家族信託は、高齢者の財産管理を中心として、希望や事情に応じた柔軟な財産管理や財産の承継が可能となる仕組みであるため、年々利用者が増加しています。
2017年頃から契約件数が増加し、推計で年間数千件の契約が成立しています。
家族信託の活用について検討するときに気になることと言えば、やはり費用のことではないでしょうか。
家族信託には手続き上の実費や登記関連の費用のほか、専門家に依頼する場合には事案に応じて一定の費用が発生します。
この記事では、家族信託にはどのような費用がどのくらいかかるのか、費用を安く抑える方法はあるのか、という点についてご紹介します。
要約
- 専門家に依頼した場合の費用は信託財産の1%程度が目安
- 自分で家族信託を作ることで費用を抑えることができる
- ただし専門知識がないと誤った家族信託となり、法律や税務面で取り返しのつかないことに
- 家族信託は単なる契約書の作成行為に留まらない
- 正しい家族信託をするために信頼できる専門家へのご相談がおすすめ
家族信託をご検討中の方へ

プレスリリース:
45〜65歳の4人に1人が、親の認知症による「資産凍結」リスクを認識。資産凍結を回避する「成年後見制度」を45%、「家族信託」を27%が理解
目次
家族信託を専門家に依頼した場合の費用
親族内で高齢者の財産の管理ができる「家族信託」は、近年利用者が増加している新しい財産管理制度です。
家族信託の契約をして利用する際には、実費を含めて一定の費用がかかります。
家族信託は信託法に則った法的制度であるため、手続きや税務上のリスク等を考えるにあたっては、専門家へ相談することが一般的でしょう。
家族信託にかかる費用としては具体的に
① 家族信託の内容を決定するためのコンサルティング費用
② 家族信託契約書の公正証書作成費用
③ 不動産がある場合の登記関係費用
これらの費用が必要となります。
家族信託を利用する際の費用総額はどのくらい?
信託財産の種類や評価額により、税金などが異なるために一概にいくらとは言えません。
しかし、おおよそ家族信託にかかる費用は、30〜70万円程度だと考えられます。
この費用について一見高額に感じるかもしれませんが、家族信託でまとまった金額がかかるのは初期費用の段階です。
実際に家族信託がスタートしたあとは、基本的に大きな費用が発生することはありません。
費用は大きく分けて相談・コンサルティング費用、公正証書で契約書を作成する費用、登記関係費用の3つがあります。それぞれの詳細も理解しましょう。
相談・コンサルティング費用
家族信託は必ず専門家に相談しなければならないわけではありませんが、専門家に相談なく、自分の希望に沿い且つ法的に有効な信託契約をすることはとても難易度が高いのが実情です。
コンサルティング費用がいくらかかるかは専門家によってまちまちですが、一般的には信託財産の1%程度というのが目安です。
信託財産がトータル3,000万円であれば、コンサルティング費用として30万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
※ネットの情報だけでは家族信託を設計しにくい
書籍やインターネットで家族信託についての事例や契約書の例が紹介されていることがあります。
有益な情報も多く、そのおかげで家族信託を検討することにした、というご家族もいるでしょう。
ただし家族信託のメリットは、財産所有者の要望に合わせた柔軟な契約内容を実現させることであり、他の家族の設計図は参考程度で考えましょう。
各家庭の財産や所有者の意向は千差万別であり、見本に沿って家族信託契約書を作成しても有意義な内容になるかどうかは分かりません。
全く同じ家族信託の契約書は世の中にないと言われるほどです。
例えば他の家族では税務上何ら問題もない事例であったとしても、それがどの家族にとっても同じように大丈夫、とは限らないのです。
個別の事情により家族信託契約の設計方法は異なりますので、ベストな選択肢や仕組みができるように、事情を話したうえで専門家に相談したほうがよいでしょう。
場合によっては遺言書の作成や任意後見制度を使ったり、併用した方が効果的だというケースすらありえます。
公正証書で契約書を作成する費用
家族信託契約書は必ずしも公正証書で作成しなければならないものではありませんが、実際にはほとんどの場合、公正証書で作成します。
公正証書にすることで法的に有効な契約であることを担保することができます。
また、信託口座を開設する金融機関でも公正証書の契約書の提出を求められるため、公正証書の信用力が重要なのです。
