高齢の方が認知症などのため判断能力を失ってしまうと、自身が保有する財産の管理ができなくなる等の問題が生じます。
そのような場合に備えて、家族が財産管理をサポートできる仕組みとして登場したのが「家族信託」という制度です。
この記事では、高齢期の資産管理の問題や、実際に家族信託を利用する際の手順、そして信託事務の負担を軽減する専用アプリ「スマート家族信託」の情報も含めてご紹介します。
【参考記事】
・家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
・家族信託は危険?実際に起こったトラブルや回避方法
・家族信託に必要な費用を解説!費用を安く抑えるポイント
・家族信託で気をつけるべきデメリット・注意点10選
・認知症になると銀行口座が凍結される理由と口座凍結を防ぐ方法
家族信託をご検討中の方へ

目次
高齢期の資産管理の問題
高齢の方がいるご家庭では、認知症や介護の負担、財産管理など、さまざまな課題があると思います。
身体機能・認知機能の低下により家族のサポートが必要になってくると、とりわけお金の管理は重要な問題となってくるでしょう。
預金や自宅不動産などの資産をどのように管理したらよいのか、問題に直面してからその難しさに気づくこともあるのではないでしょうか。
家族の高齢化により起きている問題について、家庭裁判所が公表している統計データをもとにご紹介します。
問題点1 預金の管理ができなくなる
高齢期になると、預金口座からのお金の引き出しや、各種支払いの手続き等、資金管理がだんだんと難しくなることがあります。
また、紛失もよく生じる出来事でしょう。
キャッシュカードを無くすとATMでの引き出しもできなくなり、再発行するには本人が手続きを取らなくてはなりません。
また、金融機関にて手続きの際に意思能力の低下が見られると、口座の利用が停止されることもあります。停止されると家族であっても引き出し等ができなくなってしまいます。
お金の管理については多くの家庭で直面する問題であり、サポートしている家族にとっては介護とともに大きな負担となる部分でしょう。
もし、口座名義人の意思能力が完全に低下してしまった場合、そこから手続きを取ろうとしたら、家庭裁判所に「法定後見人」の申立てをするしか方法はありません。選択肢がなくなってしまいますので注意しましょう。
問題点2 不動産の売却が難しくなる
認知症になってしまった場合、その方が保有している不動産を売却することができなくなります。
まとまった資金が必要になった場合や、不動産が空き家になって管理が困難になった場合などに、売却したくても売却ができないという問題が生じます。
将来、売却する不動産がある場合、この課題を把握しておく必要があるでしょう。
この場合、「法定後見」を申し立てて後見人を立てるか、または、「家族信託」を利用することで家族に手続きをしてもらうことができます。
ただし、後見制度では資産保全を重視し、資産についても家庭裁判所の管理下に入ります。
そのため、必ずしも自宅の売却や資金化の手続きを是としない可能性があり、希望が通らない可能性もあるため注意が必要です。
問題点3 相続人としての手続きが難しい
高齢の方が《相続人として遺産を受け取る》側になった場合、意思が確認できなかったり、手続きが滞ったりするケースも生じやすい問題です。
相続が発生すると相続人全員による遺産分割の合意が必要になり、分割協議の合意や、戸籍謄本などの書類の収集にも時間を要します。
そのため高齢の方が受け取る側で完全に意思能力を失っている場合、後見人を立てる必要があるのです。
ただし、後見人制度を遺産分割協議のためだけに利用することはできません。一度、後見人を立てると基本的に生涯、個人の財産管理を後見人が取り仕切ることになります。
専門家が後見人に就任すると報酬も必要となるため、費用面の負担も大きい点に注意が必要だといえるでしょう。
家族信託とは
家族信託は家族内で財産の管理ができる制度で、成年後見制度とは異なり、家庭裁判所などの機関を経由せずに親族内で契約を成立させることができます。
ただし信託契約の際、資産を預ける「委託者」には意思能力が必要であり、契約内容に同意していることが条件です。
家族信託を利用すると、先ほどの3つの問題点について、どのような対策ができるのでしょうか。
(1)預金の管理
口座名義人の意思能力の低下等が理由で預金の利用が停止されると、後見人でなければ預金は動かせません。
もし、本人が意思能力を有しているうちに「家族信託」や「任意後見人」の手続きを済ませていれば、認知能力が低下した後でも資産の管理をしてもらうことができます。
家族信託であれば、専用口座に資金を移動させ、管理を引き受ける家族が必要に応じて支出できます。
任意後見人の場合は、認知機能が低下した後、家庭裁判所に申し立てて手続きを取ることで利用を開始することができます。
このように認知機能の低下が見られる前の事前準備が非常に大切になるのです。
生活費・介護費・医療費はどのくらい必要?
