65歳以上の5人に1人が認知症を発症するといわれる中、認知症による資産凍結への対策として「家族信託 」という仕組みが注目を集めています。

高齢の親の今後に不安を抱えているご家族にとって、家族信託は気になる制度なのではないでしょうか。

家族信託は資産管理の方法として知られていることから、

「お金持ちのための制度では?」
「うちには資産というほどの財産はないし…」
「本当は必要ないのに、家族信託に手間やお金をかけるのは避けたい…」

と思っている人もいるかもしれません。

家族信託がご自身のご家庭にとって必要なのか、あるいは不要なのか、こちらの記事をその判断材料としてとしてぜひ活用してください。

要約

  • 家族信託が必要ないケースは、財産がほとんどないご家庭など、資産凍結によって影響がない場合
  • 親族間で揉めている場合や受託者がいない場合なども家族信託は難しい
  • ただし、高齢の親を持つほとんどのご家族にとって家族信託は必要
  • 家族信託は資産家のためだけの制度ではない
  • あなたのご家族に本当に家族信託が必要なのか、専門家に相談してみましょう

家族信託が必要なのか、お悩みの方へ

専門家のイメージ

家族信託の「おやとこ」では、認知症による資産凍結問題に悩むお客様に、司法書士などの専門家がご家族に寄り添い、真心を込めて丁寧にご対応
します。

家族信託が必要か、あるいは他の制度の活用がおすすめなのかなど判断するためには、ご家族の現在のお悩みをヒアリングさせていただくことで、詳しくご回答ができます。

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家族信託とは

家族信託とは 「認知症による資産凍結」を防ぐ財産管理の法的制度です。

認知症によって意思能力を喪失したと判断されると「資産凍結 」が起こり、以下のような事態に陥るおそれがあります。

認知症による資産凍結の例

  • 銀行預金を引き下ろせない、定期預金を解約できない(口座凍結)
  • 自宅を売却できない、賃貸に出せない
  • 株式など資産の整理、処分ができない
  • 生前の相続対策ができない

家族信託は、このような事態を防ぐために「自分の財産の管理権限を、元気なうちに信頼できる家族に与えておく」という財産管理の制度です。

家族信託の仕組み

財産管理を託す人を「委託者」託される人を「受託者」 といい、多くの場合委託者=親、受託者=子 として組成されます。

受託者が財産を管理・運用して発生した利益(金銭、不動産からの家賃収入など)は「受益者」が受け取ります。

家族信託の登場人物と仕組み

ほとんどのケースで、親を委託者=受益者と設定します。

そうすることで、親は財産の管理だけを子に任せ、財産からの利益や権利は以前と変わらず得られるというメリットが得られるのです。

家族信託の基礎知識、メリットデメリットについて知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

家族信託の手続きは、家族会議→家族信託契約書の作成→信託口口座開設など信託の準備、という流れで進めていきます。本記事では、家族会議から信託開始までの全体の流れと、信託財産ごとに必要な詳細の手続きについてわかりやすく解説していきます。
家族信託の手続き完全ガイド|流れや必要書類を徹底解説!

家族信託が必要ないケースとは?

家族信託は自由度が高く、非常に注目されている制度ですが、積極的に家族信託を利用する必要がないご家族もいらっしゃいます。

家族信託が必要ないケースは次の通りです。

家族信託が必要ないケース

  • 財産が少額の金銭だけで、かつ不動産がない
  • すでに財産を子どもの名義に移している
  • 本人が若くまだまだ健康である
  • 家族仲が非常に悪い

それぞれのケースについて、詳しくみていきましょう。

財産が少額の金銭だけで、かつ不動産がない

不動産をお持ちでなく、かつ預貯金も少額の場合 には、家族信託をする理由がないと言えるでしょう。

不動産を所有している場合は、家族信託によって親の判断能力に関わらず売却や管理を行えるなど、多くのメリットを得られます。

「自分が認知症になったら、所有不動産を売って生活資金や介護資金に充てたい
「アパートなど収益物件の管理を子どもに引き継ぎたい

というニーズが多いのですが、これらは家族信託により叶えることができるのです。

家族信託でできること

不動産がなく、少額の預貯金(数百万円など)のみであれば、銀行の代理出金機能など他の制度の活用を検討しても良いでしょう。

銀行の代理出金機能

引用: 三菱UFJ信託銀行 つかえて安心

一方で「不動産などの財産が凍結されたら困る」「生活費や介護費を親の資金で支払えるようにしておきたい」という場合は、家族信託が有効です。

すでに財産を子どもの名義に移している

例えば生前贈与などにより、後世(子・孫など)へ財産の譲渡や名義変更が完了していて、親の生活費・医療費・介護費などを子どもたちが支払える状態なら、家族信託は必要ないといえるでしょう。

