大手銀行をはじめとする金融機関で「遺言信託」という商品が販売されています。

信託とは資産の管理を委託する制度です。金融機関の「遺言信託」のほかに、最近テレビなどで見かける「家族信託」もあります。

両方とも同じ「信託」ですが、どのような違いがあるでしょうか?

この記事では金融機関の「遺言信託」と「家族信託」について、その違いやメリット・デメリットについて解説していきます。

信託とは

信託とは資産管理を委託する制度です。

例えば「信託銀行」は通常の銀行業務に加えて資産管理などの「信託業務」を行っています。

また、「投資信託」は証券会社等が取り扱っている金融商品の一種で、運用の専門家(ファンドマネージャー)が資金を集め、株式や債券などにまとまった資金を投入して運用益を得ることを目的とする商品です。

このように「信託」は資産の委託や管理を行う制度で、信託銀行・企業の場合は「商事信託」、それ以外の家族信託などは「民事信託」に区分けされています。

では、金融機関が取り扱う「遺言信託」と家族間で契約する「家族信託」にはどのような違いがあるのでしょうか。順にご説明します。

金融機関の「遺言信託」とは

相続対策の一つの方法として、金融機関が取り扱う「遺言信託」という商品があります。

①遺言の作成
②保管
③相続発生時の遺言に基づく執行

相続対策や事前の執行を確実にする目的で用いられています。

この「遺言信託」は金融機関が行う商品・サービスであり、「遺言信託サービス」と言うこともできるでしょう。信託法とは関係なく利用できる商品ということになります。

例えば、もし家族信託で遺言の設定をする場合は、信託法に沿った信託契約であるため一定の規定や縛りがあります。

一方、金融機関の遺言信託は販売商品の1つであるため、信託法の規制を受けることがありません。

このような遺言信託サービスについて、そのメリットやデメリットについてご紹介します。

【1】遺言信託のメリット

金融機関の「遺言信託」には以下のようなメリットがあります。

  • 金融機関という安心できる第三者に遺言を預けることができる
  • 面倒な相続手続きの一部を金融機関が代行してくれる

金融機関が遺言執行者となってくれるサービスであり、金融機関だからこその安心感があります。

遺言を書いてから相続が発生するまでの間に、いろいろと事情が変わる可能性もありますが、銀行に遺言の管理を委託していれば安心して相談できる窓口であるため、大きなメリットと言えるでしょう。

【2】遺言信託のデメリット

一方、遺言信託のデメリットとして以下のような内容があります。

  • 費用が高額である
  • 引受内容は一定の「型」に限られることがある

遺言信託サービスの一番のデメリットはその費用の高さかもしれません。

金融機関により異なりますが、最初の手数料に加えて、遺言者が亡くなるまで毎年、遺言の保管料が必要になるケースが一般的です。

その点から、ある程度の大口顧客を対象としている向きがあり、一般の人には敷居が高いという印象もあるでしょう。

加えて、遺言の引受内容は一定の「型」に限られることが多く、また、遺言書は公正証書での作成を求められます。

これは相続時の争いやトラブルを避ける目的があるためであり、その代わり遺言書の草案から作成に至るまで金融機関がサポートしてくれます。

家族で契約する「家族信託」とは

一方、民事信託である「家族信託」はどのような仕組みなのでしょうか。

家族信託は家族や親族間で契約が成立する制度で、財産管理を家族などの身内で契約できる制度です。その仕組みを用いて相続対策に活用することもできます。

遺言信託サービスとの大きな違いは、生前から自分名義の預貯金や不動産の管理処分を実行してもらえる点にあるといえるでしょう。

信託契約は契約後すぐに開始することもできますし、契約内容を工夫して、一定の条件に合致した時に開始する旨を定める(停止条件付信託)ことも可能です。

自由度の高い資産管理方法だといえます。

【高齢者の財産管理対策】

家族信託は相続対策だけでなく、高齢者の財産管理対策としても利用されます。

高齢になると、自宅の売却をしたくても意思能力が低下して、手続きができなくなる可能性もあります。介助が必要で外出もままならず、預貯金の解約などが難しくなるという事態も起こり得るでしょう。

そのような場合でも、家族信託を契約しておくことで、身内に安心して資産の管理・処分を任せることができます。

【相続対策】

家族信託を相続対策として用いることも可能です。信託契約にもその内容を盛り込んだ上で契約します。

財産を預ける「委託者」が、管理する「受託者(子など)」に、相続する内容を指定して管理を任せ、将来、相続が発生した際に受託者が信託契約に沿って財産を分配する、という流れになります。

信託契約の内容は家族内で決めることができ、自由な設計が可能です。

ただし契約内容に法的な誤りや、記載の仕方によって不意の課税がされる可能性もあります。

後々のトラブルを避けるためにも、専門家の協力を得るなどして誤りのないよう設計しておくことが一般的です。

[1]家族信託のメリット

ここより、家族信託のメリットとデメリットについて見ていきましょう。

仮に認知症が進んで物事の判断などができなくなってしまうと、預金を払い出せない、不動産の売却ができない、といった生活管理や財産管理に問題が起きる可能性があります。

また、高齢になると詐欺や悪質業者につかまってしまう等のリスクも高まります。

誰しも加齢により何らかの能力は低下する傾向にあるため、とくにお金の管理については対策をしておかないと大きな危険にさらされる可能性があります。

そこで家族の協力を得て「家族信託」を契約すると

  • 自分名義の資産も家族に管理や代行を任せることができる
  • 初期費用はかかるがトータルでコストを抑えることができる
  • 相続対策や資産に関する備えも可能となる

