厚生労働省によると、全国の認知症患者数は2025年には700万人を突破し、高齢者のうち5人に1人が認知症となる時代に突入すると推計されています。
高齢期になると、心配なのがお金の問題だといえるでしょう。どのような対策があるのでしょうか。
日本の現状と、高齢期の問題をサポートする「成年後見制度」の特徴について解説します。
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【参考記事】
・成年後見制度とは?司法書士がわかりやすく解説
・家族・親族は成年後見人になれる?後見人の選び方
・成年後見制度の費用・後見人への毎月の報酬
・成年後見制度の手続きの流れや申立方法
・成年後見制度の5つのデメリットとは?
・家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを説明します
家族信託をご検討中の方へ

目次
超高齢社会の問題
現在、日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.26歳と、男女ともに80歳を超えている一方で、健康上に問題なく日常生活を送ることができる「健康寿命」については、男性72.14歳、女性74.79歳とされています。
つまり、このデータによると70代後半には何らかの支援が必要になる可能性があるといえます。
従来であれば高齢の方の財産管理については「遺言書」の作成が主体でした。
しかし、平均寿命が延びるにつれて健康寿命と平均寿命の差が広がり、遺言書の準備だけでは解決できない課題が増えてきています。
中でも、認知症が進行して判断能力が低下した方が自身で預金を引き出せなくなったり、自分名義の不動産を売却できないなど、資金面での困った事態も生じています。
預金口座についても金融機関側の判断により、利用停止の取り扱いになるケースもあります。
日常生活をサポートしている家族が代わりに手続きをしてあげようとしても、名義人は本人であるため、代わりに法的手続きを取ることができません。
このような事態になると後見人による手続きが必須となるため、「成年後見制度」を利用することになるのです。
成年後見制度の「法定後見」と「任意後見」
「成年後見制度」とは、認知症や精神障害などの理由で判断能力の不十分な場合に、自身の財産を管理してくれる「後見人」を家庭裁判所に選任してもらう制度です。
成年後見制度は大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
[1]「法定後見」とは
成年後見制度の「法定後見」とは、本人が認知症などの理由により財産の管理ができず支援が必要になった後、家庭裁判所に申し立てて後見人の選任をしてもらう制度です。
法定後見には、障害や認知症の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」の3段階があり、選任されると後見人が本人の財産を管理します。
[2]「任意後見」とは
任意後見制度とは、本人が認知症などを発症する前に、将来の意思能力の低下に備えてあらかじめ後見人になってもらう人と契約(公正証書)しておく制度です。
後見してもらう内容や権限をあらかじめ決めておくことができ、利用開始には裁判所を通して「任意後見監督人」が選任されることで後見契約の効力が生じます。
[3]成年後見制度の意義
認知症が進んで判断能力が低下してしまうと、「定期預金を解約したい」「施設入所のために自分名義の不動産を資金化したい」場合であっても、自分で直接、手続きを進められないケースがあります。
また、金融機関や不動産会社等で、契約行為を受け付けてもらえない可能性もあるのです。
そのような場合には自身の「代理人」が必要となり、現状の制度としては「成年後見制度」を利用することになります。
成年後見制度の特徴とデメリット
本人や周囲からの申し立てにより代理人を選任してもらえる成年後見制度ですが、利用の際にはデメリットともいうべき特徴があります。
① 各種手続きに時間を要する
成年後見制度の利用には、申立ての段階から各種手続きに時間がかかるという特徴があります。
審判や本人調査など家庭裁判所での手続きに時間が掛かる
申立てに必要な書類(戸籍謄本や診断書など)の完備にも時間が掛かると思いますが、実際の申立てから法定後見の開始までには約4ヵ月を要すると言われています。
