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今回は、「信託契約を私文書で締結する際の注意点」をテーマにお送りします。
信託契約は公正証書で締結することが一般的ですが、どうしても公証役場で手続きができないケースもあります。
私文書のままでも問題の起きないケースもありますが、公正証書にできないことで不都合の生じるケースもあります。
もしもの場合に備えて、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。具体的な対策法をご紹介します。
目次
金融機関がかかわる場合は公正証書での作成が必須
まず、信託法で信託契約書は、公正証書・私文書のどちらでも作成が可能です。
しかし、実務上、必ず公正証書で作成しなければならない場合があります。それは金融機関が関わる場合です。
公正証書で作成しなければならない例
例えば、金銭を預ける信託口口座を開設する際には、多くの金融機関が公正証書で作成した信託契約書の提出を求めてきます。
- 銀行で信託口口座を開設する場合
- 証券会社で信託口口座を開設する場合
- 銀行で信託内融資を受ける場合
銀行や証券会社で信託口口座を開設する場合、公正証書で作成した信託契約書の提出が求められます。
上場株式を信託する場合も、証券会社で受託者の家族信託用の口座を開設しなければなりません。(参考記事:『株式や投資信託を家族信託する〜証券会社での手続きについて』)
また、信託内融資を受ける場合も、現状では必ず公正証書での締結を金融機関から要請されています。
そのため、受託者が融資を受けてアパートを建てる予定があるような場合は、必ず公正証書で作成する必要があります。(参考記事:『家族信託は「公正証書」が必要なのか。私文書では危険?』)
信託契約書が私文書でも問題ないかどうかの判断
では、信託契約書を私文書で作成しても問題ないかどうかについて、どのような点に注目すると良いのでしょうか?
ポイントは、のちに契約内容について争点となる可能性があるか否かにあります。
(1)家族の関係性
家族の関係性が良くなかったり、この人には相続させたくないという事情がある場合に家族信託を利用して相続対策をするケースがあります。
相続が発生した時に争いとなる可能性がある場合には、なるべく私文書で締結することは避けたほうが良いでしょう。
また、私文書で締結する場合でも、後述する「私文書による争いを防ぐ方法」を参考に対策を取って頂きたいと思います。
(2)委託者の判断能力
委託者の判断能力について疑わしいという場合は公正証書による作成を希望し、公証人の判断を仰いだほうが良いでしょう。
委託者の意思能力に疑いがあり、公正証書で作成できない場合には、契約書に署名捺印する場面を動画撮影しておいて、後で契約時の委託者の判断能力が争点となった場合に、その動画を見せて判断能力があったことを主張できるようにしておく方法も有効です。
認知症の進行度合いによっては信託契約をはじめとしてさまざまな法的行為が難しくなります。
こちらの記事『家族信託は認知症発症後からでも可能?いつ家族信託を始めるべき?』も参考に、できるだけ早期の対策を考えるようにしましょう。
(3)信託財産の種類によっては私文書でも問題なし
信託する財産の種類によっては金融機関との取引のため、公正証書での作成が必須となる信託契約ですが、なかには私文書でも問題の起きないケースもあります。
自宅を信託する場合
自宅を信託する場合、今後、自宅を担保に入れて融資を受ける予定がなかったり、ローンが完済されているのであれば、私文書でも特に問題になることは考えられません。
介護費用のために自宅を売却するような場合には不動産会社と司法書士が関わってきますが、信託契約は私文書で問題ありません。
なぜなら、彼らは登記簿を確認して信託の有無や有効性を判断し、信託契約書の作成様式には踏み込まないからです。
自社株式を信託する場合
自社株式を信託する場合であれば、基本的に担保に入れたりすることがないので金融機関が関わる可能性もありません。私文書で作成しても問題になることは少ないかと思います。
信託契約の無効を主張されるときの争点
信託契約の無効を主張されるときの争点としては次の3点が考えられます。
(1)日付
その日付の時点で信託契約は成立していなかったと主張される可能性があります。
(2)署名・捺印
信託契約書に実印が押されていたとしても、その実印は違う人が勝手に押したと主張される場合もあります。
(3)内容
契約書の内容が改ざんされただとか、そもそも内容が間違っていると主張されることが考えられます。
これらを防ぐためにはどのような制度が設けられているでしょうか。
私文書による争いを防ぐ方法
最後に、やむを得ず私文書で信託契約書を作成する際に、少しでも紛争を防ぐための方法をご紹介します。
【1】 確定日付の付与
私文書で作成した契約書には、少なくとも確定日付の付与をお勧めします。
これは公証役場や法務局でその文書がその日に存在したことを証明してもらう制度です。
契約当事者ではなく代理人にて手続きをすることが可能です。公証役場に支払う手数料も700円と高くありません。
【2】私署証書の認証
公証役場で文書の署名・押印が確かに本人によるものであるということを証明してもらう制度です。
手数料は、だいたい5000円から1万1000円の範囲内です。
【3】宣誓認証
私文書の作成者が公証人の面前で当該私文書の内容が真実であるということを宣誓し、認証してもらう制度です。
【1】【2】と異なり、宣誓認証では、公証役場に文書を1通保管してもらえるので、内容を改ざんされる恐れはありません。
宣誓認証であれば上記3点の争点はクリアできます。
なお、文書の記載が虚偽であることを知って宣誓した場合には、本人に対し過料が課される可能性がありますのでご注意ください。
私文書の際は3つの対策を
信託契約は金融機関がかかわる場合を除いて、私文書でも締結することができることをお話ししました。
その際、
① 確定日付の付与
② 私署証書の認証
③ 宣誓認証