家族信託のご相談の中で、よくいただくご相談に「親が家族信託に乗り気でない」という話があります。

「親が財産の内容を教えてくれない。」
「将来の話をすると、怒ってしまう。」
「親が頑固で、家族信託をやろうとしない。」

そのような場合、どのように話を進めると良いのでしょうか。

多くの場合、第三者である専門家が間に入って話をすることで、ご本人が抱えている問題点が明らかになったり、認知症リスクへの対策などの理解が進むケースがあります。

第三者がどのように話を導入して説得につなげるのか、専門家による成功事例としてお伝えします。 ​

説得が難しい「自分は、認知症にはならない」

家族信託は、「認知症対策」としてよく利用されますが、認知症対策の話をされるといやな気持になるご高齢の方も多くいらっしゃいます。

以前、ご相談いただいた男性のお客様を例にお伝えしていきます。

事前に娘さんから「もし認知症になったら、銀行の預金もおろせなくなるんだよ」と説明をしたところ、「自分は認知症にならない!」の一点張りで、話を聞いてくれなかったとのことです。

(1)リアルな悩みは財産管理よりも「介護問題」

面談の際に認知症の話は出さず、まずは、男性の生活状況のお話を聞いてみることにしました。

男性の自宅がある住宅街は駅からも遠く、銀行まで距離があるため、買い物や払い出しも大変だということでした。

また、自宅の前には長い階段があり、上がったり下りたりにも苦労をすることがある様子です。

話を通して、自宅での自立した生活に限界を感じ始めていて、そろそろ専用の施設に入居しなければいけないかもしれないと考え始めていたことが分かりました。

老人介護施設への入所は認知症に限ったことではありません。

ケガなどの理由で入院したり施設に入所するケースもあります。

また、入院・入所をきっかけとして行動が制限されることで認知症のような症状を発症したり、症状が進むこともあります。

介護が必要になる生活は突然やってくることがあります。関連記事『なぜ早めに家族信託を検討した方がいいのか』でも解説していますのでご参照ください。

(2)家族信託には、認知症対策以外の意味もある

介護施設に入る場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。

費用は地域による差があり、要介護度によっても入所の優先順位や費用に違いがあります。介護度が重いと入所の優先度も高くなる可能性がありますが、費用もその分、高くなります。

まず、男性が入所できそうな施設をピックアップしたところ、当初の入所費用が最低でも900万円程度かかることが分かりました。

より低費用の施設を希望して待機する選択肢もありますが、この場合、待機期間がどのくらいになるのか予測できません。

また、仮に急な介護が必要になったとしたら、いずれにしても入所金を迅速に用意しなくてはなりません。

介護施設への入所を想定した流れをご本人に説明をし、その費用を家族がすぐ準備することは難しいことも説明しました。

ご本人としても、
「お金のことでなるべく迷惑をかけたくない。」
「それでも面倒を看てもらうことになるだろうから、遺言などである程度の財産を遺すつもり」
という意向であることを教えていただきました。

(3)介護施設への入所を想定している場合

今回のように入所を想定している場合、以下のような点がポイントとなります。

① 遺言書があっても認知症対策としては不十分
② 認知症になると資産が動かせなくなる可能性が高い
③ 認知症対策として事前に備えるのなら「任意後見制度」「家族信託」が有効

介護を要する立場になったとき介護資金が必要にもかかわらず、②のように預貯金を動かすことが出来なくなるリスクがあります。

仮に①遺言で資産を遺したとしても、まとまった額の介護費用を親族に負担してもらうのは、やはり負担が大きいものです。

これらのリスクに備える方法として、③「任意後見制度」「家族信託」が有効となります。

参考記事:『任意後見制度とは?家族信託や成年後見制度とどちらを選ぶべき?

専門家など第三者の説明により問題点も明確に

今回のケースで家族信託契約によりもしもの事態に備えることができます。

  • 認知症を発症していなくとも、家族信託を利用していれば急な介護費用の支出があっても信託資産の預貯金(信託口口座)から引き出すことができる。
  • 自宅不動産を信託資産に入れておくことで、介護費用が足りなくなった場合に自宅を売却して資金を捻出する手続きを受託者に依頼できる。

これらのメリットを説明し、第三者の専門家の立場から話をすることで、家族信託の特徴を理解してもらうことができました。

将来に備えて前向きに考えてみることで、自身の現状を把握しながらこれから先の問題点を想定することができるようになります。

また、家族信託の利用により、​信託資産によっては、相続税対策として現預金で収益物件を購入する方法も受託者に依頼することができます。

家族信託には、認知症対策以外の使い方もあるということを説明しました。

すぐに資産を移したくない場合は「条件付信託契約」も

この男性の場合は家族信託の活用を前向きに考えることになりましたが、すべての家族でそううまくいくとは限りません。

利用は検討していいと思うが、すぐには資産を移したくない、すぐに家族信託を始めたくないという場合もあるでしょう。

その場合は契約の開始を遅らせる「条件付き信託契約」を利用する方法もあります。

つまり、「いまは契約だけ締結しておいて、認知症になった時点で家族信託を開始する」という契約です。

この契約は、「まだまだ自分は元気だ」と思われている方でも、10年後、20年後に備えて今から契約を締結しておきましょうという提案をすることができるため、非常に喜ばれる仕組みです。

条件付信託の運用について

条件付信託を実際に利用する際には、契約書で以下のような内容を明確に定めておく必要があります。

  • いつから家族信託を開始するのか
  • 開始する時期や条件について、客観的で明確な設定
  • 家族信託を開始するときの委託者の意思確認方法
  • 開始手続きを進める人物

条件付きの契約にする場合、契約書の法的な設定や整合性が重要となりますので、通常の家族信託よりも内容や構成が複雑になることがあります。

信託契約は後で修正や変更も可能ですが、変更手続きには委託者の意思能力が必要となります。また、変更の段階でもし施設へ入所していたら変更手続きが難しくなる可能性もあります。

そのため最初の契約でしっかりとした内容構成をしておくほうが良いでしょう。組成の際には司法書士法人等の専門家にご相談されることをお勧めします。

条件付信託については関連記事『【停止条件付信託】認知症になった時に家族信託を始める方法』でも解説していますのでご参照ください。

まとめ

家族信託をご高齢の方に無理に進めることは、その方の気持ちを傷つけてしまうこともあり、うまく行かないことがあります。

今の生活状況から将来起こりうる困りごとを想像し、家族信託が必要なのかどうかを本人に寄り添って考えていくことが必要だと思います。

なかなか話が進まない場合は、今回のように第三者が入って話をする方法もありますし、また、すぐに資産を移したくないという場合は「条件付き信託契約」を利用する方法もあります。

家族信託にはさまざまな組成方法やアレンジ方法があり、家族の状態に合わせて仕組み作りをすることが可能です。

家族信託についてのご相談やお悩みについては、ぜひ専門家にご相談ください。