公正証書で契約書を作成する費用
公証役場で公正証書を作成するには、一定の費用がかかります。
① 専門家に公正証書の原稿となる家族信託契約書の作成や公証役場との打ち合わせの代理を依頼する費用
② 公証役場に支払う手数料
具体的にはこの2種類があります。
①については、コンサルティング費用に含まれている場合もあれば、別途かかる場合もあります。
公証役場との打ち合わせや、契約書の原稿の作成を自力で行うことは難しいため、専門家に依頼するのが一般的で、相場としては10〜15万円程度です。
②の公証役場に支払う実費については、信託財産の総額や契約の内容によって異なりますが、3〜10万円程度です。実費部分は信託財産が多くなるほど高額となります。
登記関係費用
信託財産に不動産が含まれる場合には、不動産登記の手続きが必要となります。その不動産が信託財産であること及び不動産を受託者名義に変更する内容の登記をしなければなりません。
この登記に関する費用は、
①司法書士に登記申請の手続きを依頼する費用
②国に納める登録免許税
の2種類があります。
①については、司法書士にコンサルティングを依頼した場合、コンサルティング費用に含まれている場合もありますが、通常は別途かかります。
費用の相場は不動産の数によっても異なりますが、10〜30万円前後を想定しておくとよいでしょう。
②は、登記をする際に発生する税金です。信託の登記にかかる登録免許税は、信託財産となる不動産の固定資産税評価額を使って計算します。
土地は固定資産税評価額の0.3%、建物は固定資産税評価額の0.4%が登録免許税額となります。(土地の登録免許税については令和5年3月31日までの減税措置)
たとえば、土地の固定資産税評価額が2,000万円の場合、登録免許税は6万円です。
家族信託と他の制度との費用比較
家族信託制度と比較されるものとして成年後見制度がありますが、成年後見を家庭裁判所に申し立てできるのは、高齢者の判断能力が低下した後、という段階です。
残念ながら、診断書などで証明される位に認知症等が悪化したあとになります。
成年後見人は裁判所が選定し、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるケースが8割に上ります。そうなると専門家後見人への報酬が必要となるため、年間の報酬額も高額になる傾向にあります。
弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選任された場合の報酬は毎月2〜6万円程度です。
しかも、家族としては預金口座を動かす時だけ後見人制度を利用したいという意思であったとしても、後見制度を自由に停止することはできません。
認知症等の判断能力を起因とする後見制度がスタートすると判断能力の回復時点まで後見制度は続くため、実質的に本人死亡まで後見制度の利用と専門家報酬の支払いが続くことになるのです。
例えば月額3万円の報酬を5年間支払い続けると、180万円もの費用が発生します。
[参考記事]
家族信託と成年後見制度はどちらの費用が高い?
※身内が後見人に就いたらいいのでは?
成年後見制度であっても、身内が後見人になれば費用も掛からないのではと考えます。
しかし統計によると、親族が後見人になると希望している事案は全体の約23.6%のみであり、専門家の後見人の就任割合が全体の約8割です。
これは、身寄りのない高齢者が利用する支援事業所が裁判所への申し立てを行うこともあるため、その数値を含んだデータとなっている面もあります。
ただし実際に高齢者が認知症等の状態になった後、親族が代理人になることを希望していないという傾向も含まれているのではないでしょうか。
本人の意思や希望が確認できないまま、その代理人になるという点について、親族内から異論が出やすいなどの事情もあるのかもしれません。
このような流れを見ると、本人の判断能力が維持されている段階から希望を契約や設計に反映できる家族信託の利便性がクローズアップされるでしょう。
家族信託の自由度の高さを考えると、初期費用とのバランスも取れていると言えるのではないでしょうか。
[参考記事]
認知症の事前対策を解説
家族信託開始後の費用について
家族信託がスタートした後の費用についてはどうなるのでしょうか。
家族信託は、財産を信頼できる家族に託す制度なので、専門家に財産を託す場合と異なり、基本的に毎月報酬などの費用がかかるようなことはありません。
