家族信託は認知症発症後からでも可能?いつ家族信託を始めるべき?

家族信託は認知症発症後からでも可能?いつ家族信託を始めるべき?

最終更新日 更新日: 公開日 公開日:

現在日本は、世界でも類を見ないほどの「超高齢社会」となっています。

そこで、問題になってくるのが、今まで築き上げてきた高齢者の財産をどのようにして守っていくかという点でしょう。

高齢者の財産管理としてよく知られている方法に「成年後見制度」がありますが、近年では「家族信託」を利用する人が増えてきています。

この記事では「家族信託」という制度がどのように認知症対策に役立つのか、また、認知症の進行度と利用できる制度について解説します。

家族信託が注目されている理由とは

家族信託とは、「信託」という文字通り、第三者に自分の資産や財産を託すものです。つまり「家族信託」とは、家族に自分の財産の管理を任せる契約を指します。

高齢者が財産を第三者に預ける制度としては、家庭裁判所に申し立てる「成年後見制度」がよく知られています。

ただし裁判所への申し立ては認知能力が確実に低下した後に限られます。

後見人として司法書士・弁護士などの専門家が就くケースが多く、しかも後見人への報酬も毎月必要です。

一方、家族内で財産管理についての契約を結ぶ「家族信託」は、財産を所有する本人に判断能力がある段階から契約を結ぶことができ、自分の家族や親戚に財産を託す方法です。

2007年(平成19年)に「改正信託法」が施行されて以降、この制度が注目されるようになりました。

注目の理由として、親族側から見ても自由度の高い制度であり、高齢者の財産の管理と相続人へのスムーズな遺産の引き継ぎが可能になる等のメリットがある点が挙げられます。

家族信託のメリット

ここからは家族信託の特徴やメリットについて見ていきましょう。

メリット[1]手続きが比較的手軽

1つ目のメリットは、手続きが比較的手軽な点です。

成年後見制度では、後見人の選任などの手続きを全て家庭裁判所が行うことになります。申し立てに必要な書類も多く、手続きには数か月かかります。

一方、家族信託の場合は基本的に委託者と受託者の間で契約し、契約書を作れば成立します。成年後見制度に比べると手続きも複雑ではなく、依頼する人と引き受ける人の負担も軽い傾向にあります。

メリット[2]管理する人への報酬を抑えられる

2つ目は、基本的に管理する人に対する報酬がかからない点です。

成年後見制度では、後見人には弁護士や司法書士といった専門家が就任し、業務として後見業務を行うため報酬が発生します。

しかも、この報酬額は家庭裁判所が決めた報酬額を支払わなければならないルールです。

一方、家族信託の場合は報酬のやり取りは家族内で完結します。作業に見合う報酬も信託契約で自由に設定できます。そのためコストの面でも優れているといえるでしょう。

メリット[3]財産の把握が容易

3つ目は、家族信託ならば自分の財産の状況を把握しやすい点です。

成年後見制度の場合は家庭裁判所や専門家後見人の管理下に入るため支出制限も多く、本人を含めて家族も、資産・財産がどのような状態になっているか把握できないまま託すことになります。

これに対して家族信託の場合は、基本的に家族内の契約で財産管理を行うため、託した本人も自分の財産を把握することが可能です。

また、身内の中での支援的な支出をすることもあるかと思いますが、家族信託であればそのような支出についても予定通り、希望通りに行うことができます。

家族信託のデメリット

このように利点の多い家族信託についても、デメリットがいくつかありますのでご紹介します。

デメリット[1]

デメリットの1つ目は、家族信託で財産を預かった人(家族信託の「受託者」)は、本人の法的な代理人ではないという点です。

家族信託の受託者は本人の財産を管理するだけであり、法的な代理人の役目を担うことができません。

そのため例えば、介護施設との契約や、本人が加入している保険に関する情報の開示を保険会社に求めるなどの行為については、家族信託の受託者の行為には含まれていません。

法的な代理人が必要な場合は後見人制度を利用する必要があります。

デメリット[2]

2つ目は、財産を管理する「受託者」を選ぶ際に、身内の中でトラブルになる可能性があるため注意が必要だという点です。

家族信託は、財産を持っている人(委託者)と受託者の合意で成立するという便利な制度である一方、その他の家族・親戚から、資産を使い込むのでは、相続財産が減るのでは、といった疑いを持たれて親族間トラブルになる可能性もあります。

成年後見制度は家庭裁判所が後見人を選びますし、第三者である専門家が後見人になるケースが多いためこのようなトラブルは起きにくいといえますが、家族信託を利用する場合は他の家族・親族への周知や理解を得るステップが重要となるでしょう。