財産の名義変更が完了している状態

他にも、以下のようなケースが挙げられます。

すでに財産を子どもの名義に移しているケース

  • 不動産を生前贈与してすでに子ども名義にしている
    (子どもが管理や売却ができる)
  • 不動産管理会社を設立し、法人名義にしている
    (法人として管理や売却ができる)

ただし、当事者同士(親子間)だけで名義変更を進めている場合、他の親族や相続人との金銭トラブル・相続トラブルにつながることもあるため、注意が必要です。

まだ対策ができておらず、今後、不動産の生前贈与や名義変更を検討している場合には、親が認知症になると契約を締結できなくなるため、家族信託を含め、早めに対策を行いましょう。

家族信託は、認知症になったからといって、すぐにできなくなるというわけではありません。 家族信託に関する理解や、判断能力が確認できれば、認知症発症後でも取り組めるケースがあります。家族信託ができるかどうかの判断基準や認知症の程度について、詳しく解説していきます。
家族信託は認知症発症後でもできる?判断基準や始める時期を徹底解説

親が若くまだまだ健康である

家族信託は、原則として契約を締結するとその時点で効力が発生します。

親がまだまだ若く健康で、自分自身で財産管理ができる のであれば、まだ家族信託するタイミングではないでしょう。

親がまだまだ若く健康である状態

しかし、高齢になるにつれ認知症の割合は増加し、85歳以上では半数以上が認知症になるともいわれています。

今は大丈夫でも近い将来、親の判断能力が低下してくる可能性は大いにあるでしょう。

親が元気なうちに積極的に情報収集を行い、家族信託などの知識をつけておくことが重要です。

参考: 都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応|厚生労働省

家族仲が非常に悪い

前提として、家族信託は本人の大切な財産を「信頼できる家族」に託す制度であり、家族間の信頼関係があってこそ成り立つものです。

(ただし制度上、財産を託す相手は信頼できる第三者でも可能。)

よって、財産管理を安心して託せる家族がいない 場合や、親子間・子ども同士の仲が非常に悪い 場合は、家族信託を控えた方が良いといえます。

安心して託せる家族がいない例

家族信託では、信託契約の範囲内であれば、受託者が信託財産の管理・運用・処分を行う大きな権限をもちます。

そのため、どうしても特定の子どもに財産管理の権限が集中し、兄弟や親戚など、他の家族・親族からの反感を買ってしまいがちです。

特に、親の相続人になる可能性がある親族と仲が悪い場合は「相続財産を取られた」と思われたり、相続発生時の揉め事につながったりするおそれがあります。

家族仲が悪い場合の相続トラブル

このように、家族・親族仲が悪いとさまざまなリスクが考えられるため、家族信託を行うことは難しいでしょう。

とはいっても、認知症による資産凍結対策や相続対策、トラブルの回避などは必要ですし、家族信託以外にもできることはあります。

認知症になり意思能力が低下すると、できることの幅が大きく狭まるため、早めに専門家へ相談しましょう。

家族信託が必要なケースとは?

反対に、家族信託を積極的に検討した方が良い家族信託が必要なケース について解説します。

家族信託が必要(積極的に検討すべき)なケース

  • 認知症による銀行口座の凍結対策をしたい
  • 自宅や収益不動産などを所有している
  • 二次相続(さらに次の相続) について決めておきたい
  • 介護費や医療費を親の資金から捻出したい
  • 加齢により明らかに両親の判断能力の低下がみられる
  • 障害のある子どもを守りたい

該当するご家族は、家族信託の利用に迫られている方ともいえます。

ぜひ家族信託への取り組みを前向きに検討してみてください。

認知症による銀行口座の凍結対策をしたい

親の認知症による銀行口座の凍結対策には、家族信託が有効です。

家族信託で金銭を信託していれば、親が認知症になったとしても、受託者が親に代わって、親のために銀行取引を行えるからです。

銀行口座の凍結対策

認知症により判断能力の低下がみられると、本人が詐欺や悪徳業者による被害に遭うことを防ぐために、銀行は取引の一部を停止します。

これにより、キャッシュカードや通帳での預金の引き出し、他口座への振込、定期預金の解約などができなくなる「口座凍結」の状態に陥ってしまいます。

認知症による口座凍結リスク

そこで対策として、家族信託で金銭を受託者へ託しておけば、信託した金銭は受託者が柔軟に管理(引き出し・預け入れ・振込・窓口手続きなど)できるようになるのです。

親のキャッシュカードを預かっている場合も注意!

