民事信託とは、信託法という法律に基づく個人の財産管理手法の一種です。

主に高齢者の財産管理のために活用されており、日本の高齢化の進行を背景に、その注目度は年々増加しています。

この記事では、信託分野の民事信託と、なぜ家族信託が必要なのか、高齢期のリスクを含めて解説します。

信託とは?

信託とはその文字通り、自分の財産を他人に「信じて託す」行為を言います。多くの場合、財産の取り扱いについて設計された法的枠組みを意味します。

委託した人が、信頼する人または専門家(受託者)に託し、運用・管理を任せる法的な枠組みです。信託の目的に沿って、所有する金銭や土地などの財産を管理・運用してもらいます。

そして「信託」と聞くと、思い浮かぶのは「信託銀行」や「投資信託」という言葉かもしれません。

信託銀行は、預金・貸出・為替などの「銀行業務」に加えて、信託業務などを許可されている金融機関です。

金銭の信託や有価証券の信託といった「信託業務」、不動産仲介や証券代行、相続関連業務といった財産の管理・処分等に関連する「併営業務」があります。

利用するとコンサルティングやライフプランなどの生活設計のアドバイスを受けることができ、遺言の作成・保管、遺言の執行を引き受ける「遺言信託」や、遺産整理業務などを受けられる信託銀行もあります。

投資信託は、信託会社や信託銀行に自分の財産を預けて、自分の代わりに投資運用してもらうというものです。

つみたてNISAやiDeCoなど、投資信託商品の非課税優遇制度を利用して投資している方も多いことでしょう。

投資信託という少額から購入できるパッケージ型の金融商品を買うことで、リスク分散を意識した投資が可能となります。

このように、信託法で管理されている信託は、意外に身近な存在なのです。

民事信託とは何か?

では、「民事信託」とは何を意味しているのでしょうか?

個人間で信託を行うことを民事信託と言います。企業が行う「商事信託」との区別を明確にするため、民事信託という呼称になっているのです。

商事信託との違い

商事信託とは、この記事の冒頭で触れた「信託銀行」や「投資信託」のことです。つまり、商業目的・営利目的でビジネスとして展開されている信託を指します。

信託銀行では銀行業務に関する手数料がかかり、投資信託商品の場合は販売手数料、信託報酬、信託財産留保額など、各種手数料が発生します。

一方、商事信託ではない民事信託とは、ビジネス目的ではない信託のことを指します。目的が異なるため、民事信託は信託業法の対象から外れています。

家族信託との違い

財産管理で用いられている「家族信託」は民事信託に含まれる制度です。

大きな意味で、ビジネス目的ではない信託が民事信託であり、民事信託の枠組みのうち、家族内で結ぶ信託契約が家族信託ということになります。

民事信託の区分けによっては、高齢者や障がい者等の生活支援のための信託を「福祉(型)信託」と呼ぶこともあります。

家族内で契約する「家族信託」ですが、財産管理(受託者の仕事)を信頼できる人物に委託することもできますので、必ずしも家族内で完結する仕組みとは限りません。

高齢期に備えて家族や第三者に財産を託す方法であるため、ある意味、家族信託も「福祉型の家族信託」ということもできるでしょう。

なぜ民事信託が活用されるのか

民事信託・家族信託は、冒頭で触れたとおり、高齢者の財産管理の方法として活用されています。

では「高齢者の財産管理」には、どのような大変さがあるのでしょうか。その難しさについても解説していきます。

高齢者の財産管理の重要性

高齢になり判断能力などが低下すると、振り込め詐欺に遭ってしまう、悪質業者につかまってしまう、といった、犯罪に巻き込まれる可能性があります。財産を失うと、老後の生活が成り立ちません。

また、認知症が進行して物事の判断などができなくなってしまうと、銀行口座からお金が下せない、不動産の売却ができない、といった、生活管理や本人の財産管理において重大な問題が発生してしまう可能性もあります。

誰しも加齢により何らかの不自由さが出てくるものですが、生活管理・財産管理に大きな支障が起きやすくなるのです。

とくに財産については一定の対策をしておくことが重要だといえます。

財産管理に後見制度を利用した場合

上記のリスクに対抗する手段として、国が用意している「成年後見制度」という制度があります。

金融機関でも、口座名義人の意思能力が低下していると判明した場合、この後見制度の利用を勧めます。

成年後見人は家庭裁判所が選任した法定代理人となるため、金融機関の立場としても、正しく安心して取引できる代理人だからです。

ただし、後見制度を利用すると、それほど多くもない預貯金の管理であっても家庭裁判所や後見人という第三者の介入を受け、また、専門家が後見人や後見監督人に就くケースが多いため報酬の支払いも必要となるという負担があります。

対外的にはきちんとした代理人を設定できるのですが、高齢者のサポートをする身内にとって、後見制度は経済的にも負担が増える可能性があるのです。

成年後見制度については専門家会議も設定され、大規模な改正が予定されています。今抱えている課題の解決も想定されていますが、改善内容を享受できるのはまだ先です。

現段階では、今、利用できる制度を活用して高齢期・介護費用の備えをすることになります。

財産管理に家族信託を利用した場合

家族信託は、成年後見と同じように高齢者の財産を第三者が管理できる制度です。

信託契約時点で委託する人の意思能力や契約能力が維持されていることが条件となりますが、管理を依頼した「委託者」の財産を、引き受けた「受託者」が管理・処分できるようになります。

「介護施設に入る費用は自宅を売却すればいい」
「介護費がかかるなら定期預金がある」

そう思っていても、名義が自分の名前であれば、意思能力が低下した時に売却も解約もできなくなります。

「費用はとりあえず立て替えてもらって、相続の時に財産を受け取ってもらえれば」

そう思っていても、何かしら生活サポートや介護を背負いながら金銭の負担までするのは家族にとって大きな負担となるのです。

また、自身の財産から生活費や介護費をきちんと払っておいた方が、相続の際に課税対象となる資産が減るため税金の面で有利となります。

家族信託の契約は急増中

このように、高齢期の財産管理に家族信託の制度は非常に便利であり、管理者も家族の中から選ぶことができるという自由度の高さから、成年後見に代わる制度として注目されています。

成年後見制度は家庭裁判所に申し立てますが、申立件数は毎年35,000件程度でずっと横ばいの状態です。

一方、家族信託の動向を表す不動産の信託登記の件数は年々増加しています。

例えば自宅の処分等の管理を家族に委託した場合、登記情報も受託者の名前を入れて「信託登記」を行うため、その数字を集計することができるのです。

平成27年には年間4,257件だったものが、わずか4年後の令和元年には10,071件と倍以上の増加を見せ、増加し続けています。

すべての家族が不動産を信託するとは限りませんので信託契約の一部だといえますが、その数字ですら急激な増加を見せているのです。

まとめ

以上、民事信託について解説をしてきました。

民事信託とは、商事信託と対をなす言葉であり、信託会社や信託銀行ではなく、家族間で財産を託す制度であること。

民事信託は家族信託とはほぼイコールであること。

民事信託は、高齢者の財産管理の方法として、成年後見制度に代わる制度として注目を集めていること。

このようなポイントがあることが分かりました。

家族信託は信託契約を結ぶため難しく感じる向きもあるかもしれませんが、遺言書の作成や贈与契約などと同じように、自身の財産管理についての法的な行動でもあります。

こちらの記事『【家族信託入門】仕組み・メリット・デメリットについて』でも家族信託について解説していますのでぜひご参照の上、利用をご検討いただけたらと思います。