認知症になると預金口座が凍結される、という話を耳にされたことがある方も多いのではないでしょうか。
預金口座が凍結されてしまうと、どうなってしまうのでしょうか?
内閣府の 高齢社会白書 によると、2025年には高齢者の方の5人に1人が認知症を抱えていると推計されています。
決して他人事ではない認知症による銀行口座の凍結について、その理由や口座凍結を防ぐ方法について具体的に解説していきます。
要約
- 銀行は判断能力に疑いのある顧客を守るために口座凍結をする
- 認知症になったからといってすぐには口座凍結にならない
- 口座凍結される前に家族信託で事前に対策をしておくのがベスト
- まずは専門家へ相談してみましょう
家族信託をご検討中の方へ

プレスリリース:
45〜65歳の4人に1人が、親の認知症による「資産凍結」リスクを認識。資産凍結を回避する「成年後見制度」を45%、「家族信託」を27%が理解
目次
認知症による銀行口座の凍結とは
銀行口座の凍結とは、銀行等の金融機関との取引に制限がかかった状態を指します。
キャッシュカードでの引出しや振込みによる出金ができなくなる状態です。
これは預金の不正な引き出しや預金口座が犯罪に悪用されることを防止するためのものでもあり、口座名義人を守ることを目的としています。
大きな金額を払い出す際や振込をする際など、銀行窓口で手続きについて意思確認が行われることがあります。
このような際に、口座名義人本人の判断能力に疑いがあれば引出し等を停止し、口座凍結になることがあるというものです。
認知症について銀行が知るきっかけは?
認知症による凍結については、口座名義人が診断を受けることですぐに凍結されるわけではありません。
ただし、例えば以下の3つの場合など、何らかの方法で銀行にそのことが知られ、判断能力について低下が疑われると、状況に応じて凍結されることになります。
【銀行に意思能力の低下を知られる事例】
① 家族が不安に思って、積極的に認知症のことを銀行に相談した場合
② 口座名義人が窓口に行き、手続きを行おうとしたが、その際に判断能力の低下について知られた場合
③ 家族が本人のキャッシュカードを用いてATMで1日の限度額いっぱいの額を払い出す行為を繰り返している場合
窓口に本人が行かなくても、口座名義人の年齢から認知症の可能性が疑われる場合、銀行から本人へ連絡が入ることがあります。
そのような確認連絡がきっかけで意思能力の低下について把握されるケースがあるのです。
[関連記事]認知症による預金の凍結について
→【認知症と資産凍結】銀行など金融機関が認知症に気付くのはいつ?
認知症になると家族もお金を払い出せない?
それでは、例えば本人の子や孫といった親族が代わりにお金を引き出すことはできるのでしょうか?
預金口座から大きな資金を払い出す時や定期預金を解約する際などは、窓口での手続きが必要となり、基本的に本人の意思確認が行われます。
家族であるという身分証明書を提示しても、銀行は本人以外の人物による引き出しを拒否します。
つまり、本人が窓口に行った際に認知機能の低下が疑われれば凍結されますし、本人に連絡が付かず意思確認ができない場合も払い出しを拒否されます。
このように、どうしても本人の意思確認が重要であり、確認ができない場合は払い出しを制限されるのです。
銀行の「代理人カード」は使える?