高齢の親をサポートするため、親のキャッシュカードを家族が預かり、代わりに預金の管理をしているというケースもよくあるのではないでしょうか。

この場合でも、本人の判断能力が低下し、 一度口座が凍結されると、たとえ家族でもお金を動かすことはできません ので、注意しましょう。

家族がキャッシュカードや預かって管理していたとしても、以下のような場合には親本人が窓口に出向き、本人確認を行う必要があります。

窓口で親の本人確認が必要な場面

  • 介護施設の入居に備えてまとまった金額を引き出す
  • 定期預金を解約して資金を捻出する
  • 通帳・キャッシュカードを再発行する

親が窓口に出向いた際、銀行の担当者が親の様子を見て判断能力の低下を確認すれば、その場で口座が凍結され、手続きができなくなるおそれもあります。

このような理由から、子どもがキャッシュカードを預かっていたとしても、口座凍結問題への対策は必要なのです。

高齢になると、認知症や身体機能の低下により、毎月の介護費や介護保険施設への入所費用、入院費用など、高額な出費が必要になる場面も増えます。

立替えをするとしても、子どもや親族に大きな負担がかかります。

年金があるから老後の生活費は大丈夫
もしもの時は定期預金を解約すればいい

多くの方がこのように考えていることで「口座にお金はあるのに、引き出しや解約ができない 」というような資産凍結問題が日本全国で発生しているのです。

そうならないためにも、親が元気なうちから家族信託に取り組み、認知症になっても親の口座が凍結しないように準備しておくことが重要です。

銀行のサービスで「代理人カード(家族カード)」がありますが、高齢の親の認知症対策として十分と言えるのでしょうか? この記事では、本人のキャッシュカードを家族が管理するリスク、銀行の「代理人カード」、「家族信託」などを比較しながら司法書士が詳しく解説します。
銀行の代理人カードと家族信託、認知症対策になるのはどっち?

自宅や収益不動産などを所有している

自宅やマンション・アパートなどの不動産を売却することは、法律行為の1つです。

法律行為を行うにはその行為に関する 「意思能力」が必要だと定められています(民法3条の2)。

認知症になった場合「不動産を売却するとどうなるのか」ということを十分理解できないとみなされ、不動産の売却はできなくなるおそれがあります。

また、売却行為以外にも、収益不動産(アパートなど)における借主との賃貸借契約や、大規模修繕における工事請負契約などの行為もできず、不動産が凍結してしまいます。

認知症になると法律行為ができない

「親が将来的に介護施設に入るので、空き家になる実家をいつか売却したい
「親が保有しているアパートの管理を、将来的に引き継ぎたい

このような場合には、認知症による資産凍結の影響を大きく受けてしまいます

家族信託による早めの備えを検討しましょう。

認知症となり判断能力が低下してしまった場合にできなくなる事の代表例として、「不動産の売却」が挙げられます。その理由は、不動産取引の手続きにあります。この記事では、不動産取引の手続きや流れに加え、なぜ代理人を立てても不動産の売却ができないのかについて解説していきます。
【認知症と不動産売買】認知症になったら家は売れない?

