中小・中堅企業の自社株式について、オーナーの相続税対策などで家族や一族、または役職員など会社にとっての重要人物に譲渡されていることは少なくありません。

自社株とは、同族会社のオーナー社長やその一族が所有する株式を指し、非上場で多数の株式が発行されています。

現在、特に問題が生じていなかったとしても、株式が分散していると、将来の事業承継や株主構成、議決権を考えたときに問題が生じることがあります。

自身の世代ではまだ対処可能であっても、次世代の承継の際に更なる問題ともなりえるのです。

このような事業に関するケースでも「家族信託」が活用できます。今回は具体的な活用方法を見ていきましょう。

事業承継での問題点

例えば、オーナーの相続税対策として、自社株を推定相続人であるご家族に「暦年贈与」などをしていた場合に株式の分散が発生します。

そのほか、企業内で自社株を支給しているケースもあります。株式を複数の方が所有しているということは、議決権も複数の方に分散しているということです。

そして、このような状態は、現在特に問題が生じていなかったとしても、事業承継や数年、数十年先の会社の株主構成を考えたときに問題となることがあります。

《相続税対策の暦年贈与とは》

財産の贈与を受けた人には贈与税が課され、その税率が高いことで有名ですが、贈与税には年間110万円までの基礎控除(課税されない枠)が認められています。

暦年贈与はこの基礎控除を利用し、毎年少しずつ贈与していく方法となります(過去記事:『暦年贈与に家族信託は使える?』もご参照ください)。

《事業承継で生じる問題点》

上記のような事例において、オーナー社長がそろそろ現役を退いて事業承継にとりかかろう、といったタイミングで以下のような問題が出てきます。

  • オーナーによる会社経営の監督機能の維持
  • 分散した議決権の集約
  • オーナーの認知症対策

これら企業の問題を解決する方法として、一般的には株式の買い取りが行われますが、買取にはまとまった額の資金が必要となります。

このような事業関連の問題でも民事信託(家族信託)が活用できるのです。具体的にはどのような方法となるのでしょうか。

《非上場株式の価額について》

非上場の株式は会社の規模だけでなく、取得した株主の立場(同族株主orそれ以外の株主)により評価方法が変わってきます。

支配権を有する同族株主が取得すると、その他の少数株主が取得する場合の取得価額(特例的評価方式/配当還元方式)よりも高い評価方法となります。

そのため、自社株を買い集めようとすると、まとまった額が必要となるのです。

家族信託による議決権の集約の方法

現在、自社株が分散しているという問題を改善するために、家族信託はどのような内容で組成するのでしょうか。

【株主の権利について】

株式を取得すると株主は主に以下の権利を得ることができます。

① 株主総会で議決権を行使することで、会社の経営に参加する権利
② 株式の配当や残余財産の分配など、会社から経済的な利益を受け取る権利

自社株(非上場株)保有者としては多くの場合、②を重視する傾向にあるため、信託により①を委託してもらい、②を受益権として株主の手元に残す、という方法を取ります。

同意の上、権利を分離してもらう契約を結ぶ提案を行うのです。

【議決権集約信託】

企業またはオーナーが、個々の株主と信託契約を締結します。

● 受託者:企業またはオーナー
● 委託者兼受益者:個々の株主
● 信託資産:自社株

これにより、①議決権を行使する権利は受託者(企業またはオーナー)に移動し、会社経営の監督機能も維持することができます。

②の権利を重視している株主(委託者=受益者)から議決権のみを切り離して受託者(企業またはオーナー)に集約することができます。

利益を得る権利は手元に残ります(株主=受益者)。

信託を活用することで、配当を目的として株式を保有している株主の合意も得やすく、自社株の買取資金も不要であり、贈与税も発生しないという解決方法となります。

そのため相続税対策が必要な株価の高い会社でも、買取資金等の準備なしに実現しやすい方法となるのです。

受託者を法人に

株式を信託する際に、受託者をオーナーや後継者などの「一個人」とする方法の他に、「法人」とすることもできます。

受託者を法人とすることで、さらに次世代へのスムーズな事業承継が可能となるため解説しましょう。

オーナー社長が持っている株式を後継者に信託するということは、保有している議決権を後継者にすべて渡すことを意味します。

しかし、オーナー社長としては自身の認知症対策の必要性も知っていますが、まだ会社経営に携わり、監督者として見守りながら、徐々に後継者に決定権を渡していきたいという意向が多くみられます。

このような意向を信託契約に取り入れる方法として、受託者を法人にする、という方法があります。

一般社団法人を設立し、受託者に設定しますが、この法人にはオーナーの一族を理事・社員とします。

こうすることで、株主総会で議決権を行使するのが受託者である一般社団法人になります。この法人にはオーナー本人も含まれるため、経営に参加できるようになるのです。

あとはこの一般社団法人の具体的な支配権について調整や取り決めをして、オーナー社長の決定権を維持できる形に整えていきます。

受託者を法人化するメリット

事業の手続きに家族信託が応用できるという手軽さに加えて、議決権を集約する「受託者」を一般社団法人にすることで以下のようなメリットが得られます。

  • 経営への意思があるうちはオーナー社長が決定権を持つことができる
  • 受託者を法人化しても法人税は課税されない
  • 信託関連の費用を法人(受託者)の経費にできる

例えば、家族信託が開始した後もオーナー社長が元気なうちはオーナー社長を代表理事、後継者を理事とします。

そして、オーナー社長が認知症の発症などにより業務執行できない状態に陥ったときは、後継者である平理事が業務執行権限を有するようになる、と定款に規定しておきます。

こうすることで、オーナーが元気な段階ではオーナー自身がメインのメンバーとして議決権を行使し、認知症発症後は、後継者に議決権を譲るという条件付きの仕組みが出来上がるのです。

受託者の法人化で必要なコスト

受託者を一般社団法人とする際のデメリットとして、一定のコストがかかるという点だといえます。

【法人化で必要なコスト】

① 一般社団法人の設立費用(登録免許税:60,000円 定款認証費用 約52,000円)
② 法人住民税 均等割70,000円(東京都の場合)
③ 2年に1度の役員変更(再任)登記(登録免許税:10,000円)

①の「定款認証」は、公証役場で証明を受けます。

定款の認証を受けたのちに、定款に基づいて法務局で設立登記を行います。設立登記が完了すると法人成立です(一般法人法22条)。

その他、専門家に税務申告や登記を依頼した場合は、その報酬もかかります。目安ですが、年間で150,000円〜200,000円ほどみておくとよいでしょう。

※参考記事:『家族信託で一般社団法人を受託者とするメリット・デメリット

さいごに

トリニティでは、数多くのオーナー社長の方から事業承継のご相談を承っております。

家族信託を「認知症対策」の手法と捉えた場合、個人であれば高齢期に入ってから初めてそのリスクを認識され、検討を始める傾向にあります。

しかし、経営に携わっている方の場合、「明日もし自分の身に何かあったら」と考えて早めに対策をされる方が多くいらっしゃいます。

家族信託の開始=後継者にすべてを任せる方法もありますし、一般社団法人を活用して徐々に事業承継を進めていく方法もあります。(関連記事:『オーナー経営者の認知症対策、家族信託が有効です!』)

事業承継の一手法として、ぜひご検討ください。