家族の認知症対策として注目を集める「家族信託」について、仕組み上の義務や税制面での取り扱いなど、利用の際には注意しておきたい部分もあります。
家族信託を有効に活用するため、気になる注意点やデメリットについて確認しておきましょう。
目次
家族信託とは?仕組みとメリットを簡単に解説
まずは家族信託の特徴として、メリット面を簡単に説明します。
「信託」とは自分の財産を信じて託す契約です。
契約書(家族信託契約書)に、あなたが願う財産の処分や管理の仕方を記載しておき、指名した家族の誰か(=受託者)がその内容に沿った管理をする仕組みとなります。
家族信託を利用すると
- 介護等費用の資金を資産の中から効率的に準備する
- 今回の相続だけでなく次の代の相続の内容まで希望を伝えることができる
- 認知症発症後の相続税対策の継続
このような、遺言や成年後見だけでは対応が難しい内容でも実現できるようになります。
遺言や成年後見制度よりも格段に自由度が高い点が家族信託の大きなメリットです。
このように自由度の高い家族信託ですが、次に注意点について確認しておきましょう。
家族信託の注意点
家族信託の注意点として以下のような内容が考えられます。
- 受託者の承諾が得られない可能性がある
- 受託者の義務が意外と重い
- 受託者が仕事をしてくれない不安がある
- 委託者・受託者だけで契約が成立してしまう
- 身上監護ができない
これらの注意点を順に説明します。
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くわしくはこちら1. 受託者の承諾が得られない可能性がある
家族信託は財産を託す人(=委託者)と依頼される人(=受託者)がいてはじめて成り立ちます。
そのため家族信託を利用したくても、身内に受託者のなり手がいなくては家族信託は成り立たないことになります。
- 身内に信頼して頼める人がいない
- 家族信託の受託者の役を依頼したところ承諾をもらえなかった
このようなケースも多いのは事実です。
受託者のなり手がいない場合、家族信託をあきらめて信託銀行や信託会社などに商事信託を依頼する方法もあります。
ただし信託方法により仕組みや特徴に違いもありますので、あらためて信託内容を検討しなおす必要もあるため注意しましょう。
2. 受託者の役目が負担になることがある
家族信託は認知症対策や相続対策として大いに役立ちますが、依頼された側は受託者としての役目を負うため、義務や帳簿等の作成が負担になることがあります。
《受託者の主な義務》
- 善管注意義務
- 忠実義務
- 分別管理義務
- 信託事務を第三者に委託する際の選任・監督義務
- 帳簿等の作成・報告・保存義務
信託の目的に沿って各種義務があり、とくに分別管理義務と帳簿等の作成・報告・保存義務についてはそれなりの手間を要します。
分別管理義務について
分別管理義務とは、委託者から託された財産を、受託者自身の財産と分けて管理しなければならない義務のことです。
金銭なら信託財産用に専用口座を作って管理し、不動産の場合はその旨を登記します。
登記は通常、司法書士に依頼して手続きをし、各種手数料を信託財産から支出します。
- 司法書士の手数料
- 登録免許税(税率:不動産評価額の0.4%)
帳簿等の作成・報告・保存義務
毎年、信託財産について貸借対照表などの必要書類を作成し、その内容を受益者に報告する義務です。
項目 | 内容 |
---|---|
帳簿等作成の義務 | 信託財産について帳簿を作成する義務 信託財産からの支出についてその資金の動きの記録、領収書等の保管 ・委託者の生活費や介護費、医療費などを支出した場合 ・信託財産である不動産を売却した場合 ・作成から10年間保存 |
