:特別な理由がない限り後見制度を途中でやめられない

一度、成年後見人を選任すると、基本的に被後見人が亡くなるまでやめることはできません。

成年後見制度は、認知症などにより判断能力が不十分な人の保護を目的としています。

それなのに、被後見人の判断能力が低下したままにもかかわらず、途中でやめられてしまうと
成年後見制度の目的である成年被後見人(後見を受ける本人)の保護が果たされなくなってしまうからです。

本人の判断能力が回復したと認められる場合でない限り、途中でやめることはできません。

特にデメリットだと言える点

以下のような理由でやめたいと思っても認められない点は大きなデメリットと言えるでしょう。

  • 成年後見人にふさわしくないとされる人が選任されたから解任したい
  • 管理や事務が大変だからやめたい
  • 成年後見人に選任された専門家(弁護士や司法書士等)への報酬が高いからやめたい

特に専門家が後見人になるケースでは、後見が続く限り報酬を支払う必要があります。

期間が長くなるほど費用負担は続くということです。

後見人を解任できるケース

正当な理由により、後見人を解任できるケースはあります。
しかし、その場合も新たな後見人が選任され、後見自体は継続されます。

成年後見制度自体の利用をやめることはできないのです。

デメリット5:親族が成年後見人になった場合は負担が大きい

就任時に提出する書類の準備や、年に1回の裁判所への報告義務に向けた日頃からの書類整理等の事務作業に負担がかかります。

就任時に提出する書類

就任した後見人は、本人の資産状況や収支の状況を把握し報告書にまとめて家庭裁判所等に提出します。

その際に提出が必要になる書類は次の通りです。

  • 財産目録
  • 年間収支予定表
  • ご本人(支援を受ける人)の通帳のコピー
  • 有価証券をお持ちの場合、取引残高が分かる証券会社の報告書等のコピー
  • 不動産をお持ちの場合、不動産登記事項証明書のコピー
  • 生命保険に加入している場合、生命保険の保険証券のコピー
  • 年金額通知書のコピー
  • 介護施設の領収書や、賃貸借契約書などの住宅費が判明する資料のコピー
  • 各種租税の納税通知書のコピー
  • その他定期的な支出入の内容が判明する書類のコピー

以上、本人の財産を判明する限り調査し、支出状況・収入状況を整理の上で書類にまとめる必要があります。

年に1回「定期報告書」を作成

就任当初の報告完了後、裁判所へ年に1回の定期報告を行います。
この定期報告で提出が必要な書類は次の通りです。

  • 後見事務報告書
    (前回の報告から、支出入の状況等に変化があるかどうかを報告)
  • 財産目録
  • 通帳のコピー
  • 前回の報告から変化があった財産に関する資料
    (例 不動産を売却した場合は、不動産登記事項証明書のコピー)