このような家族信託のメリット・デメリットについて、また、仕組みや費用の面についてこちらの記事でも詳しく解説していますのでご参照ください。
→『家族信託とは?メリット・デメリット・費用をわかりやすく解説

家族信託に適した事例

ここまで家族信託のメリット・デメリットについてご紹介しました。それらを踏まえた上で、家族信託はメリット面が多く、認知症に備えた対策としてお勧めの制度です。

そこで家族信託に適した事例を3パターンご紹介します。

(1)資産家の世帯

まず1つ目は、資産家の世帯です。

多くの財産がある世帯、特に多くの不動産を持ち、賃貸住宅として貸出しをしている世帯には、家族信託が効果的です。

もし、家族信託の契約を結ばないまま認知症になってしまった場合、不動産の賃貸借契約や売買契約の際には成年後見制度を利用しなければならなくなります。

早期に家族信託契約を済ませておけばその段階から受託者に管理を依頼することができますので、不動産の所有者が認知症になった後でも、賃貸住宅の管理、不動産の運用・処分についての不安がなくなります。

(2)障がいのある子がいる世帯

次に2つ目は、障がいのある子がいる世帯です。

子に障がいがある場合、将来、両親の相続が発生した際に、その子が財産を相続しても自分で財産を管理することが困難であることもあるでしょう。

そこで、家族信託により周囲の家族・親戚を受託者として、その子のために財産を管理してもらうことが可能となります。

(3)親が経営者である世帯

3つ目は、親が自ら事業を行っている世帯です。

親が自社の株式の多くを所有している場合、親から子へ株式を渡したいときに、資金や贈与税の面で苦慮することがあります。

ある程度株価がついていると贈与では贈与税の問題が発生し、売買しようとすると買取資金の問題が発生するからです。

このような場合、家族信託を使って子に株式を信託する方法を取ると贈与税が発生せず、また買取資金も不要となります。

家族信託の活用方法については、こちらの記事『認知症対策だけじゃない!家族信託のメリット』でも解説していますのでぜひご覧ください。

家族信託の契約には本人の意思能力が必須

このように活用度の高い家族信託ですが、利用する際には「委託者(親などの高齢者)」の意思能力が重要となります。

信託契約である以上、当事者には契約の内容を理解する「意思能力」が必須だからです。

では、家族信託の契約のために、委託者の意思能力はどのくらい必要なのでしょうか。また、どのように判定されるものなのでしょうか。

すでに「認知症」等の診断を受けている場合の対策法についてもご紹介します。

【1】認知症の段階について

現在、日本国内の65歳以上の高齢者のうち、認知症を発症している人は約15%と推計されています。かかりつけ医で「認知症」と診断されているケースもあるでしょう。

ただし同じ「認知症」という診断でも段階があり、ある程度の判断能力がある場合の「軽度認知症」であれば、家族信託を利用できる可能性があります。

軽度認知症は認知症の一歩手前の段階で、判断能力が正常と認知症の間の状態とされるものです。日常生活にはほとんど支障はないものの、物忘れのような記憶障害が見られる状態を指します。

▼ 認知症についての具体例

では、財産の所有者(家族信託の「委託者」)が下記の状況にある場合、家族信託を利用することはできるのでしょうか。

  • 最近、認知症と診断された
  • 要介護認定を受けている
  • 認知症と診断された方が多く入居する施設への入居が決まっている

上記のような場合、家族信託の契約は不可能ではありません。

信託契約を締結する際に、司法書士などの専門家が面談を行い、委託者の意思能力を判断します。また、信託契約の内容を現在の意思能力に応じた内容に変更することで契約が実現する可能性もあります。

委託者の意思能力の確認方法については後述しますが、不安のある場合はぜひ司法書士等へご相談ください。

家族信託を契約する際の意思能力の重要性について、こちらの記事でも解説しています。
【家族信託と認知症】自分の名前を書けないと家族信託はできない?

【2】委託者の意思確認を行うのは誰?

家族信託の成立には、当事者にその意思があることが前提となります。その意思確認は「だれが」「どのように」行なうのでしょうか。

契約書を公正証書で作成する際にかかわる「公証人」、そして、信託についての相談や信託不動産の登記で関わる可能性のある「司法書士」が行う意思確認について解説します。

◎公証人(公証役場)