高齢期に必要となる資金について計算をしてみたことはあるでしょうか。
毎月の介護費用の自己負担分や消耗品等、年間で必要になる額を計算しましょう。介護施設についても調べて費用を出しておきます。
要介護度が上がれば自己負担額も増えやすい点に注意が必要だといえるでしょう。
医療費についても年齢とともに増加する可能性があり、入院が必要になるなど、家族のサポートも増える可能性があります。
生活費はもちろんのこと、介護費・医療費についても家族に管理してもらえれば大きな安心になるはずです。
ただし、将来振り込まれる予定の公的年金については信託財産に入れることができません。専用口座に移動できるのは現有する預金残高のみとなります。
(2)不動産の売却
自宅など、自分名義の不動産を売却する予定がある場合、家族信託を利用すれば家族に管理・売却を依頼でき、任意の時期に手続きを取ることができます。
今は自宅で暮らしたいけれど、将来、介護施設に入所するタイミングで資金化して欲しい、など時期的な希望も叶えやすくなります。
不動産を信託する場合、以下のような信託登記により名義変更をします。
- 該当不動産が信託資産であること
- 受託者の名義
- 信託の目的や内容
謄本にはこれらが記載され、所有者が移転します。
信託登記については通常の登記とは異なる届け出や記載方法となるため、登記の専門家である司法書士へ委託する方法が一般的です。
(3)相続人としての手続き
高齢の方が相続人になるような相続が発生した場合、遺産分割協議も難しくなります。どのように対処することになるのでしょうか。
①法定相続通りに分割する(分割協議不要)
仮に法定相続通りに分割するのであれば分割協議は不要です。
また、少なくとも遺留分(法定相続人が最低限、相続できる割合)を侵害しない配分である点に注意が必要ですが、遺言書で指定されている場合も協議不要となります。
ただし、遺産のすべてが現金とは限りません。
もし不動産があれば相続人どうしの共有名義となるため、管理処分が必要なときも実行には合意が必要です。手続きが今よりもさらに難しくなる可能性が高くなります。
②成年後見制度を利用して遺産分割
相続人が意思能力を失っている場合、成年後見制度を利用して分割協議の代理をしてもらうことができます。
ただし、成年後見制度は一度利用を開始すると、基本的に生涯、本人の財産を後見人が管理することになります。後見人・後見監督人への報酬も必要です。
一方、家族信託の「受託者」は財産管理者であるため「代理権」はありません。本人(委託者)に代わって遺産分割を協議する等の行為はできない点に注意しましょう。
③相続についても「家族信託」を利用して準備できる
家族信託には委託者(資産を信託した人物)が亡くなった場合の財産の承継先を決定しておくという機能もあります。
もし、信託契約で相続についての取り決めも含めることができれば、遺言書によらず遺産の行き先も指定できます。また、遺言書との併用で資産を管理することも可能です。
将来、相続が発生した時の問題も減らすことができるでしょう。
家族信託の手順
ここから家族信託の手順についてご紹介します。
家族信託の手続きや管理に難しさを感じる部分もあるかもしれませんが、資産残高や入出金の記録などが手軽に記録できるツール「スマート家族信託」も登場しています。
記事の最後で家族信託専用アプリについてもご紹介しますのでご参照ください。
(1)財産を託す家族を決める
家族信託で財産を引き受ける「受託者」は非常に大切な役目になります。財産の管理・記録・保存等の義務もあるため、適切な人物を話し合って決めましょう。
負担が大きいため複数人で引き受けたいという場合は、1人を「受託者」とし、他の人を「信託監督人(受託者を監督する人)」に設定してサポートできる体制を作る方法がお勧めです。
主な管理者が複数名になると、財産の名義も複数名になるため手続きが複雑になり、手続きを行う際にも全員の同意が必要になるという理由があります。
(2)信託契約書を作成
家族信託は財産を預ける「委託者」と、財産を預かる「受託者」の間で信託契約を締結して契約書を作成します。
《信託契約書の主な条項》
- 財産を預ける人と預かる人に関する情報
- 預ける財産に関する情報
- 預ける時期や、信託終了の時期についての定め
- 財産の用途や、だれのために利用するのかという定め
- 財産を管理する受託者に与える義務と権限に関する定め
