現行の成年後見制度が大幅に改正される可能性が出てきました。

成年後見制度は2000年にスタートした支援制度で、知的障害や認知症などにより判断能力が不十分な人に代わって財産管理や福祉サービスの契約などを支援することを目的としています。

ただし後見制度には手続きの面や後見人への報酬を要する点など、時間的・コスト的な問題が従来より指摘されてきました。

成年後見制度は今後、どのように改善されていくのでしょうか。現在、制度が抱えている問題点も含めてご紹介します。

要約

  • 成年後見制度は家庭裁判所を介するなど、手間も時間もかかるため普及は伸び悩んでいる
  • 本人の意向を反映できる比較的柔軟な任意後見であっても、その利用はかなり伸び悩んでいる
  • 「成年後見制度等の見直しに向けた検討」は、令和4年から令和8年にかけて行われる予定
  • 次の3項目が今回の会議では主に指摘された:
  • 本人にとって必要な時に、必要な範囲でのみ利用できる制度とするべき
  • すでに成年後見制度を利用している人について、一定期間ごとに本当に後見制度が必要な状態か、見直す機会を設けるべき
  • 柔軟に後見人を交代できるようにするべき

成年後見制度でお悩みの方へ

専門家のイメージ

成年後見制度では、財産の柔軟な管理ができない、家族が後見人になれない、専門家への報酬が高いなど、さまざまな課題があります。

認知症に完全になる前であれば、任意後見や家族信託など、他の制度を選択することもできます。費用や各制度のデメリットなど、専門家と相談し慎重に決めることをおすすめします。

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成年後見制度とは

周囲のサポートや介護が必要な状況になると自立した身辺管理が難しくなり、お金の管理も困難となってくることがあります。成年後見制度はそのような際のサポートとして運用されています。

成年後見制度には大きく分けて「法定後見」と「任意後見」の2種類があり、利用の手順が異なります。

● 法定後見
預金口座の利用を停止されてしまった場合などに家庭裁判所へ申立てて利用する後見制度

● 任意後見
本人の判断能力が十分なうちに希望の人物と任意後見契約(公正証書)を締結し、認知能力が低下した時に家庭裁判所に申立て、「任意後見監督人」の選任を経て利用開始できる制度

法定後見は必要に迫られるような段階になっても申立てることができる制度であり、一方の任意後見制度は比較的、本人の意思を叶えやすい制度だといえるでしょう。

進んでいない制度の利用

救済的な位置づけで機能している成年後見制度ですが、制度の利用を見てみると鈍い動きとなっていることが分かります。

国内には認知症の人は約600万人いると推計されています。しかし成年後見の利用者については2021年末時点で計約24万人、4%程度の利用という段階です。

認知症の方すべてが後見制度の利用を必要としているとは限らないため単純に測れない部分もありますが、後見制度の利用はそれほど進んでいない段階だといえるでしょう。

主に認知症患者の財産管理支援に用いられる成年後見制度の申立件数は、2021年は39,809人に上り昨年対比で7%増加した。しかし2020年における認知症患者数631万人に対し、2021年の成年後見制度の利用者数は23万9933人であり、認知症患者数に対する成年後見制度の利用者数の割合はわずか3.8%に留まった。
【調査レポート】2021年の成年後見制度申立件数は増加。しかし普及率は低迷続く

現行の成年後見制度の課題…今回提起された改善案とは

2000年の成年後見制度の発足以降、2016年4月8日には「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(成年後見制度利用促進法)が成立し、厚生労働省では2018年から専門家会議を設置しています。

今回、2021年12月16日付の報道は、現行制度が抱えている問題点について有識者会議で提起された内容に関する内容でした。

【有識者会議「成年後見制度利用促進専門家会議」にて議論された内容】

成年後見制度については、(中略)本人にとって適切な時機に必要な範囲・期間で利用できるようにすべき(中略)、終身ではなく有期(更新)の制度として見直しの機会を付与すべき、本人が必要とする身上保護や意思決定支援の内容やその変化に応じ後見人を円滑に交代できるようにすべきといった制度改正の方向性に関する指摘(中略)がされている。
国は、こうした成年後見制度利用促進専門家会議における指摘も踏まえ、(中略)成年後見制度の見直しに向けた検討を行う。