二次相続(さらに次の相続)について決めておきたい

一次相続とは、両親のどちらかが亡くなり、配偶者と子どもが相続人になる場合の相続です(「遺言」で定められるのは一次相続に関してのみ)。

二次相続とは、一次相続後に残された配偶者も亡くなり子どもだけが相続人となる相続のことをいいます。

一次相続と二次相続

家族信託では、遺言では指定できない二次相続についても定められることが大きな特徴であり、メリットです。

遺言で指定できるのは「遺言者(被相続人)が亡くなった時の一次相続のみ」ですが、家族信託を活用すると、財産を複数世代にわたって承継することができます。

これを「受益者連続型信託 」といいます。

受益者(委託者)が死亡後、受益権を子や孫、場合によっては兄弟や第三者などへ連続して承継させる信託のスキームです。

受益者連続型信託

受益者連続型信託は、自社株の信託による複数世代にわたる事業承継や、他の家系への財産が流れ込み防止などにも有効です。

このように、家族信託は財産管理だけではなく、相続発生時の財産承継も柔軟に行える唯一の手段となっています。

介護費や医療費を親の資金から捻出したい

高齢になると、介護費や医療費など、生活費以外にも様々な費用がかかります。

これらの出費を親の資金から捻出したいのであれば、家族信託が有効です。

上述の通り、認知症などによって親の判断能力が低下すると、銀行口座や不動産が凍結し、家族でも親の財産を動かせなくなってしまいます。

つまり、親自身の生活費や介護費・医療費の支払いに親の資金を使えなくなる おそれがあるのです。

認知症により介護費・医療費に親の資金が使えない

親の認知症でひとたび資産凍結が起こると、親の口座からお金を引き出したり、不動産を売却して資金を捻出したりすることもできなくなります。

そこで、親が認知症になる前の元気なうちに家族信託をしておけば、親の財産の管理権限は受託者(子)に移転するため、親の判断能力に関わらず財産を動かすことが可能です。

預貯金を引き出すことはもちろん、大きな出費が必要になった際に不動産を売却することもできます。

加齢により明らかに両親の能力の低下がうかがえる

両親が高齢となり、目に見えて判断能力が低下してきた場合には、意思能力の低下による資産凍結に備える必要に迫られているといえます。

ただし、認知症と診断されたからといって、すぐに法律行為ができなくなるというわけではありません。

法律行為に関する意思能力があるかどうかは、それぞれの行為(売買契約・委任契約・賃貸借契約など)について個別具体的に判断されます。

よって「認知症の診断を受けたから家族信託ができない」というわけではありませんが、十分な意思能力があるかについては、早めに司法書士など法律の専門家に判断を仰ぐ必要があるでしょう。

家族信託は、認知症になったからといって、すぐにできなくなるというわけではありません。 家族信託に関する理解や、判断能力が確認できれば、認知症発症後でも取り組めるケースがあります。家族信託ができるかどうかの判断基準や認知症の程度について、詳しく解説していきます。
家族信託は認知症発症後でもできる?判断基準や始める時期を徹底解説

認知症になった後でも財産を動かしたい場合はどうする??

認知症で銀行口座や不動産など、資産凍結が起きてしまった場合は 「成年後見制度」を利用して資産凍結を解除する必要があります。

ただし、成年後見制度は前提として、本人の生活や財産を守るための制度ですので、支出の用途や不動産の売却などはかなり制限されてしまいます。

また、家庭裁判所や後見人、後見監督人などが介入するため、家族が精神的な負担を負うこともあるでしょう。

成年後見制度の特徴

  • 親の財産が家庭裁判所や後見人の監督下に置かれ、家族でも自由に動かせなくなる
  • 自宅の売却には裁判所の許可が必要になるなど、手続きに時間がかかる
  • 後見人への報酬が継続的に発生する (月2〜6万円)

判断力のあるうちに家族信託を済ませておくと、第三者の介入なく、家族の判断で不動産の管理や売却が可能となります。

成年後見制度(せいねんこうけんせいど)とは、認知症や知的障害などで判断能力が低下した人の契約や財産管理のサポートを行う制度です。「成年後見人」を家庭裁判所から選任してもらい、本人に代わって様々な手続きを行なってもらいます。この記事では成年後見制度についてわかりやすく説明し、同時に最近注目を浴びている家族信託との比較についても解説します。
【完全版】成年後見制度とは?司法書士がわかりやすく解説
この記事では、成年後見制度の注意点やデメリットの中から、5つのポイントに絞って解説します。家族が将来、同制度を利用するかもしれないと考えている場合はぜひ参考にしてみてください。
成年後見制度の5つのデメリットとは?利用による問題点や生じた事例と対策も解説