- 信託終了後の財産の帰属先に関する定め
専門性の高い内容でもありますので、契約書の構成や作成は専門家に依頼する方法がお勧めです。
(3)信託財産の名義変更
家族信託を行った財産は、すべて、財産を預かる「受託者」名義に変更することになります。そのため、複数人で受託者を引き受けると手続きが難しくなる点にご注意ください。
◎ 預貯金の場合
預貯金については、受託者名義の信託専用口座を用意し、委託者の口座から専用口座に資金移動します。
◎ 不動産の場合
不動産を信託資産に入れる場合は、法務局で受託者に対する所有権移転登記を申請し、名義変更の手続きや信託登記を行います。
これらの登記手続きは司法書士が専門であるため、相談も含めて家族信託を熟知した司法書士に依頼するとワンストップで手続きをすることができます。
(4)信託開始と財産管理
信託が始まった後は、財産の管理状況の記録が重要です。特に重要なのが現預金の管理になります。
家族信託を利⽤すると信託法に基づいて、託された側には資産管理や報告など、法律上の義務が発⽣します。
- 信託帳簿の作成
- 管理内容の記録
- 帳簿の保存
- 管理内容の報告(少なくとも年1回)
信託している現預金については支出入を記帳して管理をし、支出に関してはすべて領収書を保管する必要があります。
帳簿の保管については、
- 信託事務に関する帳簿…作成から10年
- 財産目録・収支計算書…信託終了まで
管理記録に不明な点があると他の親族から指摘されたり、相続(予定)人の間でトラブルになる可能性がありますので、慎重さが求められると言えるでしょう。
財産の管理義務と負担軽減策
受託者には上記のような記録・管理に加えて、年に1回の報告義務があります。このような負担の軽減のため以下のような対策をおすすめします。
- 受託者を監督する「信託監督人」を設置し、信託事務に協力してもらう
- 専門家に「信託監督人」に就いてもらう
- 組成段階からアフターフォローも受けられる専門家に依頼する
- 財産管理に専用アプリを利用する
受託者を監督する立場でありサポートする立場にもなれる「信託監督人」については、弁護士や司法書士などの専門家に就いてもらう方法もあります。
専門家は「受託者」になることはできませんが、「信託監督人」に就くことは可能だからです。
また、組成段階からアフターフォローを受けられる専門家に依頼すれば、後々、各種相談や、手続き上のサポートを受けることができます。
家族信託は長期間にわたり運用していく契約ですから、家族信託について熟知し、アフターフォローにも対応した専門家を選んでおくと大きな安心となるでしょう。
最後に、家族信託専用のアプリで財産管理をする方法があります。次項でご紹介しましょう。
専用アプリ「スマート家族信託」の活用
管理状況の記録や報告書の作成などの労力を軽減する方法として、家族信託専用のアプリ「スマート家族信託」があります。
家族信託では資産管理を難しく感じる部分もあるかもしれませんが、専用アプリ「スマート家族信託」の利用により信託財産の管理状況を手軽に記録でき、家族内でデータをいつでも確認できます。
例えば、病院代を信託財産の中の現預金から支出した場合、支出した口座や金額、用途などをスマートフォン上から入力することで、その情報が自動的に整理され、一覧化されます。
データ連携にも対応していますので銀行口座等の情報も自動取得でき、アプリ内で信託財産をいつでも確認できます。
また、規定の報告についても、今まで入力したデータをもとに報告書が自動で作成されます。
※一部、開発中の機能もご紹介しています。詳細についてはこちらからお問い合わせください。
信託事務の負担を軽減できる非常に便利なツールだといえるでしょう。
まとめ
家族信託には手順や規定があるものの、専門家のアドバイス通りに進めれば、資産管理の準備がスムーズに完了します。
生活費や介護費に備えて、また、遺言書機能を持たせることも含めて、家族信託の利用で懸念事項をまとめて解決することも可能です。
また、基本的に信託契約による贈与税は課税されない見込みですが、法的にも税務的にも適正な内容で契約書を作るには、専門家に相談の上で組成すると安心だといえるでしょう。
そのためにも契約書の作成から不動産登記の手続き、アフターフォローまで、できるだけワンストップで相談できる専門家選びをお勧めいたします。