成年後見人としての負担となる義務等、詳しくはこちらを参照ください:
家族・親族は成年後見人になれる?後見人の選び方や手続き方法とは

以上、5つの点が成年後見制度のデメリットだということをお伝えしてきました。

これらのデメリットをふまえ、本当に成年後見制度を使うべき状況か、よく考えてから決めることをおすすめします。

成年後見制度を利用する際の3つのメリット

次に、成年後見制度のメリットについても確認していきましょう。

メリット1:成年後見人が本人の預貯金や不動産が動かせる

認知症高齢者の家族が代理で、本人の口座から介護費用などを引き出そうとしても、銀行は本人でなければ引き出しに応じません。

また本人が窓口に出向いた場合も、判断能力や意思の確認を行います。

つまり、認知症により意思能力を喪失すると金融機関としては資金を凍結せざるを得なくなります。

この状況を打破するための方法が、成年後見制度を利用することなのです。

メリット2:親族や同居人の不当な使い込みを防げる

身近な親族や同居人によって、成年被後見人(後見を受ける本人)の預貯金を勝手に使ってしまうケース、つまり横領が実際に起こっています。

成年後見人を選任すると、成年被後見人の財産管理を家庭裁判所の管理下におけるため、こういった横領を阻止できます。

成年後見人の選任は銀行にも届け出されるため、成年後見人以外の人は、たとえ親族であっても預貯金の引き出しができません。

このように、成年後見人がいることによって成年被後見人を守ることができるのです。

メリット3:本人が行った不利益な契約を防げる

本人が行った法律行為は成年後見人によって取り消すことができます。

万が一、訪問販売や通販などで本人が必要のないものを買ってしまっても、それが日常生活に関係のない物である場合は、後からキャンセルが可能です。

成年後見人は親族と専門家のどちらがいいか

家庭裁判所により選任される成年後見人。

成年後見人に親族を希望しても、家庭裁判所の判断で専門家が選任されることもあれば
親族を成年後見人に選任し、専門家が成年後見監督人に選任されることもあります。

約8割が司法書士や弁護士などの専門家で、残りの約2割が本人の親族による就任と言われています。

家族が自由に成年後見人を親族・専門家の中から選択することはできません。

それぞれが就任した場合のメリット・デメリットを把握していきましょう。

専門家が成年後見人になるメリット

例えば管理が必要な財産に不動産が含まれる場合など、知識がないと不安になる場合があるでしょう。

専門知識をもつ者が後見人を担うとなれば、適切に財産管理を行ってもらえるため安心です。

専門家が成年後見人になるデメリット

以下の点が特にデメリットだと言えるでしょう。

  • 月額2~6万円の「基本報酬」が成年被後見人が亡くなるまでずっとかかる
  • 一定の法律行為が必要な場合に「付加報酬」がかかる可能性がある

詳細はこちらもご参照ください:成年後見人の報酬の相場は?

親族が成年後見人になるメリット

本人をよく理解しており、本人も信頼できる親族が成年後見人になると成年被後見人としては安心して円滑に財産管理を任せることができます。

また、一般的に専門家が後見人となる場合よりも費用を安く抑えられます。

親族が成年後見人になるデメリット

以下のような後見事務を行うことが大きな負担となり、デメリットと言えるでしょう。

  • 財産管理・身上保護・定期的な裁判所への報告等
  • 銀行預金の入出金状況など、お金の出入り状況の把握等の財産管理
  • 必要に応じて法律行為の実施(介護施設への入所契約を本人に代わり行う等の身上保護)