まず、意思確認を行う人物として公証役場の「公証人」が挙げられます。

家族信託の契約書は私文書で作成しても有効に成立しますが、実務上は公正証書を作成するケースがほとんど(弊社でも8割が公正証書で契約)です。

これは、契約行為の真正が担保され、また、金融機関での取扱いの際に公正証書での信託契約書を求められることが理由です。

【信託契約書を公正証書で作成する意味】

公証役場では、公証人が本人確認の上で、契約内容と当事者の意思確認を行い、契約書を公正証書にします。

信託契約書の内容は10〜15の条文で構成され、法律用語が連なっており、難易度の高い内容です。

そのため、公正証書で作成することにより、契約行為の真正が担保され、委託者(財産保有者)の意思能力に問題のない事が証明されるのです。

契約内容を読みこなして内容をすべて理解するのはなかなか難しいといえますが、信託契約の内容のポイントさえ理解していれば、問題なく信託契約を結ぶことができます。

このように、公正証書で信託契約書を作成することで、契約内容だけでなく、委託者の意思・判断能力について公証人は有効だと判断したということを意味することになるのです。

◎司法書士

信託の対象に不動産が含まれ、登記を司法書に依頼する場合、信託についての登記は通常の登記内容とは記載内容が異なるため、司法書士に依頼して登記を行う方法が一般的です。

その際、内容確認のため司法書士による意思確認が行われます。

また、契約内容を決める段階から依頼することで、委託者(財産保有者)の意思能力に応じた内容にて信託契約を設計することも可能です。

登記部分の依頼に限らず、信託契約の設計についても司法書士へご相談ください。

▼認知症テストが実施される場合

公正証書を作成するときの公証人や、登記事務を依頼するときの司法書士による意思確認は、本人が事案を理解し、自ら意思決定しているかという点を確認します。

この場合は公証人や司法書士による主観的な判断になりますので、別途、認知症テスト「長谷川式認知症スケール」(一番有名な認知症テスト)を実施するケースもあります。

このテストでは30点中20点以下の場合、認知症の疑いがあると考えられています。

【3】公証役場ではどのような質問をされる?

では、意思能力の確認のためにどのような内容を質問されるのでしょうか。公証役場で行われる質問の主な内容として以下の4点が挙げられます。

① 委託者本人の氏名・住所・生年月日
② どの財産を信託に入れるのか
③ 誰に財産を託したいか(=受託者を誰にするか)
④ 自身が亡くなった後、誰に財産を承継(相続)させたいか

このなかで、①「委託者本人の氏名・住所・生年月日」は回答必須の質問です。

公証人ははじめに契約締結者の本人確認をおこなうため、印鑑証明書や運転免許証等の身分証明書を照合して確認します。

②「どの財産を信託に入れるのか」については、

信託財産の額(いくら位を信託するのか) 信託する不動産の種類(例:自宅、賃貸している不動産、土地/場所や建物の名前など) 有価証券(運用している証券会社など)

このような内容を問われます。

不動産については、その地番や家屋番号まで詳細に言える必要はありません。

実務では「自宅裏のアパート」、「3軒隣の土地」など大体の場所をヒアリングしながら、地図で場所を回答できるか、などの方法で判断します。

委託者と受託者との間で共通認識が持てていれば問題ないものとみなされます。

③「誰に財産を託したいか(=受託者を誰にするか)」については、例として「長男に託す(=長男を受託者とする)」や、「長男に万が一のことがあった場合には次男に託す」などの内容を指します。

次の受託者まで言えることが望ましいとされています。

④「自身が亡くなった後、誰に財産を承継(相続)させたいか」については、財産の承継先、相続先を具体的に意思表示できるかということです。「金銭は長男と次男で半分ずつ、自宅は妻に」などが例となります。

家族契約ではどの財産を誰に渡したいのかという項目を非常に重視するため、重点的に確認される傾向にあります。

以上のとおり、この4点について委託者が理解していた場合、たとえ認知症の診断を受けた経験があったとしても家族信託の契約を進めることができる可能性があります。

なお、実務においては委託者の家族事情(相続人の関係性)や信託契約の内容から意思能力を慎重に判断するケースもあります。

また、信託契約の内容が複雑になると、その分だけ委託者に要求される意思能力のレベルも高くなります。

意思能力の判断について、こちらの記事『自分の名前を書けないと家族信託はできない?』でも解説していますのでご参照ください。

認知症が進行したあとでも可能な対策

もし親が認知症を発症し、家族信託ができなかったら、どのような対策を取ったらいいのでしょうか。 対策をしていない段階で認知症が進行してしまった場合について考えてみましょう。

[1]認知症が進んでからでも専門家へ相談を

家族から見て親が認知症を発症したと思っていても、「軽度認知症」の可能性も否定できません。まずは契約能力について、弁護士、司法書士、行政書士などの専門家にご相談ください。