銀行によっては家族も利用できる「代理人カード」や「代理人の登録制度」のサービスがあります。
代理人カードは1つの口座について複数のキャッシュカードが発行されるため便利ですが、利用には要件があり、口座名義人の意思能力が確認できなくなると、基本的に利用は停止されます。
代理人カードや代理人登録は、家族内での利便性向上や本人の入院などを想定したものであり、本人に代わって口座を管理するものではないからです。
もし、認知症を発症した後に代理人カードの利用を続けていることが銀行に発覚すれば、預金について重大な問題を指摘されることもあります。
やはり、認知症による意思能力の低下や資産管理については正しく対策することが重要だといえるでしょう。
[関連記事]銀行の代理人カードの取扱いの注意点について
→『銀行の代理人カード(家族カード)と家族信託どっちがいい?』
認知症による凍結と死亡による凍結の違い
口座名義人が亡くなった場合、同じように預金口座の凍結が行われます。死亡による凍結と認知症による凍結には、取扱いに違いがあります。
【認知症による凍結の場合】
銀行により取扱い方に多少の違いはあるものの、預金の不正使用や預金保全の目的で、窓口やATMでの入出金、他の口座への振込、口座解約などはできなくなります。
ただし死亡による凍結とは異なり、認知症による取扱いの場合は、公共料金の引き落としや年金の振り込みについては処理してもらえるケースがあるようです。
【死亡による凍結の場合】
銀行が本人の死亡を知ると預金残高は相続財産となるため、全面的に凍結されます。その口座に入金することもできなくなり、引出しや公共料金等の自動引落しも出来なくなります。
遺産分割協議が完了するまで預金残高は一切、動かすことができず全面的な凍結となります。
口座の凍結解除を防ぐためには後見人が必須
口座が凍結されてしまった場合、解除するには「後見人」制度の利用が必須です。
本人が認知症になり判断能力を喪失してしまった後でも手続きをすることができ、後見人が預金口座を取り扱えるようになります。
多くの銀行でも、預金者本人の意思確認ができなくなってしまった場合は「成年後見制度」の利用が指定されています。
この後見制度について特徴を確認していきましょう。
[1]成年後見制度
成年後見制度とは、認知症や精神疾患、知的障がいなどで判断能力が不十分となった人の生活を支えるための制度です。
家庭裁判所に申し立てることで利用に向けた審判を受けることができ、選任された「成年後見人」が本人の代わりに適切な財産管理や契約行為などの代理行為を行うことができます。
[2]後見制度の「法定後見」と「任意後見」
成年後見制度には大きく分けて「法定後見」と「任意後見」があります。
成年後見
成年後見制度は認知症と判断された後でも手続きが可能な制度です。
家庭裁判所に申立てて、後見人を選任してもらうことで、成年後見人が口座名義人の代理人として預金を取り扱えるようになります。そのほか、法的な手続きも代理可能です。
任意後見
本人の意思能力がある段階で希望の人物を任意後見人として公正証書で契約します。
実際に認知症などの症状が進行したのちに家庭裁判所に利用開始の申し立てを行い、任意後見監督人の選任を経て利用開始となる制度です。
「法定後見」は認知症が進行した後でも手続き可能
成年後見の「法定後見」は認知症が進行した後でも手続きをスタートできる唯一の制度です。
本人による申し立てはもちろん、家族など周囲の人が申し立てることで手続きをすることができます。
つまり、事前に備えがなく申立てをするのであれば「法定後見」、事前に後見人の指定をしている場合は「任意後見」の利用が可能です。
そしてどちらの後見人でも預金口座の凍結を解除して利用再開することができ、所有不動産の管理や手続きについても代理可能となります。
[3]後見制度のデメリットに注意
このように、後見制度は最終的な段階でも利用できるセーフティーネットのような制度です。ただし利用に際して注意点もあります。
短期間での利用はできない
成年後見人はその預金口座の凍結解除のためだけに選任するということはできません。
一度選任されると、口座名義人本人の全財産について管理し、後見が開始します。原則として、途中でやめることはできない制度です。
利用開始までに数か月を要する
後見制度は家庭裁判所に申し立てて利用開始までに数か月を要するのが一般的です。すぐに資金が欲しい場合でも時間がかかることを想定しておかなくてはなりません。
財産は裁判所の管理下に入る
財産の管理処分については、裁判所の管理下に入ることになります。