障害のある子どもを守りたい

家族信託を活用できるのは認知症対策のためだけではありません。

代表的な例が「親なきあと問題」です。

お子様に障害がある場合、親が認知症になったとき・亡くなったときに、子どもの生活や財産を守り、管理する人が必要となります。

そこで、家族信託を利用すれば、親に何かがあった時に備え、信頼できる親族に財産を託してお子様の生活費や医療費の管理を任せることが可能です。

親なきあと問題

成年後見制度を利用するケースもありますが、当制度は判断能力が低下・喪失した人を対象とする制度です。

身体障害のみがある場合は対象外になってしまうため、利用の可否については慎重に検討しましょう。

障害をもつお子様の兄弟を受託者にするなど、親なきあとに備えて家族信託で仕組みを作っておくと安心です。

「家族信託は財産管理の新しい方法です!」このようなフレーズを目にすることはあっても、「財産管理?うちには資産があるわけでもないから関係ないかな」と思っていませんか?家族信託は資産がある人が財産管理の為にするものだけではなく、「認知症対策として非常に有効です」ということも認識して頂きたいと思います。
家族信託は必要ない?「資産がないから家族信託しない」は危険

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家族信託が必要か、あるいは他の制度の活用がおすすめなのかなど判断するためには、ご家族の現在のお悩みをヒアリングさせていただくことで、詳しくご回答ができます。

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家族信託を利用するメリット

家族で結ぶ信託契約である「家族信託」は、成年後見制度に代わる新たな認知症対策や相続対策、財産管理の手法として注目されています。

現在、相続対策で最も有効ともいわれている方法が「家族信託」です。

家族信託を利用すると具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。

詳しくみていきましょう。

家族信託のメリット1|認知症発症後も安心である

前段では、認知症による判断能力喪失時の資産凍結リスクについて解説しましたが、加齢が原因で起こる問題はそれだけに留まりません。

財産を凍結されるほどの状態ではなくても、認知症により、自分自身の生活・お金・所有不動産などの管理が適切にできなくなるリスクは大いに考えられます。

判断能力が低下すると、高齢者を狙った詐欺被害などに巻き込まれてしまうリスクも高まるでしょう。

判断能力低下後のリスク

このように、認知症を含め、加齢により判断能力が低下すると、日常生活において、トラブルに巻き込まれたり、生活のしにくさを感じたりする場面は増えていきます。

そんな時に、高齢な親や家族に安心感をもたらしてくれるのが家族信託です。

家族信託では、財産の管理や運用について、第三者の関与なく信頼できる家族に任せられます。

そのため、高齢の親が詐欺に遭ったり、お金のある場所を忘れてしまったりなどの日常のトラブルも回避できます。

家族信託でトラブル回避

また、家族信託をきっかけに、それぞれが親の相続発生時・財産の承継について真剣に考えたり、家族同士でコミュニケーションを取ったりするようになるという良い循環が生まれ、実はそれ自体が相続対策・相続トラブルの回避になったりもします。

財産管理だけでなく、家族信託によって生活全般を家族でサポートする体制をつくり、より良い家族関係を保っていくという使い方もできるのです。

家族信託のメリット2|遺言機能を有している

家族信託は遺言書の代わりとなる機能を有しています。

つまり、委託者が生きている間の財産管理についてだけでなく、その財産を誰に承継するのか についても定められるということです。

家族信託の遺言機能

遺言だけでは、遺言者が亡くなった時のことしか指定できませんし、後見制度や財産管理委任契約だけでは、本人が亡くなった後の財産承継については定められません。

財産管理や財産承継に関して、それぞれの制度のいいとこ取りができ、かつ法的に定められるのが家族信託です。

このような多機能性も家族信託の大きなメリットだといえるでしょう。

遺言と家族信託強いのはどっち!?家族信託には遺言的な機能もありますが、家族信託と相反する内容の遺言が作成された場合には、財産の帰属はどうなってしまうのでしょうか?この問題を徹底解説!
家族信託と遺言、どちらの法的効力が強い?司法書士が解説します

家族信託のメリット3|複数世代にわたる相続について定められる

家族信託は遺言の代わりとなる機能を有しますが、さらには遺言でも実現できない機能を有しています。

それは、複数世代にわたる相続・財産承継を可能とする機能 です。

家族信託では、当初の受益者が亡くなった場合に、信託を終了するのではなく、受益権を複数世代にわたって承継させる旨を定めることができます。

(遺言では、遺言者が亡くなったときの財産承継に関してしか定められません。)