ただし、受託者を監督する立場の「信託監督人」を設置して、その監督人を専門家に依頼する場合には、この信託監督人に支払う報酬が発生する場合があります。
専門家に信託監督人を依頼する場合
信託監督人は、受益者が高齢により判断能力がなくなった場合など、受益者が受託者を監督できない場合に、信託事務が適切に行われているかどうかを監督します。
信託監督人は司法書士などの専門家の場合、毎月数万円の報酬を見込みます。
不動産関連の費用
そのほか、たとえば信託財産で不動産を購入したり売却したりする場合、不動産仲介業者への仲介手数料が発生したり、司法書士への登記の手続き費用が発生するという新たな支出もあり得ます。
これは信託契約にまつわる費用ではなく、不動産売買そのものに関して発生する費用で、信託してもしなくても通常通り発生する費用です。
また、通常、不動産にかかる固定資産税と同じように、信託財産に不動産がある場合は毎年、固定資産税がかかります。
一般的に信託財産の預貯金から支出しますが、受託者は受託者の立場として、固定資産税を納税していくこととなります。
専門家に相談したい場合の相談料
信託開始後、不動産所得や事業所得があると、疑問点などが出てきて専門家に相談したいケースもあるでしょう。
そのような場合には相談料等が発生する場合があり、弁護士であれば1時間10,000円程度、司法書士や税理士であれば1時間5,000円程度が目安となります。
相談だけにとどまらず、たとえば信託契約書の内容を変更するなどという場合には、10万円程度の費用が追加でかかることが想定されます。
家族信託の【具体例】費用のシミュレーション
家族信託の費用について、実際にシミュレーションしてみましょう。
信託財産は、預貯金1,000万円、不動産土地1筆(固定資産税評価額1,000万円)建物1棟(固定資産税評価額1,000万円)であると仮定します。
①コンサルティング費用
(1,000万円+1,000万円+1,000万円)×1%(報酬利率)=30万円
②公正証書作成費用
作成手続き代理費用・・・コンサルティング費用に含む
公証役場の手数料・・・約5万円
③登記費用
登録免許税
土地 1,000万円×0.3%=3万円
建物 1,000万円×0.4%=4万円
計 7万円
司法書士手数料・・・20万円
④総額
この事例の場合、費用総額は概算で
30万円+5万円+7万円+20万円=62万円
一例として、このような金額となります。家族信託の費用の例として参考にしてください。
家族信託の費用を節約する方法はあるのか?
家族信託の導入を考えてはいるが、思ったより費用がかかる気がする、コストをかけずに済ませられないか、と悩むことがあるかもしれません。費用の節約方法について考えてみましょう。
税金もあるため全体を圧縮することは難しいのですが、初期費用の一部については抑える方法もゼロではありませんので、設計時のコツを含めてご紹介します。
(1)コンサルティング費用について
家族信託の内容などについて専門家に相談して設計してもらうためのコンサルティング費用を節約することはできるでしょうか。
一番コストがかからないのは、専門家に依頼をせずに自分で信託契約を済ませる方法なのですが、自分だけで信託契約の内容を全部取り仕切るのはリスクもあります。
信託契約は複雑な部分もあるため、法的に有効で過不足のない内容を個人が設計したり手続きを完了させるのは非常に困難です。
2017年(平成19年)に登場したばかりの制度ですので書籍やネット上でも情報がまだ少ないため、信託契約の手続きを進めた後で問題点やトラブルが出てくる可能性もあります。
法的な部分、税務上の注意点もありますので、できるだけ専門家に相談の上で、精度高く組み立てていくことが大切だといえます。
どの分野の専門家に依頼するといいのか
専門家に依頼する場合、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などが選択肢として存在します。
事務所によって費用体系は異なりますが、基本的には弁護士への依頼が一番高額となる傾向にあるため、費用的には弁護士以外の専門家に依頼する方が料金を抑えられる可能性はあります。
相談料の相場としては、一般的に、弁護士事務所で1時間1万円程度、司法書士等は1時間5千円程度です。
事務所の料金体系により異なりますので一概には言えませんが、初回の相談料を無料としている弁護士事務所等もありますので、相談・コンサルティングを検討する場合は複数の事務所を比較すると良いでしょう。
自治体主催の無料相談会は?