引用: 厚生労働省 「成年後見制度利用促進専門家会議」第二期成年後見制度利用促進基本計画に盛りこむべき事項

ここでは、成年後見制度について3項目、指摘されています。

  • 本人にとって必要な時に、必要な範囲でのみ利用できる制度とするべき
  • すでに成年後見制度を利用している人について、一定期間ごとに本当に後見制度が必要な状態か、見直す機会を設けるべき
  • 柔軟に後見人を交代できるようにするべき

この提言にもある通り、成年後見制度では最初の決定を後から変更することが非常に難しいという課題があります。

  1. 一度、成年後見制度の利用を開始すると、本人が亡くなるまで辞められない
  2. 後見人の途中交代は難しく、最初に決まった人物が継続する
  3. 親族が後見人に就くことが難しい

これらの課題は利用者やその家族の負担にもなっている項目です。その重要性や問題点についてご説明します。

(1)後見制度の利用は途中で停止できない

成年後見制度を利用し始めると、基本的には本人が亡くなるまで利用を継続することになります。一時的な利用はできず、生涯にわたり後見人が資産管理を行います。

代理権を有する後見人がいることで各種手続きが可能となりますが、報酬等の負担の大きさが指摘されているのです。

◎ 報酬の負担

後見人への報酬は基本報酬で月2〜6万円であるため、1年間で24万円〜72万円になります。仮に5年程度の利用であったとしても、基本報酬だけで120万円〜360万円にも上るのです。

成年後見人へ支払う毎月の費用は2〜6万円程度です。本人の財産額や、後見事務の内容によって家庭裁判所が報酬額を決定します。 成年後見制度は原則本人の死亡まで続くため、トータルで数百万円に及ぶことも。費用が決定される基準や払えない時の対処法などを解説していきます。
成年後見人への毎月の費用は?いつまで払う?払えない時の対処法も解説