◎例えば親が認知症を発症し、子の1人が後見人になった場合の親族間トラブル

後見人となった子が財産を私用に使い込み、
他の親族や、きょうだい同士でのトラブルになる可能性もゼロではありません。

◎後見人としてある程度の専門知識が必要

適切な後見事務を行うためには、ある程度の専門知識が必要とされます。
弁護士や司法書士などの専門家でないと難しい場面も少なくはないでしょう。

適切な管理・トラブルを防ぐため専門家に任せると、より安心でしょう。

成年後見制度の利用における問題点と生じた事例

以上のように成年後見制度を利用する場合の注意点をご紹介してきました。

必要に迫られて手続きをするケースもあると思いますが、知らずに利用するだけでは後悔する場合も想定されます。

実際に起きた事例をいくつかご紹介します。

【事例1】専門家の後見人により同居の親族が疲弊

90代の母を、60代の娘とその夫が同居して介護していた家庭。

娘が母親の後見開始の申立てをしました。

しかし娘の兄弟が候補者(申立をした娘本人)について反対の意を表したため、家庭裁判所によって弁護士が後見人に選任されたのです。

後見開始後、それまでと同様に娘夫婦が同居して母の面倒を見ながら、母の生活費に関しては後見人に領収書を提出して清算するという形で生活をしていくこととなりました。

しかし後見開始からしばらくすると、本人の生活費として後見人に清算を依頼した支払いについて、後見人からなかなか認めてもらえなくなったのです。

年金収入が中心だった同居の娘夫婦は、立て替えている本人の生活費の清算ができず、経済的にも困窮しはじめました。

何度も後見人に伝えても、生活費の清算は認められず、とうとう話し合いもできない状態になったのです。

このような状況になった場合でも、有効な解決策は存在しません。
後見人と他の親族との相性が悪い等の理由では、後見人が解任されることはないのです。

本件でも娘が家庭裁判所に対して後見人の解任の申立てをしましたが、却下されてしまいました。

この事例に含まれる問題点は2つあります。

  • 成年後見制度は優れた制度ですが、他の選択肢も含めて事前に家族として利用の必要性を充分に検討すべきだった点
  • 身内に否定され、仕方のない状況もあったが、専門家の後見人であれば問題ないだろうと思い込んでいた点

身内が成年後見人になると資産を自由に使ってしまうのではと考え、親族に反対されるのも仕方のないことかもしれません。

親族の中に、特定の親族を成年後見人にすることに反対している者がいる場合、その特定の親族が成年後見人に選任されないという傾向があります。

仮にその人が成年後見人に就くことができたとしても、第三者がその監督人に就く可能性が高くなります。

そのためやはり、親の認知症が疑われた早めの段階で、家族信託等の他の選択肢を検討すべきだったと言えるでしょう。

《結果として分かること》

家族信託は決して不動産をたくさん保有する人やお金持ち家庭だけが利用する制度ではないのです。

親の判断力がある段階で預貯金のみの信託契約をすれば、より簡単に手続きも済ませることができた可能性もあります。

どうしても初期費用は掛かりますが、高齢の親だけでなく、親族を含めて全員が年々歳を取っていくことも忘れてはなりません。

早めに検討することで親族間で話し合う時間も取ることができた可能性もありますし、親本人の意向も取り入れた資産の使い方を組むこともできた可能性があったと言えます。

【事例2】後見人についての知識があいまいなまま申立てをした事例

後見開始の申立てをする際には、後見人としたい方を「候補者」として裁判所に申立てることが可能です。

しかし、候補者として掲げれば誰もが選任されるわけではありません。

現在、候補者として掲げた場合に選任される後見人は本人の4親等内の親族か、弁護士・司法書士といった専門家のみとなっています。

この事例では、そのことを正確に理解していない親族が、普段介護でお世話になっている知人を候補者として後見開始の申立てを行ったのです。

当然ながらこれは認められることなく、専門家が後見人として就くことになりました。
この事例は任意後見制度との知識の混合によるものと考えられます。

同じ成年後見制度でも2つのパターンがあるからです。

  • 裁判所が後見人を決める「法定後見制度」
  • 本人の判断力があるうちに任意の後見人を選定しておく「任意後見制度」

任意後見の利用にはやはり家庭裁判所を通す必要がありますが、依頼する本人が選定したのであれば恩人を後見人に設定することも可能だったのです。

もともと、申立をしたきっかけは病院から「契約のために必要」と言われたことが理由でした。

必要に迫られての手続きでしたが、もしも成年後見制度について事前に調べることができていれば。
また、本人の判断能力があるうちに意向を聞くことができていれば。

他の方法で進めることができる可能性が残っていたかもしれません。

家族信託と成年後見制度について:
家族信託と成年後見、どちらを使うべき?

成年後見制度の利用に迫られているのかどうか充分な検討を

成年後見制度を利用すると、裁判所の監督が始まることを意味します。

また、以下のような様々な制約も伴います。

  • 後見人として司法書士や弁護士といった第三者が生活に介入する可能性が高い点
  • 本人が意思能力を回復するか死亡するまで終了することができない点

これらの制約に対応することは、親族としても負担になる可能性が考えられます。

また成年後見制度の利用を検討する際は、その必要性について充分な検討が必要だと言えるでしょう。

後見人がいれば大丈夫という安心感はありますが、判断が難しい場合は利用の必要性だけでなく、利用可能な他の方法はないかどうかも含め、司法書士や弁護士などの専門家に相談してみることをおすすめします。

