家族信託はどの専門家に相談すると良いのでしょうか?
士業の中で、訴訟なら弁護士、税金のことなら税理士、登記なら司法書士といったイメージがありますが、家族信託の相談についての情報は少ないと思います。
まず、家族信託の相談先を探すポイントをご紹介し、後半では、家族信託の具体的な相談事例と、その場合の専門家の探し方についてご紹介します。
目次
家族信託を相談する専門家は誰がいい?
家族信託の相談先は司法書士・税理士・行政書士・弁護士などの専門家が一般的です。
しかし複数ある専門家のうち、どの種類の専門家を相談先に選べばよいのかは、実のところ難しい側面があります。
家族信託は法律・不動産・税金など、複数の要素が絡み合う制度のため、様々な要素を並行して検討しなければなりません。
また、平成19年施行の制度のため、対応経験が豊富な専門家はまだまだ少ないのが現状だからです。
そのため、家族信託の相談先を考える際には、選ぶ専門家の専門分野や、家族信託に関する経験値、契約スタート後も継続してフォローを受けることができるかどうかという点だといえます。
ゆくゆくは相続発生もあるでしょうし、その際には家族信託の「終わり」も想定することになります。信託契約を終わらせるときの手続きも必要です。
そのため長期にわたるサポートを受けやすい専門家が適しているといえるでしょう。
家族信託の仕組みなどについて、こちらでも解説しています
→家族信託とは?メリット・デメリット・費用をわかりやすく解説
専門家を選ぶポイントとは
このように、熟知している専門家が少ない点、そして、年数が経った後も相談をする可能性がある点が家族信託の特徴です。
これらを踏まえ、相談先を選ぶポイントをまとめましたので参考にしてみてください。
《専門家を選ぶポイント》
- 家族信託の受任件数
- YouTube やSNSでの情報発信
- 信託監督人を依頼する可能性もあるため信頼できる相談先を
- アフターフォローの有無
- 専門家ネットワークの有無
【1】家族信託の受任件数
第一に、これまでに何件の家族信託を受任してきたかを確認しましょう。実際に家族信託の依頼を受けた案件数が重要です。
近年、家族信託の需要が高まり、専門家向けの研究会や法解釈のための勉強会も開催されていますが、実際に業務を経験してみないと掴めない部分はたくさんあります。
司法書士・税理士・行政書士・弁護士など資格の種類にこだわるよりも、家族信託の知識と実務経験が充実している専門家を優先するのが選ぶコツだといえるでしょう。
【2】SNSでの情報発信なら自由にチェックできる
家族信託で実績のある専門家を見つけるにあたり、手軽な方法としてSNSで情報発信をしている専門家を探す方法があります。
家族信託を熟知している専門家は、YouTubeやTwitter、ブログなど、積極的にネットメディアやSNSを活用する傾向にあるようです。
SNSであれば曜日や時間帯に縛られず、専門家の活動状況をリサーチすることができるため、情報収集に役立つでしょう。
【3】信託監督人を依頼する可能性もあるため信頼できる相談先を
家族信託では信託契約書の作成のためにも、専門家に家族の内部事情を把握してもらい、希望を織り込んでいきます。
事情をよく把握してもらうからこそ、柔軟な契約内容を作成することが出来るでしょうし、事情をしっかり伝えるには、信頼できるような人物であることが望ましいといえます。
また信託内容によっては、依頼した専門家が信託監督人に就任することがあります。
信託監督人は受託者を監督する人を指し、信託財産が契約内容に沿って正しく運用されているかをチェックする役割を果たします。
そのため、信託監督人として長い期間、家族とかかわる可能性も想定して信頼できるような人物を選ぶと良いでしょう。
【4】アフターフォローの有無
家族信託は長期間、続きます。状況によっては年数が経った後に、契約書の変更を検討する必要が出てくるかもしれません。
例えば特定の不動産を信託財産に追加する場合、その不動産について登記の申請が必要です。
不動産登記申請のなかでも信託資産については一般的に司法書士に依頼して行う必要のある難しい登記方法になります。
そのため、すでに相談や依頼をした専門家、とくに司法書士であれば、スムーズに登記手続きに繋げてくれるはずです。
登記については弁護士が引き受けた案件であっても、登記についてのみ司法書士に外注するケースが多いのが実状だからです。
もしもの可能性もあるため、アフターフォローの対応も可能かどうか確認しましょう。
変更が出たときに相談先を探しても良いと思いますが、最初の契約内容からよく知っている専門家に頼る方が話も早い面があります。