自治体などで主催する無料もしくは低料金の法律相談会で話を聞いてみるという方法もあります。
ただ、このような無料相談会の場合、必ずしも家族信託に詳しい専門家が対応してくれるとは限らないため、様子を見る機会として見てはいかがでしょうか。
士業などの専門家への相談に慣れていない人も多く、伝えたいことを正しく伝えられず、欲しい回答を得られなかった、という場合もあります。
また、相談に行ったものの、必要な資料が足りなくて具体的な相談が進まなかった、ということもあり得るからです。
[参考記事]
家族信託は危険?実際にあったトラブルや失敗事例、リスクを司法書士が解説
士業の事務所へ相談する場合
事務所によってはホームページなどで料金表を掲載しますので、事前に料金の目安を調べることができます。
ただし、料金についてはあくまで目安にしておきましょう。
専門家の能力は個人差が非常に大きく、比較的新しい制度である家族信託に関しては、専門家の力量や熟練度合いに大きな差があると考えられます。
家族信託や相続についての実績や知識があり、親身に相談に乗ってくれる専門家を選ぶことをおすすめします。
そのうえで、正式に依頼する前に見積りをしてもらい、費用に納得したうえで依頼するとよいでしょう。
(2)公正証書の作成費用について
家族信託の契約書については、公正証書を作成せずに私文書で信託契約書を作成することも可能です。
ただし、信託契約書は金融機関や法務局へ提出する可能性のある書類であり、基本的に信託契約書は公正証書で作成した方がよいでしょう。
公正証書は、公証役場で本人確認を行ったうえで作成されるもので、公文書としての強い証拠能力を持ちます。
所定の手続きのもと作成され、公証人の面前で読み上げられ、申請者の意思確認も行われるため、法的な効力や意思確認済であることを担保してくれる文書になるのです。
私文書としての契約書のままでは、極端な話、契約そのものを否定される可能性もあるのです。後々のトラブルの原因になる可能性もあります。
ここで、公正証書の作成を専門家に依頼する場合は、事前にその費用がコンサルティング費用に含まれているかどうかを確認しておくとよいでしょう。
公正証書の作成について費用が別途かかるとコスト全体を押し上げることになります。
(3)登記関係費用について
登記関係費用については税金(登録免許税など)の部分については仕方がありませんが、そのほか登記申請についての司法書士への依頼費用について考えてみましょう。
信託登記をする場合、信託目録の作成も必要となるため一般的に司法書士へ依頼をします。
自分で登記申請することも不可能ではありませんが、通常の相続や売買の登記以上に複雑で難易度が高い作業です。登記については最初から司法書士に依頼するのが間違いもなく安心だといえます。
登記申請を司法書士に依頼する費用についても相談の際などに確認をしておきましょう。
全体のコンサルティングを司法書士に依頼する場合にはコンサルティング費用に含まれている場合もあり、別途費用がかかる場合もあります。
意外にかかる不動産登記費用
登記費用の総額がいくらかかるかは、信託財産とする不動産の「固定資産税評価証明書」などの評価額により異なります。書類を持参の上、見積りを計算してもらいましょう。
不動産の件数や、不動産所在地の地域がバラバラだったりすると、想像よりも高額となるケースもあります。
このように、相談や見積りの段階で、費用面については充分な確認が必要です。また、費用面をしっかり明確にしている専門家であれば家族信託について熟知している人物だといえます。
[家族信託の費用について詳しくはこちら]
→家族信託のメリット・デメリット・費用を解説
家族信託は重要な契約だからこそ専門家選びが重要に
家族信託を始めるには必ず相応の初期費用が発生するため、費用で節約できる部分と、信託内容の設計の完成度とのバランスが、やはり重要です。
また、家族信託は比較的新しい制度で、弁護士や司法書士、税理士といった専門家であっても誰もが精通しているわけではありません。
そのため低コストなどの目の前の利点よりも、家族信託や相続の分野に力を入れており、信託がスタートした後も頼れるような信頼できる専門家に依頼することが大切です。
作成する書類についても、金融機関で信託口座を開設する場合に一定の要件を満たした信託契約書の提示を求められることがあるため、金融機関への対応なども見据えて契約書の作成ができる専門家が適しています。
納得のできる料金体系であることを確認したうえで、信頼のおける専門家に依頼することをおすすめします。
依頼する前に、まずは相談をしてみて、家族信託や相続、税務の知識や実績があるのか、信頼できる対応をしてくれるかなどを見極めてみてはいかがでしょうか。