このような報酬負担は財産管理で困っている家族にとっては大きなマイナス要因であり、制度利用に二の足を踏む原因になっています。

◎ 一時的な利用ができない

成年後見制度は原則として、本人が亡くなるまで利用が継続します。

そのため、後見人により自宅不動産の取引だけ済ませたいというケースでも、制度を利用しにくい要因になるでしょう。

成年後見制度は、認知症になった人物名義の不動産を売却する必要が生じ、その目的をきっかけとして申立てが行われることがあります。

他の取引や継続的な資産管理が必要な状況であれば利用を開始してもメリットがあるでしょうが、主な目的が自宅の売却のみにとどまる場合、なかなか申立てにつながりません。

現状の制度では一時的な利用はできないため、不動産の売却が完了しても利用の停止ができず、やはり報酬などの負担が続いてしまいます。

もし、不動産の売却のみなど、ピンポイントで成年後見人へ依頼することが可能になれば、成年後見制度の利用も大幅に進むのではないかとみられています。

(2)後見人の交代が難しい

現状の成年後見制度では、一度選任された成年後見人を交代することは容易ではありません。

成年後見人に任期はなく、成年後見人自身が辞任するか、解任されるなどしない限り、ずっとその成年後見人が職務を行います。

辞任をするときも家庭裁判所の許可を得る必要があるため、実質的に後見人の交代は難しい状況なのです。

◎ 法律の専門家が後見人になる利点

法定後見人の多くのケースで、弁護士・司法書士等の専門家が就任しています。

後見人は代理権を行使するため、職務の幅が広く複雑になることがあります。

例えば、後見開始当初は財産管理の問題がメインとなり、金銭や登記、相続関連に専門性を有する司法書士等が適任であるケースが多いといえるでしょう。

◎ 福祉の専門家が後見人になる利点

財産管理の手続きが完了し、金銭管理の仕組み作りが完了した段階になれば、あとは規定に沿った管理になるため法的に難しい部分は減ってくることがあります。

一方、年数経過とともに本人の健康状態が変化して手厚い介護などが必要となり、介護の専門家(社会福祉士等)が後見人になる方が適切になる時期がくることもあるでしょう。

しかし、現状の制度では後見人の交代は容易ではないため、最初に選定された専門家が継続するのが通常です。

もし、後見人が財産状況や本人の健康状態に応じて柔軟に交代することが可能となるならば、本人にとってより最適な後見利用につながるはずです。

専門家会議でも後見人の交代についても指摘がなされています。

(3)親族が後見人になる難しさ

成年後見制度は、親族や専門家による「後見人」によって支えられています。

成年後見制度の発足当時、法定後見で選任される後見人の9割以上が「親族」後見人でした。しかし今では4割程度に落ち込んでいます。

この記事では、家族であれば後見人になれるのかどうか、そもそも後見人になるためにはどのような資質や資格が必要なのか、そして、後見人になることができる法律上の要件としてどうのような制約があるのかについて解説します。後見制度の利用を検討している方や、後見制度の仕組みをしっかりと理解したい方は、ぜひ最後まで読んでください。
成年後見人になれる人とは?家族・親族は後見人になれる?

任意後見の利用には「任意後見監督人」の選定が必須ですし、法定後見では親族が後見人になった際に「法定後見監督人」も併せて選定されることがあります。

少なくともこれらの後見監督人は弁護士や司法書士などの専門家であり、所属団体による基礎研修や更新研修を受けた上で、家庭裁判所への登録を受けた人物のみが候補者となります。

だからこそ専門家後見人への信頼性が高いのですが、一方で、後見人になる親族については明確な支援はない状態にあるのです。

◎ 任意後見でも親族に負担が

任意後見制度は、依頼する本人の意思・判断能力がはっきりしている段階で事前に契約する制度であり、後見予定者の多くが家族や親族です。

しかし任意後見人として契約していても、後見事務について教育や支援を受けられる機会はありません。

そして実際の後見利用には家庭裁判所への申立てが必要であり、必要な後見監督人の選定までに時間もかかります。

気軽に相談できる所はなく、問い合わせ先は家庭裁判所ということに。

家庭裁判所のデータによると、実際に任意後見が開始したのは6.8%程度という数値もあり、令和3年度においても全国で784件にとどまっています。

比較的、本人の意向を反映できる任意後見であっても、その利用はかなり伸び悩んでいるようです。

成年後見制度の改正により、改善が期待される

2021年に有識者会議が行われた後、2022年3月25日に成年後見制度をより利用しやすい制度にし、多くの人に利用してもらうことを目的とした「 第二期成年後見制度利用促進基本計画 」が閣議決定されました。

そこでは、

  • 後見人に期間を定め、「終わりのない後見」から「終わりのある後見=適時の後見へと制度を改正する
  • 成年後見制度以外の権利擁護支援策を充実させる

といった内容が含まれる計画が示されました。

後見人に期間を定め、「終わりのない後見」から「終わりのある後見=適時の後見」へ

ここまで成年後見制度の問題点について解説しましたが、まさに現在の成年後見制度は、本人にとっても選任された後見人にとっても「終わりのない後見制度」となっています。

そこで、このような現状を変えようと、今回の「第二期成年後見制度利用促進基本計画」では、財産の売買や相続の必要性が発生した場合など、専門性の高い場面では弁護士を始めとする専門職の方が後見人として業務を担います。