トータルで相談を受けてもらえる専門家がいれば、そのような事務所に頼むと便利だといえます。
また、登記について追加で依頼する可能性があるのであれば、最初から司法書士に依頼しておいた方が便利だともいえるでしょう。
《契約変更が必要になったときの注意点》
契約内容の変更が必要になったときの注意点として、委託者の判断能力によっては変更ができない可能性もある点が挙げられます。
信託内容は、新規締結も変更も、委託者の意思・判断能力が必要だからです。
そのため契約内容は、想定される変更事項に対応できるような柔軟性を持った契約書を最初の段階で作っておくことがベストです。
はじめの契約書作成の段階から専門家に関わってもらうことで、後々の変更に対応できるような柔軟性のある契約書を作成できる可能性があります。
【5】専門家ネットワークの重要性
家族信託を組んでいても、これから数十年の間にどのような問題がいつ発生するかは分かりません。
各専門家同士のネットワークが整っている事務所であれば、必要に応じた専門家の紹介も可能です。
例えば、司法書士と税理士、ファイナンシャルプランナー、保険代理店などです。各専門分野の情報が連携されていると安心感も高いでしょう。
また、事務所に複数の専門家が所属している司法書士法人などであれば事業体としての継続性が見込まれるため、年数が経った後も安心だといえます。
このようにアフターフォロー体制のある事務所、横の連携のある事務所にも注目をしてみてください。
●参考記事:家族信託は司法書士・行政書士・弁護士のうち誰に頼むべきか?
家族信託でよくある相談事例と相談先
家族信託の目的に沿って相談先を検討するというアプローチ方法もあります。家族信託でよくある相談事例をご紹介しながら、事例ごとの探し方についてご紹介します。
[1]認知症に備えたい
家族信託は認知症対策として非常に有効です。
認知症になってしまうと、自分の預金や不動産、有価証券を自由に処分できなくなってしまいますが、家族信託をしておくことで、そのリスクを排除することができるためです。
認知症対策として遺言や成年後見制度の利用を考える人がいます。
しかし遺言や成年後見制度は認知症対策として不適切あるいは不十分な面があるため、遺言や成年後見制度の弱点を補う形で、家族信託の相談に発展することも間々あるのです。
また、会社経営者の方は、自分が認知症になった場合の経営リスクは深刻なものになりますので、家族信託を活用することで経営権のスムーズな承継も可能となります。
このような認知症対策としての家族信託を設計する場合、士業の分野としては司法書士が適任と言えます。
司法書士は家族信託の受任割合も高く、認知症とかかわりの深い成年後見制度にも業務として慣れているため、認知症に関する法的な対策などの情報も豊富に有しているからです。
家族信託そのものの歴史が浅いという点がありますが、他の士業よりも最も知識と経験が豊富であるといえるからです。
[2]介護費用が心配
介護費用については、認知症対策の事例の中で一番多いパターンだといえます。介護費用の相談から発展して、家族信託の話になる事例もよくあります。
高齢者が介護施設に入所する場合、立ちはだかるのが各種、入所費用の問題です。
本人に預金や売却予定の不動産があれば、それらを使って入所費用に充てられますが、すでに認知症が進行していた場合、意思能力との関係で、本来できるはずの預金の引き出しや不動産の売却ができなくなってしまう恐れがあるのです。
ここで家族信託を使えば、本人の家族が代わりに預金の引き出しをしたり不動産を売却したりなど、代わりに手続きを行うことができます。
本人に財産があっても介護資金に使えないというようなジレンマを解消できます。財産の処分もスムーズにできるため、身の回りの整理も家族のペースで進めることができます。
介護には費用も時間も人手も掛かる、大変なサポートです。資金の問題だけでも家族信託を活用して不安を取り除いておきましょう。
介護費などの事例についても認知症対策と同様、相談先としては司法書士が適任だといえます。
[3]子供の結婚相手に財産を渡したくない
家族信託を使えば財産の引継ぎ先を指示することができます。
例として、息子に財産を相続させるのはいいけれど、息子の嫁には財産を渡したくないといった意向です。人により事情は様々ですので、相続の心配で専門家に相談する方も少なくありません。
しかし遺言だけではこの希望を叶えることは難しく、最終的には不本意な相手に財産が渡ってしまう可能性が高くなります。