これら家庭裁判所への申立てについては司法書士等の専門家に依頼することも可能ですが、家庭裁判所での審判を経る必要があるため、一定の時間が掛かる見込みです。
本人の大きな財産の処分について
後見制度を利用開始した後、財産管理については本人の資産保全が優先されます。
大きな財産を処分する際、後見人を通して家庭裁判所から許可を取る必要があるため、財産処分に時間が掛かる傾向にあります。
また、財産処分の許可を得られない可能性もあるため注意が必要だといえるでしょう。
② 後見人への報酬などの費用がかかる
法定後見では、家族が後見人に就くことを希望した場合でも、弁護士・司法書士等の専門家が選任されるケースがあります。
統計上では親族が後見人になったケースは約2割であり、親族が後見人に就任したとしても追加で「後見監督人」が選任されることがあるのです。
つまり、多くのケースで専門家が「後見人」や「後見監督人」として関わることになり、その際には規定の報酬の支払いが必要となります。
後見人等への報酬は毎月2万円〜6万円の範囲で規定され、1年間で数十万円になります。
認知症などの理由による成年後見制度の利用は、基本的に本人が亡くなるまで継続しますので、基本報酬だけで数百万円にも上る可能性があるのです。
③ 自由度が低い
成年後見制度は一度、利用を開始すると基本的に制度の利用を途中でやめることはできません。
これは、成年後見制度が判断能力の低下した本人を支えるために利用し始めた制度であるため、明らかに判断能力の回復が認められる場合でない限り、基本的に後見利用は継続することになります。
また、本人の財産は裁判所の管理になり、財産管理や使途・運用について制限を受けます。
制度が救済的な位置づけであると同時に、使い勝手の面においては自由度が低い傾向にあるのです。
事前に対策できれば「任意後見」の方が本人の意向を反映しやすい
もし、本人が健康なうちに事前に「任意後見人(予定の人)」と契約を結んでおくことができれば、必要な段階になったときに任意の後見人による後見が可能でした。
任意後見は家庭裁判所へ申し立てて任意後見監督人が選任されることで、任意後見人による代理行為が開始します。
任意後見は本人の意向を反映しやすい制度なのですが、事前の契約が必須です。
もし、とくに対策のないまま判断能力が低下した段階になってしまうと、選択肢としては「法定後見」のみということになります。
自由度の高い「家族信託」
このような後見制度の流れの中、家族内で高齢の方の財産を管理する「家族信託」という制度が広まってきました。
家族信託とは、本人の認知能力が低下する前に信託契約を結び、特定の財産を家族に信託する方法です。
本人(家族信託における「委託者」)が認知症を発症した後でも、信託した財産を柔軟に活用してもらうことが可能となります。
成年後見制度との違い
家族信託では成年後見制度とは異なり、家庭裁判所を経ずに手続きが可能です。また、資産の管理を引き受ける「受託者」が親族だという手軽さもあります。
人物の選定も自由であり、資産を預ける委託者と引き受ける受託者との間の信託契約で成立します。第三者が関与することもないため、報酬など運用面でのデメリットが少ないのが特徴です。
家族信託と任意後見の平行利用も可能
家族信託と任意後見は、両方を利用することもできます。
家族信託の受託者(資産を管理する人)には「代理権」がないため、代理権のある「任意後見」も利用することで家族信託の機能を補完できるようになります。
例えば、介護保険や年金に関する手続き(「身上監護」)や遺産分割協議、相続放棄については家族信託の受託者が代行することはできませんが、任意後見契約で財産管理を指定することで手続きが可能です。
家族信託制度の不足部分を任意後見契約でカバーできるため、家族信託と任意後見を併用すれば、より万全な認知症対策が行えるようになるでしょう。
財産管理については早めに対策を
高齢期の問題は誰にでも生じる問題であるため、事前の対策が重要になります。
また、後見人が必要になると成年後見制度は重要な救済制度となりますが、上述のような特徴がある点に注意が必要だといえるでしょう。
現状の制度では難点のある制度だとも言えますので、本人の意思・判断能力が安定している時期のうちに、できるだけ早く備えておくことが大切だといえます。
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