例えば不動産を処分する時、まとまった預金を払い戻す際には、裁判所の許可が必要です。
財産を目的通りに管理していても、毎年、後見人から裁判所へ報告が行われ、チェックを受けることになります。
後見人に専門家が就く報酬が必要
また、法律の専門家が成年後見人や後見監督人に就任すれば、報酬が必ず必要となります。
利用の中断や取り消しが出来ない制度ですので、利用を想定している場合には費用面も含めて特徴をよく知っておきましょう。
[関連記事]成年後見制度のデメリットについて
→利用前に必ず押さえておきたい!成年後見制度のデメリット3つ
銀行口座の凍結を防ぐには家族信託で事前対策を
認知症の傾向がある、軽度の認知症だと判断された、という段階であれば「家族信託」を活用して事前に対策をすることで、口座凍結を防ぐことができます。
「家族信託」は、認知症になってしまう前に家族信託の契約で財産の信託をし、受託者である家族に預ける仕組みです。
受託者は家族以外の人物でも契約可能です。
早めに手続きできれば、自身が認知症の悪化により判断能力を喪失したとしても、受託者が預金を管理できるため安心です。
【1】家族信託なら資産管理の自由度が高い
資産管理が比較的自由になる
家族信託は裁判所を経由しない制度であるため、資産管理も比較的自由になります。
成年後見において、財産は保全することが第一の目的となっている一方、家族信託であれは相続を見据えた資産運用も可能です。
不動産管理も委託できる
資産管理を引き受ける「受託者」が、所有不動産等の管理や処分を行うことができます。
財産の信託方法の自由度も高い
後見制度の場合は施設入所などで空き家となった親の家の売却についても制限されることがありますが、家族信託の場合は自宅が信託財産に入っていれば、信託契約に沿って処分できます。
また、信託財産は選べるため、保有している財産すべてを信託する必要はありません。管理の難しい財産や、信託すると親族内で大きなトラブルになりそうな財産を除外しておくこともできます。
家族信託は、判断能力があるうちに実行できる方法として、また、家族で財産を守る手段として利用者が増えている制度ですので、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
[関連記事]
家族信託の仕組みや費用、メリット・デメリットについて解説しています
→家族信託とは?メリット・デメリット・費用をわかりやすく解説
【2】家族信託なら比較的低コスト
上述の「後見制度」と比べると、家族信託の場合は比較的、低コストで運用できます。
財産を管理する受託者に一定の報酬を渡せるよう、信託契約で決めておくこともできますが、専門家の後見人に支払うような永続的な報酬を心配する必要がありません。
また、財産管理や資産運用、相続対策についても柔軟に検討・実施することができます。家族信託は他の制度と比較して、非常に自由度が高いといえるでしょう。
【3】家族信託で遺言も可能
意思能力を失ってしまうと、日常の法的手続きだけでなく、遺言書の作成や生前贈与などの相続対策も出来なくなります。
家族信託では、意思能力のある段階での契約により、今保有している財産の管理だけでなく、相続時の財産の引継ぎ方も指定できるのです。
また、自分の死後は自宅を配偶者に相続させ、配偶者の死後は長女に相続させたい、といった二次相続についても指定できる点が大きな特徴です。
遺言書とは異なり、家族信託であれば、自分の後、次の世代の相続についても指定できます。
家族信託は任意後見との併用も可能ですので、後見人のみが代理できる「身上監護」などが必要な場合に備えて仕組みを作ることもできます。
[関連記事]
家族信託の契約には本人の意思能力が必要です。手続きの流れや家族信託を開始するタイミングについて解説していますので参考にしてください。
→家族信託は認知症発症後からでも可能?いつ家族信託を始めるべき?
認知症には家族信託で早めの備えを
認知症の診断が、即、預金口座の凍結につながるわけではありませんが、意思能力によっては預金が凍結されてしまう可能性があります。
凍結されても後見人制度が残されていますが、利用開始までに時間が掛かる点などに注意が必要です。
判断能力が低下する前に契約する「家族信託」制度であれば、預金口座の取引も家族(受託者)に依頼することができ、そのほかの信託財産についてもコストを抑えて管理を任せることができます。
各種制度については判断が難しい箇所もありますし、ご家族にとって最適な備え方や対策法もあることでしょう。万が一の時に備えて早めに専門家に相談してみてはいかがでしょうか。