貸借対照表・損益計算書の作成・報告・保存義務 | 毎年作成 ・受益者(委託者)への報告 ・信託終了まで保存 |
3. 受託者がきちんと仕事をしてくれるかどうか
前述のとおり家族信託の受託者には一定の作業や義務が課されます。
これらの義務がきちんと全うされれば良いのですが、状況、または故意により、義務を果たしてもらえない可能性も出てくるでしょう。
そのような事態に備えて、家族信託では受託者を監督・サポートする制度があります。後の項目にて「信託監督人」や「受益者代理人」について解説します。
4. 委託者・受託者の2者で契約が成立してしまう手軽さ
家族信託は、委託者と受託者の二者がそろえば契約が成立します。相続人全員の了解を得ずとも存命中に相続財産についての話を進めることができるのです。
この点がメリットであり、のちの親族間トラブルの元となる可能性も考えられます。
そのため家族信託を始める際には、事前に親族の理解を得ることが大切です。勝手に話を進められたというトラブルは避けなくてはなりません。
そのため、他の親族人にも内容を理解してもらい、そのうえで信託契約や受託について設計することが重要です。トラブル回避に重点を置きましょう。
5. 身上監護ができない
家族信託は後見制度とは異なり、身上監護権を含みません。家族信託では財産の管理が中心となるため、委託者の身上監護を受託者が担うことはできないのです。
身上監護とは、委託者の生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を行うことを指し、生活環境の整備や施設等への入退所の手続き、また、治療や入院の手続きなどが該当します。
契約行為は家族が代わりに手続きできますし、成年後見人であれば代理でできますが、受託者は受託者の立場で身上監護をおこなう権利はありませんので注意が必要です。
【解決策】家族信託のデメリットを解消するには
上述のとおり、家族信託であっても注意点やデメリットは存在します。しかし解消する方法もありますのでそれぞれの内容を参考にしてください。
受託者がきちんと仕事をしてくれるかどうか
この点については、「信託監督人」や「受益者代理人」の選任により解決可能です。
信託監督人や受益者代理人は、受託者が財産の管理義務を適切に果たしているかどうかをチェックする立場で、信託契約の際に予め設置しておくことができます。
孫のための教育資金を息子に託したいけれど、もしかしたら息子が個人的な用途に使い込んでしまうかもしれない、といったケースでも、信託監督人や受益者代理人の設置で不安を解消できます。
※信託監督人とは
→家族信託を監視・監督する「信託監督人」について
身上監護について
身上監護については、家族がいない場合でも、家族信託ではなく(あるいは家族信託と併用して)、成年後見制度を利用することで解消できます。
成年後見制度であれば、老人ホームや介護サービスの利用の契約を後見人が代わりに行うことができるのです。
受託者がいない・承諾が得られない件について
この件は家族信託の成立そのものにかかわる重要なポイントです。遺言であれば財産関連は所有者本人が一人で指定できますが、家族信託は受託者が必要となります。
受託者は財産管理を中心とする義務を負い、それにともなう帳簿等の作成・報告・保存義務などを守る必要があるため、受託者を引き受けたくないと思われても仕方のない側面もあるでしょう。
そのため信託契約により受託人への報酬を設定することもできます。
報酬は高額になりすぎると税金逃れとみなされることもあり、他の親族からの不満も出やすくなるため注意が必要ですが、ある程度の報酬の設定により受託者の仕事を引き受けやすくする環境つくりも大切だといえます。
【税金面】家族信託を利用した場合の注意点とは?