これを「受益者連続型信託」といいます。

親を委託者=受益者、子を受託者とすると、親が亡くなった後、受益権を子、孫へという形で二次相続以降も指定できるということです。

受益者連続型信託

例えば自宅不動産を長男に継がせ、長男が亡くなった際には、孫に継がせることができます。

この機能により、親族関係が複雑なケースでも相続争いを回避でき、また、財産を所有する委託者の意向を明確に実現できるようになります。

地主の方や、経営者の方にとっても、不動産や自社株の複数世代にわたる承継を定めたい場合に役立つため、家族信託は重宝されているのです。

家族信託を利用するデメリット 

ここからは家族信託のデメリットや注意点についてご紹介します。

家族信託のデメリット1|受託者の義務や負担が大きい

家族信託では、受託者が責任をもって委託者の財産を管理しなければならないため、受託者の負担が大きいことも事実です。

また、信託法上でも、受託者が行うべき義務が定められています。

受託者の義務

一般的に家族信託は長期にわたるため、受託者も長期間信託事務を行うことになります。

特に、信託財産の額が大きい場合や、不動産の数が多い場合などは、その分受託者の負担も大きくなるでしょう。

また、信託財産に収益不動産(アパートやマンション)が含まれる場合は要注意です。

信託財産から年間3万円以上の収益が発生する場合、受託者は毎年税務署にその収益に関する書類(信託の計算書および信託の計算書合計表)を作成し、提出しなければなりません。

収益不動産に係る受託者の義務

書類や報告内容に不備があれば、修正などに手間と時間が割かれ、受託者の負担も大きくなります。

全て自分でやろうとせず、税理士や司法書士など、家族信託の専門家のサポートを受けながら進めていきましょう。

長年にわたりサポートを受けられるような専門家に依頼すると安心です。

家族信託のデメリット2|設計・組成に手間と時間がかかる

家族信託に取り組むということは、ただ単に委託者と受託者で契約書を締結することだけではありません。

そもそも、家族信託は一定の目的を達成するために、委託者が信頼できる受託者へ財産管理を託す制度です。

認知症対策・事業承継対策などの家族信託の目的を達成するには、家族や親族など、関係者全体で十分に認識を共有し、話し合いを行なった上で、法的に有効な契約を結ぶための正式な手続きを踏まなければなりません。

また、信託契約書の条文の作成も慎重に行わなければ、法的に無効な契約を作ってしまったり、家族の意向を実現できなくなったりすることにも繋がります。

信託契約書作成の注意点

このように、家族信託を設計し、実際に運用し始めるには、手間や時間がかかります。

家族信託の組成にかかる手間と時間

しかし、ここでかける手間や時間は、委託者や家族の理想とする財産管理や相続を実現するうえでは必要なものです。

そんな中でも、家族信託をできる限りスムーズに、少ない負担で作り上げていくには、いかに経験や知識が豊富な専門家を選ぶかが重要となります。

信託法や民法などの法律、相続、税金など、多岐にわたる専門知識が必要となりますので、家族信託の実績や取り組み、発信内容などを確認したうえで、専門家を選ぶようにしましょう。

弊社は、家族信託の相談を年間数千件ほど受けており、豊富な実績と他分野の専門家ネットワークで、家族ごとにオーダーメイドの家族信託をサポートさせていただきます。

ご検討段階の方でも、ぜひお気軽にお問い合わせください。

家族信託のデメリット3|費用がかかる

家族信託にかかる費用は、専門家に依頼する場合で30〜60万円程度だと考えられます。

しかし実際は、信託財産の種類や評価額により異なるため、一概にいくらとは言えません。

この費用は一見高額に感じるかもしれませんが、家族信託でまとまった金額がかかるのは、基本的に組成時の初期費用のみです。

実際に家族信託がスタートしたあとは、大きな費用が発生することはありません。

家族信託でかかる費用は、大きく「実費(自分でやってもかかる費用)」と「専門家に依頼する場合にかかる費用」の2つに分けられ、その内訳は以下の通りです。

家族信託にかかる費用

家族信託の費用や相場、信託財産による詳しいシミュレーションについては、以下の記事でも解説しています。

家族信託の費用は信託する財産の額によって異なります。専門家に依頼すると実費に加えてコンサルティング費用かかりますが、費用削減だけを考えて自分でやるとトラブルが発生する可能性も高まります。家族信託の費用や自分でやる際の注意点をみていきましょう。
【家族信託の費用・相場】安く抑えるためのポイントとは?司法書士が解説