成年後見制度利用者の7割近くが、認知症を理由に成年後見制度の利用を開始しています。
後見制度利用の目的としてもっとも多いのは、銀行口座等の解約手続きです。

また、成年後見制度の利用開始までには期間が必要です。

申立ての約7割が決定までに2か月ほどの時間を要しているのです。

家族が希望する利用目的と、利用開始までに時間がかかりやすいデメリットを考えると、見えてくる対策方法があります。

成年後見制度以外の選択肢(1)家族信託を活用

将来、認知症になった場合に備える方法の1つとして家族信託があります。

家族信託とは「認知症による資産凍結」などを防ぐことができる財産管理の制度です。

家族と信託契約を結んでおくと、自分の財産を託して、成年後見制度のような第三者の介入や財産活用上の制限を受けることなく、管理などを任せることができます。

成年後見制度における様々なデメリットをご紹介してきましたが、家族信託であれば費用を抑えることができ、相続対策などの目的でも活用が可能です。

家族信託についての詳細はこちらもご覧ください:
家族信託とは

[1]認知症になる前であれば、家族信託を利用できる

認知症を発症する前であれば、将来、成年後見人になってもらう人との間で任意後見契約を結ぶ以外に、家族と信託契約を交わしておく「家族信託」の活用も検討できます。

[2]成年後見制度と比べると柔軟な財産管理が可能

家族信託は、成年後見制度に比べて財産活用を自由に行える点がメリットです。

成年後見制度は成年被後見人の財産を保護することが目的であることから、
リスクのある投資に財産を活用することはできません。

一方、家族信託は成年後見制度のような制限がなく、貸付や投資などを行い積極的に不動産を活用することが可能です。

もし、資産を有効活用したいと考えている場合は家族信託契約を結んでおくとよいでしょう。

[3]委託者の死後の財産管理を決められる

家族信託契約を結んでおけば、委託者の死後の財産を、孫やその先の代まで相続内容の指定をしておくことが可能です。

親の死後の財産は遺言にて指定できますが、相続人である子の死後の相続までは指定できません。

そのため、親が代々受け継いだ不動産を自身の死後も守りたいと考えていても、子が相続後に自由に処分することを防げません。

一方、家族信託を活用すれば、子が勝手に不動産を処分することを防げるのです。

  • 不動産を信託財産とし、親が委託者・受益者、親戚を受託者に設定する
  • 親の死亡時、受益者を子に変更できる内容の家族信託契約を結んでおく

⇒子は「受益者」として信託財産を利用できるが「受託者」ではないため自由な売却は不可能に。

また、子の死亡時に受益者を孫に変更する契約を盛り込んでおくことも可能です。

以上、成年後見制度や遺言では指定できない柔軟な指定ができる点が家族信託のメリットと言えるでしょう。

成年後見制度以外の選択肢(2)任意後見制度を利用

将来、認知症になった場合に備える方法としてもう1つは「任意後見制度」の利用です。

任意後見制度とは、本人が元気なうちに任意の人物と後見契約を結んでおくことです。

そして万が一、認知症などで判断能力が低下してしまった段階でその契約に基づき後見が開始するという制度です。

監督人が必ず就いてしまう等の注意点はありますが、認知症になってしまった後に後見人を就ける法定後見制度よりも後見人の権限などについて柔軟に設定ができるという特徴があります。

任意後見制度についてはこちらでも解説しています:
任意後見について

認知症対策は早めに考えておくべき課題

認知症などによる判断能力の低下は、誰もが抱えるリスクです。

厚生労働省のデータによりますと、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されています。

また、85歳以上になるとその55%以上の方が認知症になるとも言われています。

今は大丈夫であっても、将来は適切な判断ができなくなるかもしれません。

万が一に備えて準備しておくことは大変重要な課題だと言えます。

この記事を参考に、現段階でどのような対策が必要か、どのような選択肢があるのか、ぜひ検討をしてみてください。

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