このような安心が得られます。

金融機関の遺言信託サービスの費用と比較すると、コストが抑えられるというメリットが大きいといえます。

また、家族信託は、当事者同士で契約を締結すれば効力を生じるため、契約作成や届け出等を全て自力で進めることも可能な制度です。

実務上は課税リスクも生じるため、専門家のサポートを受けながら契約を進める方法をお勧めしますが、この手軽さは他の制度にはないメリットだといえます。

相続対策についても、信託契約に盛り込むことが可能ですので、生前の資産管理・相続準備など、複数の備えを家族信託で準備できる点もメリットとなります。

専門家のサポートを受ける場合

家族信託をする際に専門家のサポートを受ける場合には、専門家に支払う報酬が発生します。

もし信託する資産が少額の場合や、預貯金のみというケースであれば専門家への相談も不要かもしれません。

しかし自宅の処分など不動産が絡む場合や、相続対策も含めるケース、信託契約を次の代も含めて継続したいケースでは、法的な面・税務面で問題はないかどうか、相談やサポートを受ける方が安心です。

専門家報酬は依頼先により異なりますが、家族信託の専門家報酬については遺言信託サービスと比較しても費用を抑えられる見込みです。

また、家族信託の場合には、遺言信託で必要となる保管料のような毎年のコストも原則かかりません。(受託者の監督を専門家に依頼するなど、継続的なサポートを利用した場合を除きます。)

専門家報酬の例

● 家族信託の場合
専門家報酬:30万円程度〜
登記費用(不動産がある場合)
公証役場に支払う費用(公正証書で契約書を作成する場合)

● 遺言信託サービスの場合
スタート時の費用:30万円程度〜
遺言執行時の費用:最低報酬額(例)30万円・77万円・108万円など

金融機関の遺言信託サービスについては、スタート時の費用は同程度だとしても、遺言執行時の費用が非常に大きく、最低報酬額のラインも設けられています。総額ではかなり高額になる印象です。

一方、家族信託の場合は預ける資産の内容によって変動はあるものの、遺言信託サービスと比較しても、かなり低い費用で済む印象です。

相続前の段階から利用できる利点も加えると、低コストで利用できる制度だといえるでしょう。

家族信託にかかる費用の内容や、信託にかかる費用を抑えるポイントについて解説しています。
→『家族信託に必要な費用を解説!費用を抑えるポイントとは?

[2]家族信託のデメリット

遺言信託サービスと比べるとデメリットが目立たない家族信託ですが、ただし、信頼して財産の管理を任せられる親族がいない場合、契約そのものができないという問題点があります。

信頼できる家族の存在が必要

必ずしも親族同士でなくとも家族信託の契約は可能ですが、信頼できる「受託者」として、家族間で役割を担うケースがほとんどです。

受託者になる人物がいない、また、受託者を頼みたくても不安がある、などの問題があるケースについてこちらの記事で解説しています。→『家族信託で受託者になれるのは誰?

預金口座の凍結について

ここまで遺言信託や家族信託について解説してきました。

今、これらの商品や制度が話題になっているのは、高齢者人口の急激な増加や、それに伴う認知症患者数の増加、そして、介護にまつわる負担の大きさが理由だといえるでしょう。

例えば、預金口座名義人の意思能力が低下していることが判明すると、金融機関では口座の利用を停止することがあります。

親から頼まれてキャッシュカードを使ってATMで入出金していたとしても、金融機関は口座名義人の年齢や取引状況をもとに本人に連絡を取り、意思確認をするケースがあります。

本人の意思確認ができない場合、預金保全のため口座の凍結を行うのです。

金融機関から勧められる「後見制度」

口座凍結を受けた後、親族が預金の引き出しや解約を希望する場合、金融機関は法定代理人として「成年後見制度」の利用を勧めます。

成年後見制度は家庭裁判所を通して法定代理人を選定してもらう制度で、期間も費用も掛かります。

口座は一度、凍結されると、親族が希望しても動かすことができないため、後見人を立てるしか方法がない事態になります。

また、後見制度は一度利用を開始すると、基本的に本人死亡の時まで代理人による資産の管理が継続するという特徴があります。

そのため口座が凍結されるという段階に達してしまうと、他の選択肢を選べない事態に陥ることになるのです。

老後対策は今の内容で十分でしょうか?

年齢に合わせて老後資金や介護費用のため、自身の資産を見直す方も多いと思います。その際、このような口座凍結を受けてしまうという重要な問題も想定しておかなくてはなりません。

預金を引き出せなければ親族が立て替える必要も出てきます。介護を担いながらの立替えは、大きな負担となるでしょう。

そのため、高齢期になるほど資産の管理方法や対策を考えておかなくてはならないといえます。遺言書やエンディングノートなどの意思表示に加えて、家族信託などの方法も検討されることをお勧めします。

まとめ

相続のことを想定した場合、遺言信託も家族信託も、円滑に財産を後世に引き継いでいく上ではとても役立つ仕組みです。

ただし相続が発生する「前」にも様々なリスクがあり、家族の負担となる可能性があります。一定の備えが必要となるため、遺言作成と並行して資産管理の準備をしていきましょう。

その際に、個々の家族の状況にオーダーメイドで応えられる「家族信託」の仕組みが今大変注目を集めています。

今回は遺言信託との比較を中心に解説しましたが、他の記事では家族信託の様々な活用方法について記載しています。ぜひ参考にご覧になってください。

【参考】