ここで、家族信託を利用した場合の税金面の注意点について簡単に紹介します。
(1)相続税対策にはならない
(2)損益通算で不利な扱いを受ける
(3)遺留分に配慮する必要がある
とくに相続税については間違いの起きやすい部分だといえるでしょう。
相続用に不動産を所有している場合は税務面での確認が必要となります。専門家へご相談ください。
(1)相続税対策にはならない
結論からいうと、家族信託をしたからといって相続税が軽くなることはありません。
一般に相続税対策とは、財産を分散させたり評価額を減らしたりすることで、相続人が将来負担するであろう税金の額を軽くすることを意味します。
家族信託の利用により相続人に引き継がれる財産の評価額が下がるわけではありませんので、家族信託そのものは相続税対策にはならないのです。
ただし家族信託があれば本人の健康面にかかわらず、受託者の働きによって相続税対策が継続できるようになりますので、資産にとって大きな意味を持ちます。
例えば相続税対策でマンションを購入して賃貸したり、もともと所有している土地に賃貸アパートを建てたりと、不動産を動かすことで将来かかる相続税を軽減する対策をとるケースもあるでしょう。
このような事業を行う場合、自分にもしものことがあっても、家族に財産の管理をまかせるように設計することができるため、そのリスク解消の意味で、家族信託はすぐれた効果を発揮します。
(2)損益通算で不利になる可能性もある
所有している不動産を、家族信託で信託するものと信託しないものに分けるケースもあるでしょう。 その際に、信託財産かどうかの区分で、全体の損益通算ができなくなるという点に注意が必要です。
例として、賃貸アパートを2棟所有し、A棟が黒字、B棟が赤字になったとします。
この場合、通常であればA棟の黒字とB棟の赤字を合算して損益通算後の額で事業所得として納税額を計算しますが、信託財産とそうでない財産の場合、損益通算の対象にできません。
そのため所有不動産の一部のみ信託する際は、損益通算の見込みを想定して信託するかどうかを決める必要があるといえます。
(3)遺留分に配慮する必要がある
家族信託の信託内容を設計するときは、遺留分を配慮して考える必要があります。遺留分とは法律によって決められている各相続人の最低限の遺産の取り分です。
信託の内容は委託者と受託者の2者間で決めることができますが、相続人全体の中で不公平が起こらないように設計することが、後の争いを防ぐためにも重要な要素となります。
※家族信託を活用した相続対策についてはこちらの記事を参照ください
→かかる税金や具体事例についてもご紹介
【費用】家族信託にはいくら掛かる?
成年後見制度に比べると家族信託の費用は高いといわれがちです。
設計しやすさや利用のしやすさを除外して初期投資のコスト面から考えると、それはある程度、正しいと言えます。
家族信託にかかる一般的な費用を見ていきましょう。
[1]実費(税金など国に納めるお金)
- 公証人手数料
- 不動産登記の登録免許税
《公証人手数料》
家族信託では、契約書を公正証書で作成します。公証人の手数料は託す財産の価額により、1万円から5万円が目安となります。
《不動産登記登録免許税》
- 土地の場合(所有権の信託の登記)…固定資産税評価額の1000分の3(0.3%)
(土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減措置により、令和5年3月31日まで適用) - 建物の所有権移転…固定資産税評価額の1000分の4(0.4%)
- 登記を司法書士に依頼した場合は、司法書士に支払う報酬も別に発生します。
[2]専門家に支払う報酬
専門家に支払う報酬として、一般的に、コンサルティング報酬と契約書作成報酬が発生します。専門家報酬のため、報酬は事務所・専門家により違いがあります。
- コンサルティング報酬
- 家族信託契約書作成報酬
また、同じ専門家であっても、信託の内容によって変動があり複雑な設計の場合は報酬は高くなります。
おおむね、信託財産の1%程度、最低金額30万円〜40万円程度に設定されていることが多いようです。
※家族信託の仕組みについて
→家族信託とは?その仕組みや特徴について解説
【サポートを受ける】正しい専門家の選び方
家族信託は柔軟性のある設計ができ、遺言や成年後見制度では実現できないことも可能になります。
ただし信託内容によっては、遺言や成年後見制度を利用した方が適しているケースもあります。利用の仕方によっては、税金面で不利になる可能性もあるのです。
まだ世の中では家族信託に熟練した士業は少ないのが現状ですが、やはり司法書士や弁護士、税理士など、信託や後見人、相続の取扱い件数の多い専門家へ相談の上での家族信託契約が安心だといえるでしょう。
専門家がいることで親族が抱えている問題点も抽出しやすくなり、どのような仕組みを作るべきか、また、財産の引継ぎ全般についても相談することが可能となります。
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カテゴリー: 家族信託の手続き・やり方