遺言で財産の行方をコントロールできるのは最初の相続までであり、それ以降は関与できないという限界があります。
最初の相続で一度、息子に財産が渡ると、その財産は息子のものとなり、その後の処分の仕方については息子世代の問題となってしまうからです。
しかしこのような問題については家族信託を活用することで解消できます。家族信託を使うと二次相続以降についても、財産が誰のもとに渡るかを指定できるからです。
特定の誰かに財産を渡したくないなどの事情があるのであれば、遺言では実現できないケースもあります。遺言の相談をするのであれば家族信託を扱える司法書士や行政書士に相談するといいでしょう。
ただし相続関係の複雑化や遺産分割調停が見えている場合など、事例によっては弁護士が適任となるケースもあります。
[4]相続税の負担を軽くしたい
相続税の対策をしたい場合、家族信託によって直接、税額を減らせるわけではありませんが、相続税対策を妨げるようなリスクは取り除くことができます。
一般的に相続税対策とは財産の評価額を下げて税額を減らすことを意味します。
家族信託を利用しても直ちに財産の価値が下がるわけではないものの、相続のために間接的に働く方法となります。
本人が大病や認知症を患ってしまっても、家族信託を使えば信頼できる家族に税金対策を任せることができます。
相続税対策を検討している場合、相談先は税理士が適任です。家族信託に詳しい税理士や、家族信託に詳しい他の専門家と連携している税理士を探すと良いでしょう。
[5]家族信託を相談するタイミングも重要
家族信託には取り掛かるタイミングも重要です。できるだけ早めに検討するのがコツだといえます。
内閣府の資料(平成29年版高齢社会白書)によれば、2025年には65歳以上の高齢者のうち5人に1人が認知症にかかると予想されています。
認知症対策として家族信託を考える方は非常に多いものの、家族信託は信託契約を取り交わすため、意思・判断能力のある段階での契約が必須となります。
認知症になってしまってから家族信託契約をしようと思っても、本人の判断能力によっては契約が認められない可能性もあるからです。
仮に認知症と診断を受けていても、それだけで即、契約ができないということにはなりませんが、契約の時点での本人の意思能力は非常に重要であることを認識しておかなくてはなりません。
まだまだ元気だからこそ今のうちに相談しておくという人も増えてきています。少しでも家族信託に興味があるのなら、なるべく早い段階で専門家に相談することがおすすめです。
家族信託にかかる報酬や費用は?
ここからは、家族信託にかかる報酬や費用についてまとめています。主に以下の5項目がありますので参考にしてみてください。
- コンサルティング報酬
- 家族信託契約書作成報酬
- 公証人手数料
- 不動産登記報酬
- 不動産登記の登録免許税
専門家によっては1と2を合算して信託報酬と扱っているところもあります。
信託する財産に不動産が含まれていなければ4と5は不要ですが、不動産が含まれていれば、司法書士に支払う不動産登記報酬や不動産の名義移転にともなう登録免許税が追加で発生します。
つまり不動産が信託財産に入っている場合は、費用や報酬はどうしても高めになります。公証人手数料や不動産登録免許税は法律で料金が決まっているからです。
一方、コンサルティング報酬と家族信託契約書報酬、登記報酬は専門家によってまちまちですので、相談予定の専門家に直接問い合わせてみるとよいでしょう。
家族信託のコンサルティング費用については、こちらの記事でも解説していますので参考にしてみてください。
→家族信託は司法書士に依頼すべき?費用や他士業との比較も紹介
まとめ
家族信託はまだ歴史が浅いため、家族信託に詳しい専門家は限られており、相談先の専門家を探すのは難しい面もあります。
ただし高齢になると年々、認知症のリスクも高まっていきます。判断能力の低下の心配がありますので、家族信託を検討し始めたらできるだけ早期に専門家についても探し始めることをおすすめします。
そのためYouTube やSNSで積極的に情報発信をしていたり、書籍を出版していたりといった情報をもとに、まずは専門家を探してみてはいかがでしょうか。
家族信託に詳しく、実務経験のある専門家にたどり着ける可能性があります。
また家族信託がスタートした後、年数が経ってから相談事項が発生する可能性もありますので、長い目で見て信頼できる相手を選ぶこと、アフターフォローの面や専門家の連携を有しているかどうかも見逃せないポイントです。
今回、ご紹介したポイントを参考に、頼れる専門家を探してみてください。
カテゴリー: 家族信託の登場人物

