家族信託において、通常は、委託者(兼受益者:親)のほうが、受託者(一般的に「子」)よりは年齢的に先に死亡する場合のほうが割合としては多いわけですが、受託者のほうが先に亡くなってしまうということも当然ありえます。

では受託者が先に亡くなってしまった場合、家族信託はどうなってしまうのでしょうか?

今回は、受託者が先に死亡した際に家族信託がどうなるのか、また、財産の取り扱い方法や次の受託者の選定について解説します。

受託者が死亡したら家族信託は終了する?

信託契約については、受託者が先に死亡したとしても通常は終了しません。

信託法は委託者の財産管理を目的としているため、受託者の死亡を信託の終了事由とはしていないためです。

ただし、受託者の死亡後、新受託者が就任しない状態が1年間続いてしまうと、信託は終了します(信託法163条3号)。

受託者不在の信託を長期間継続させることは望ましくないことが理由です。

ただし信託契約で「受託者が死亡したときは終了する」と定めていた場合は、受託者の死亡により終了しますので、必要に応じての終了も可能です。

信託財産は受託者の相続財産になるの?

相続は人が亡くなると同時に開始しますが、信託契約上の受託者が死亡した場合、信託財産はどうなるのでしょうか。

信託法上、信託財産の所有者は受託者ということになっています(信託法2条3項)。

所有者である受託者が亡くなった場合の取り扱いに違いはあるのでしょうか。

まず、信託財産は信託契約で管理されているため、受託者を起点とする相続財産にはなりません。(信託法74条1項)

信託財産の所有者は受託者ではあるものの、委託者により依頼された信託契約の目的があります。受託者は所有者であっても、形式上の所有者という立場です。

そのため受託者が亡くなった場合でも、信託財産については民法による相続で動くことはなく、信託法に沿って処理されることになります。

信託法は民法に優先する特別法であるため、信託財産は新しい受託者(新受託者)に承継されます(信託法75条1項)。

新受託者はどう決める?

新受託者には誰がなるのでしょうか。

信託契約に新受託者(第二受託者)に関する規定を設けている場合は、その定めに沿って新受託者に引き継がれます。

契約内での新受託者の定め方は、

(1)信託契約で特定の人物を指名しておく
(2)新受託者の選定方法を定めておく

上記(2)のように、特定の人物を定めていなくても成立します。

もし、信託契約内に新受託者に関する規定がない場合、委託者(兼受益者)は新受託者を選任することができます(信託法62条1項)。

ただし委託者(兼受益者)が認知症などで新受託者を選任することができない場合など、必要があると認められるときは、利害関係人の申立てにより裁判所が新受託者を選任することができます(信託法62条4項)。

つまり、新受託者の決め方としては

(1)信託契約で特定の人物を指名しておく
(2)新受託者の選定方法を定めておく
(3)信託契約で新受託者の規定がない場合、委託者(兼受益者)が選任できる
(4)委託者が選任できないとき利害関係人の申立てにより裁判所が新受託者を選任できる

いずれかの方法により新受託者を選ぶことができ、信託財産が承継されることになります。

受託者候補がなかなかいない場合など、もしもの時に備えておく必要があります。

こちらの記事『家族信託の受託者候補が1人のみの場合、事前に備えるべきことは?』もご参考の上、対策をしておきましょう。

新受託者の引き継ぎに際して必要な手続きは?

新受託者が引き継ぐと信託財産の管理者も変わるため、各種、変更手続きが必要になります。

[1]信託財産に不動産が含まれる場合

不動産が含まれる場合、新受託者への名義変更登記が必要になります。受託者の変更による名義変更登記(所有権移転登記)です。

(1)新受託者からの単独申請で登記を行います
(2)登録免許税は非課税です(免許税法7条1項3号)
(3)謄本に添付されている信託目録に受託者の氏名が掲載されている場合、氏名は登記官が変更してくれます。新受託者が変更の申請を上げる必要はありません。(不動産登記法101条、不動産登記規則176条3項)

不動産の信託登記についてはこちらの記事でも解説しています。『不動産を家族信託した場合の登記情報の書き換えについて

[2]預貯金等

信託口口座に預けている預貯金等については、信託契約書など新受託者についての証明書類を提出すれば引継ぎが可能です。

ただし、

  • 信託屋号口座(受託者の肩書を口座名義人名に追加した普通口座)
  • 受託者個人の普通口座を受託口座として利用している場合

このような口座については、口座開設者である受託者死亡のため、通常の相続手続きによる解約が必要となります。

元受託者が信託財産として管理していたとしても、厳密な「信託口専用口座」ではないため、金融機関での取扱いは一般の相続発生と同様に取り扱われるからです。

もし、受託者死亡による解約取扱いを避けたい場合は、信託口口座の取り扱いのある金融機関を選んで専用口座を作成して管理する方法をお勧めします。

信託口口座の作り方についてはこちらの記事『家族信託の口座(信託口口座)のつくり方について解説』をご参照ください。

まとめ

本記事においては、先に受託者が死亡するようなケースについてご説明してきました。

新受託者が誰になるのかは信託契約の規定によりますので、信託契約にはもしもに備えた規定を盛り込んで作成することが大切です。

このような規定だけでなく、信託契約にはすぐには使わない項目も含めて盛り込むべき重要事項が多いため、契約作成の際は充分な検討が必要です。

信託法上、また税法上でも問題のないように作成するため、必要に応じて司法書士等の専門家へご相談ください。