今回は、家族信託の組成を検討する際、よく生じる「問題」について考えていきます。

高齢の親がまだまだ元気な場合、家族信託などの認知症対策や相続対策の話をしていて、前に進まなくなることがあります。

本人から「待った」が入ってしまうケースですね。

家族信託をすると、不動産の登記名義が変わることになりますし、信託用として金銭なども受託者の口座に送金しなければいけません。

いざ取り掛かろうという際に、まだ資産を手放したくないという気持ちが強くなることがあります。

ただ、家族としては「いつ、何があるかわからない」という不安もあり、悩ましい状況になってしまいます。

こんな状況を打開する方法として、家族信託に「停止条件付」を設定する方法があります。

家族信託の「停止条件付」とは?

停止条件とは、「一定の条件が成立した場合に法律効果を発生させる条件」を指します。

贈与契約を例にすると、「資格試験に合格したら、車を1台あげるよ」といった契約が停止条件付契約になります。

この場合の停止条件は「資格試験に合格する」です。

所定の条件が成立するまでの間、契約の効力を停止させることになり、一定の事実が発生したときに初めて法律的な効力が生じることになります。

停止条件を家族信託に応用した場合

今回の家族信託のケースでは「認知症による判断能力の低下」を条件に、信託契約が効力を発するように設計することになります。

この停止条件を家族信託に活用すると、

  • 委託者が元気なうちに家族信託契約の契約はするが、元気なうちは信託契約の効力発生を停止しておく
  • いざとなったときに家族信託の効力が発生し、契約に基づいて資産の名義変更を行う

このような契約を作ることができます。

この形であれば、早めに家族信託の契約をしておきたい家族と、自分が元気なうちは資産の名義変更をしたくない委託者の両方の希望に沿うことができるでしょう。

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【注意点】具体的な停止条件を設定する

停止条件付の家族信託をするときは、注意点があります。

それは、停止条件の成立が明確になるような条件にしておく、ということです。

例えば、「認知症により意思能力が低下した場合」という条件にして契約書に記載してしまうと、

  • どの程度意思能力が低下した時なのか判然としない
  • いつの段階で条件に該当するのか判断できない

このように、意図していたタイミングでの効力発生ができなくなる可能性があります。

そのため停止条件付の家族信託契約を締結する場合には、その停止条件の定め方を慎重に検討する必要があるのです。

《停止条件の例》

例えば以下のような停止条件が考えられます。

  • 「医師から後見相当または保佐相当であるという診断を受けたとき」
  • 「要介護認定を受けたとき」
  • 「契約から3年を経過した日」
  • 「委託者(父)が書面によって家族信託契約の効力を発生させたい旨、受託者(息子)に意思表示をしたとき」

このように客観的に分かる内容で、具体的かつ明確な内容に設定します。

また、条件の定め方は自由ですので、当時者間で合意が取れるのであれば、

  • 複数の条件のいずれかが成就した時

このような定め方も可能です。

お父様が納得する条件を決めることができれば、家族信託の手続きもスムーズに進めることができるでしょう。

【注意点】意思能力のある段階で条件を達成する

委託者が元気なうちに信託を進める方法として、停止条件付信託は非常に優れています。

ただし、実際に停止条件が成就して信託契約が開始する時こそが、重要なタイミングです。効力発生時に【委託者の意思能力】が非常に重要となるからです。

例えば、家族信託の対象財産に不動産が含まれている場合、家族信託の効力が発生(停止条件が成就)してから信託契約が開始し、信託資産の登記等の手続きをすることになります。

ここで、停止条件を「委託者の意思能力喪失」としていた場合、条件が成立した時(家族信託の効力発生時)には、委託者は意思能力を失っていることになります。

これでは登記の手続きができない、という問題が発生してしまうのです。委託者に成年後見人をつけて登記手続きをするしかありません。

そのため、停止条件付の家族信託をする場合には、

① 意思能力喪失のタイミングよりも早い段階で設定しておく
② 併せて任意後見契約も締結する

このような設定をおすすめします。

① 早めの停止条件にする

まず、停止条件の内容を、意思能力喪失のタイミングよりも手前に設定しておく方法が考えられます。

● 要介護1の認定を受けたとき
● 委託者と受託者が、委託者の状況を鑑みて協議の上合意した時

ちなみに介護が必要な段階を表す「要介護度」は、「非該当」から「要支援1〜2」「要介護1〜5」の順で支援度が重くなります。

「要介護1」の場合、要介護の中で最も介護の必要性が低く、生活の一部で介護が必要な状態に該当します。

厚生労働省のデータによると、要介護1と認定されているのは約132万人で、全体の約2割です。

委託者と受託者で相談の上、信託開始に問題のないよう、早めの停止条件にしましょう。また、条件は複数設けることも可能です。

② 併せて任意後見契約も締結する

停止条件付の家族信託をする場合に、併せて任意後見契約をしておくと、もしもの事態に備えることが出来ます。

任意後見人に、信託財産の登記に関する権限を付与して契約をしておきます。

家族信託の効力発生と併せて任意後見の効力も発動させることで、任意後見人が本人に変わって登記の手続きを進めることができるようになります。

ケガや病気など、症状によっては急速に悪化するケースも起こり得ます。任意後見人を契約していれば、もし急速な悪化で意思能力を失ってしまっても、手続きを進めることが可能です。

任意後見も後見制度の一種であり、家庭裁判所や任意後見監督人という第三者の介入がある制度ですが、元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、委託者が希望する人物を任意後見人として契約しておくことが可能となるため、メリットのある組み合わせ方だといえるでしょう。

まとめ

いくら認知症対策だといっても、まだまだお元気なお父さんにとっては、不動産などの名義を息子に移してしまうことには抵抗があるものです。

そんな場合には、家族信託に「停止条件」を付けることも検討してみるとよいでしょう。

※参考記事:『【停止条件付信託】認知症になった時に家族信託を始める方法

今回いくつか停止条件の例を提示しましたが、実際にはいくつかの条件を組み合わせて作成します。

● 具体的な停止条件
● いくつかの条件を組み合わせる
● 委託者が意思能力を喪失する前の段階にする
● 委託者が納得するタイミングにする

上記のような条件を作成し、そして、「信託開始時点で委託者が意思能力を有していること」が非常に重要です。

また、停止条件付家族信託の仕組みでは法的な整合性が重要となります。信託契約が無効などの扱いにならないよう、信託契約組成の際は、ぜひ司法書士等の専門家へご相談ください。