家族信託のデメリット4|受託者は無限責任を負う

家族信託の受託者は、信託財産について無限責任を負うものとされています。

無限責任とは、信託に関する債務を信託財産で支出しきれない場合(信託財産だけでは足りない場合)に、受託者固有の財産から払う責任を有する ということです。

受託者の無限責任

たとえば、信託財産である収益用のアパートを建て替えるために、銀行から融資を受けた場合、信託財産(家賃収入など)から返済を行います。

この場合はもし信託財産で足りなければ、受託者は自分の財産から返済する義務があるのです。

取引の相手方からみれば、財産は受託者名義になっているわけですから、こうした責任を負うことは当然ともいえます。

受託者となる方は、無限責任を負うことについて十分理解しておくようにしましょう。

家族信託のデメリットと注意点は?家族信託を利用するにあたっての注意点やデメリット12個について徹底解説します。
家族信託で気をつけるべきデメリット・注意点12選を徹底解説

家族信託のデメリット5|制度に関する情報・精通した専門家が少ない

家族信託は比較的新しい制度であり、利用され始めたのは2007年の信託法改正のタイミングです。

まだまだ家族信託を熟知した専門家が少なく、 裁判例も少ないため、法的・税務的にも不透明な部分があるという状況です。

しかし、利用者からすれば、新しい制度だからこそ専門家の力が必須となる場面が多くあるでしょう。

家族信託に精通した専門家は少ないものの、積極的に取り組み、着実に実績を積み上げている士業がいることも確かです。

専門家に相談するときは、今までの家族信託の実績や、実際にサポートした内容などを確かめてみましょう。

また、弊社でも、家族信託が普及し始めた2016年ごろから家族信託に積極的に取り組んできており、現在では年間数千件ほどの相談もいただいております。

司法書士だけでなく、税理士や弁護士など、専門家のネットワークも豊富なため、認知症対策や相続対策に関して、全方面から手厚いサポートが可能です。

ご検討段階の方でも、ぜひお気軽にお問い合わせください。

家族信託のデメリット6|受託者の裁量が大きい

受託者は信頼の上で財産を託され、管理します。

大前提として受託者は、信託法で定められた「善管注意義務(信託法29条)※1」や「分別管理義務(信託法34条)※2」に従って信託事務を行わなければなりません。

※1 善管注意義務(信託法29条):善良な管理者として信託事務を行う義務
※2 分別管理義務(信託法34条):受益者自身の固有財産と信託財産を分けて管理する義務

受託者の義務が定められていることは確かですが、信託中は受託者が委託者の財産をすぐに触れる状況 にあります。

受託者が横領したり、私的利用したりする可能性も0ではありません。

もしその事実が発覚すれば当然、委託者と受託者、その他の親族の間でトラブルに発展するでしょう。

万が一、受託者が契約違反を起こした場合の規定についても、信託契約では細かく定めておく必要があります。

また、信託契約書を公正証書で契約することで、強い証明力をもって契約違反者に対抗できます。

他の対策として、受託者を監視する「信託監督人」や、受益者の支援を行う「受益者代理人」を選任する方法もあり、信託契約の中に組み込むことができます。

この記事では「家族信託の重要人物〜信託監督人〜」と題して、家族信託における「信託監督人」についてお伝え致します。家族信託では委託者は資産の管理・運用を受託者に依頼しますが、さまざまな理由から、受託者の財産管理に不安があるケースもあると思います。その場合に活用できる信託監督人について、この記事でご紹介します。
信託監督人とは?〜家族信託を監視・監督する重要な役割〜
家族信託の契約で受益者の代理人である『受益者代理人』を選任、指定できることをご存知でしょうか?受益者の判断能力について不安がある、問題が生じる場合、受益者代理人を置くことで、受益者の代わりとなり、権限を行使する形にすることができます。今回は受託者代理人を置く理由や、選任・指定に関する注意点について解説します。
家族信託における受益者代理人とは?役割を司法書士が解説