家族信託の実務に習熟している専門家であれば、契約の可能なレベルにあるかどうかのアドバイスができます。

また、仮に判断能力が低下していても、信託契約の内容を変更することにより信託契約が可能となる場合もあります。

[2]成年後見制度

認知症を発症した後であっても、家庭裁判所を経由する「法定後見制度」を利用することで、財産の管理は可能となります。

成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」の2通りの方法があります。

「任意後見」…判断能力のある段階で事前に準備をしておく制度
「法定後見」…完全に判断能力を失った後で取り掛かる後見制度

◎任意後見制度

この制度は本人に十分な判断能力があるうちに、任意の人物に将来後見人になってもらう契約を結ぶものです。後見人との事前の契約が必須です。

後見の内容は、自分の判断能力が不十分な状態になった時に、自分の生活、療養看護、財産の管理などの手続きに関する代理権を与えるというものになります。

代理権は、生活や財産など、極めて重要なものになるので、「公正証書」での契約が必須となります。

任意後見人については特に制約はなく、親族でもいいですし、つながりのある弁護士や司法書士などの専門家でも構いません。

これから説明する法定後見と異なり、後見人を誰にするかを自由に決められるのが任意後見制度の特徴です。

◎法定後見制度

判断能力が低下した状態でも手続きを開始できるのが「法定後見制度」です。

法定後見制度は親族等(本人、配偶者、4親等内の親族)が家庭裁判所に申立てることで利用を申請します。

本人は物事を十分判断できなくなっていますから、申立の手続きには医師の診断書が必須であり、本人の居住地を管轄する家庭裁判所に申立てます。

家庭裁判所で審問・調査・鑑定などが実施された後、適切な成年後見人が選任され、この決定に不服申立がなければ、成年後見人が審判書を受領した2週間後に確定します。

しかし、法定後見制度では、後見人に全ての財産を託することになり、相続税対策や投資の運用などで資産・財産を積極的に生かすことはできなくなります。家族信託に比べて、財産管理の自由度が低くなるのです。

また、「法定後見制度」を利用した場合には後見人への報酬も負担となります。

法定後見は一度開始すると基本的に中止することができないため、本人が亡くなるまで本人の財産から後見人の報酬を払う必要があります。

家族信託も、開始する際に専門家のサポートを受けた場合には数十万を超える費用が発生しますが、信託が開始した後は基本的に報酬などは発生しません。長期的に見た場合の利便性は高いといえます。

[3]法定後見制度の特徴

それでも契約する能力が失われているとされる場合、成年後見制度の中の「法定後見制度」を選択することになります。

【法定後見制度の特徴】

法定後見制度は、本人の財産を守ることを目的としているため、財産の管理方法が厳格であるという特徴があります。

  • 後見人には専門家等の第三者が就任することが多い
    ※本人の財産が少ない場合には、親族が後見人になれる場合もあり
  • その場合、専門家後見人への報酬が必要(年間24万円〜数十万円)
  • 本人の印鑑や通帳、不動産の権利証などすべての財産を預託する
  • 法定後見は一度、利用を開始すると、基本的に本人が亡くなるまで続く
  • 親族は本人の財産を自由に触ることができなくなり、本人の財産の使い方についてはすべて後見人が決定する
  • 相続税対策などの節税対策ができなくなる

このような特徴を事前に把握しておきましょう。負担として目立つのは後見人への報酬だといえます。

財産を動かしたり法的行為で困らないために利用する制度ですが、毎月必要となる報酬は非常に重いコストとなりそうです。

早期の段階で対策を

以上のように、老後の対策をするには財産保有者本人(家族信託の「委託者」)の意思能力の有無が重要となります。

認知症と診断されていることで即、利用できないということにはなりませんが、契約能力の判断に不安がある場合などは司法書士等の専門家にご相談ください。

信託契約については、現在の判断能力でどのような内容の契約を成立させることができるか、信託契約とのバランスも取りつつ内容を詰めていく方法もあります。

また、契約内容や文言によっては贈与税や相続税の不意の課税を受ける可能性もあるため内容作成の際は注意しましょう。

そして何よりも、資産保有者本人の意思能力が選択肢のポイントとなります。老後対策を検討している場合は、できるだけ早期に準備することをお勧めします。

カテゴリー: 家族信託入門5選

この記事の監修者
梶原 隆央(かじわら たかひさ)

司法書士
梶原 隆央(かじわら たかひさ)

神奈川県出身/平成21年司法書士資格取得 トリニティグループの信託部門にて、実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。

わたしたちについて ≫

完全版 大切な家族の未来を守る家族信託とは?家族信託の仕組みから専門家のアドバイスまで!家族信託を検討中の方向け。詳しくはこちら 完全版 大切な家族の未来を守る家族信託とは?家族信託の仕組みから専門家のアドバイスまで!家族信託を検討中の方向け。詳しくはこちら
電話 電話で相談 メール お問い合わせ

電話受付時間 10:00-19:00/土日祝も対応