そして業務終了後は、本人が後見人制度の利用をやめたり、後見人を家族や福祉職の方と交代出来るようにすることで、日常生活のサポートを可能にすることが検討されました。

これにより、従来の制度に比べて、より柔軟に後見人の選定や交代を行うことが可能になるものと期待されます。

成年後見制度以外の権利擁護支援策を充実させる

必要な時に制度を利用するという適時の後見によって、後見制度の利用を辞めた後の高齢者の暮らしについて支援する制度の確立も併せて政府は目指しています。

具体的には、民間事業者の参入や、都道府県の機能を強化し、市民後見人の養成を行うことを想定しています。

市民後見人とは、弁護士や司法書士といった専門の資格を持っていない、市民による成年後見人のことです。これに親族は含まれません。市民後見人を育成することは、成年後見制度の担い手となる人材の育成に繋がります。

今後は、後見制度の利用中に限ったピンポイントの視点ではなく、「後見制度を利用する前」、そして適時の後見によって後見を利用しなくなった「後見制度の後」まで、国と地方自治体がしっかりと連携をとり、トータルサポートが出来る仕組みを整えていくことが目指されています。

成年後見制度はいつ改正される?

第二期計画は2022年〜2026年の間で実施されており、2026年までどのように動いていくかについての話し合いが、2024年に「中間検証」として行われます。

現状の基本方針としては、2026年に民法改正案をまとめて国会に提出する予定です。

2021年の会議からかなり時間がかかっているようにも感じられますが、民法は国民の生活に直接的に関わってくるものなので、法改正がすぐできるものではありません。

成年後見制度の改正は、早くても民法の改正案を国会に提出する2026年以降の話になるでしょう。

しかし、「2025年問題」といった高齢社会の問題が差し迫っているため、専門家委員の山野目先生は遅くとも2030年までには改正が行われていないといけないと述べられています。

そのように考えると、改正の時期としては、直近すぐに行われるものではなく「2026年以降、2030年以内」と考えるのが現状としては妥当と言えるでしょう。

参考: 日本記者クラブ「成年後見制度改革の必要とその方向性」 山野目章夫・早稲田大学大学院教授

財産管理について「家族信託」の活用も検討すべき

昨今、認知症の患者の方が生活するうえで困っている財産管理や医療の問題について、少しずつ改善されつつあるという報道を目にすることが増えました。

認知症の患者の方の預金を家族が下ろすための一定のルールが、全国銀行協会から発表されたことは、このコラムでも取り上げています。

親が認知症になると銀行口座が凍結され、貯金を下ろせなくなってしまうことにお悩みではありませんか? この記事では、認知症の親の銀行口座から貯金を下ろすための方法を、司法書士がわかりやすく解説します。
認知症の親の口座から貯金を下ろす4つの方法を司法書士が解説

現状では、認知症を発症してしまっている方とそのご家族が、財産の管理について困った状況に陥ってしまっている状況もまた事実です。

そのような課題を解決する方法として、財産を家族で管理する「家族信託」が急速に普及しつつあります。

家族信託は「認知症による資産凍結」を防ぐ法的制度です。認知症が進行し意思能力を喪失したと判断されてしまうと、銀行預金を引き下ろせない、定期預金を解約できない(口座凍結)、自宅を売却できないなどのいわゆる「資産凍結」状態に陥ってしまいます。そのような事態を防ぐために、近年「家族信託」が注目されてきています。この記事では家族信託の仕組みやメリット、デメリットをわかりやすく解説します。
家族信託とは?わかりやすくメリット・デメリットを徹底解説します

契約成立時に意思能力・契約能力があることが前提となりますが、家族の事情に合わせて設計することができ、高齢期の資産管理に適した方法だといえます。

高齢の方の財産管理については、認知症が進行する前の対策が大きな意味を持ちますので、情報を集めながら家族信託について学んでみてはいかがでしょうか。

信託や資産管理、不動産を含む資産管理のご相談は当トリニティグループで承っておりますので、ぜひお任せください。

成年後見制度でお悩みの方へ

専門家のイメージ

成年後見制度では、財産の柔軟な管理ができない、家族が後見人になれない、専門家への報酬が高いなど、さまざまな課題があります。

認知症に完全になる前であれば、任意後見や家族信託など、他の制度を選択することもできます。費用や各制度のデメリットなど、専門家と相談し慎重に決めることをおすすめします。

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