信託監督人は、司法書士・弁護士などの専門家に依頼することも可能です。

家族信託は「信頼する家族に託す」ことが大前提ですが、後々のトラブルを最大限に回避し、委託者の大切な財産を守れるよう、対策を施しておくことが重要です。

家族信託が本当に必要かどうか悩む時は

ここまで家族信託が必要ないケース、必要なケース、制度のメリットやデメリットについて詳しく解説してきました。

「分かったような、分からないような…」という不安な感情を抱いている方も実際多いのではないでしょうか。

そもそも家族信託は 「認知症になったときに備えて」という保険的な性質を有するため 「親本人に話をすることが難しい」「必要とは思っていてもなかなか踏み出せない」 という悩みを抱いてしまうこともあるでしょう。

身内の意見が一致していて、かつ相談もしやすい環境・関係性があればいいのですが、将来何が起こるかは誰にも分かりませんし、反対意見が出てくることも珍しくありません。

そこで、家族信託を利用するか迷うときは、以下の3つのステップで検討してみることをおすすめします。

家族信託を検討する際の3つのステップ

家族信託を行うには、大前提として「委託者の意思能力」が必要です。

意思能力を喪失してしまうと後から契約することはできませんが、早い段階であればいつでも実行できます。

そのため、まだ当事者の能力に余裕がありそうであれば、認知症や家族信託について家族で学んだり、保有資産をリストアップしてみたりと、じっくり検討してみるのもよいでしょう。

反対に、時間的に猶予がなさそうであれば、専門家への相談にすぐ取り掛かる必要があるかもしれません。

現状を冷静に、客観的に見て、どのようなリスクがあるか、今からの手続きで間に合うのかどうか、専門家に相談してみると問題点がはっきりする場合があります。

家族信託は、認知症による資産凍結対策として活用できる制度ですが、法律や税金などの専門的な知識をもとに取り組まなければ、危険なものにもなり得ます。 後悔や失敗のない家族信託の組成のために、実際のトラブル事例や押さえるべきポイントを徹底解説していきます。
家族信託は危険?実際のトラブル・失敗事例、後悔しないための知識と対策
家族信託のデメリットと注意点は?家族信託を利用するにあたっての注意点やデメリット12個について徹底解説します。
家族信託で気をつけるべきデメリット・注意点12選を徹底解説

家族信託の必要性は家族の状況によって異なる

家族信託は、将来の財産的なリスクを解消するうえで大きなメリットがありますが、全ての人にとって適した方法だと断言することはできません。

ただし、必要性のある家族がスタートすべき時期を逃してしまったり、慎重に検討する必要があるのに行動を急いで身内同士のトラブルに発展してしまったり、というリスクもあります。

重要なのは、ご自身やご家族にとって家族信託が必要かどうかを話し合える信頼関係や、自分たちにとって必要な情報を提供してくれる専門家によるサポートです。

本記事を参考にしながら、皆さんも家族信託の必要性について検討してみてください。

「今すぐには必要なさそうだ」と分かれば、家族にとって最適な認知症対策や相続対策について、時間をかけて十分な準ができます。

ぜひ、まずは一度家族や親族とじっくり検討する機会を設けてみたり、専門家へ相談してみたりして、認知症対策・相続対策を進めていきましょう。

家族信託が必要なのか、お悩みの方へ

専門家のイメージ

家族信託の「おやとこ」では、認知症による資産凍結問題に悩むお客様に、司法書士などの専門家がご家族に寄り添い、真心を込めて丁寧にご対応
します。

家族信託が必要か、あるいは他の制度の活用がおすすめなのかなど判断するためには、ご家族の現在のお悩みをヒアリングさせていただくことで、詳しくご回答ができます。

家族信託の「おやとこ」
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よくある質問
家族信託が必要ない具体的なケースは?

家族信託が必要ないと言えるケースは次の4つでしょう。

  • 財産が少額の金銭だけで、かつ不動産がない
  • すでに財産を子どもの名義に移している
  • 本人が若くまだまだ健康である
  • 家族仲が非常に悪い

詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
▶自分には家族信託は必要ない?家族信託が不要な4つのケース

家族信託の費用を安くできますか?

家族信託を行う際にかかる費用は信託財産の1%程度が目安と言われています。

登記費用や公証役場の費用など、契約内容に応じて別途費用が発生することもあります。

しかし経験豊富な専門家であれば、家族信託する財産を調整するなど、家族信託の費用を抑える方法を検討してくれるはずです。

家族信託の費用について詳しくはこちらの記事をご覧ください。