成年後見制度は、家庭裁判所に対して後見人の選任を申し立てることで開始します。この申立ての手続は、本人、配偶者、四親等以内の親族などから行うことが可能です。

この記事では、専門家に頼らず、本人の家族がご自身で成年後見の手続きを進めるために必要な情報をまとめました。

要約

  • 成年後見制度は大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」という制度の総称
  • 法定後見は、本人の判断能力が低下してから親族等が家庭裁判所に申し立てて手続きをする制度
  • 任意後見は、本人の判断能力の低下に備えてあらかじめ後見人を選んでおく制度
  • 成年後見制度は費用負担が大きく、かつ財産の利用に大幅な制限が発生する
  • 対象者が完全に判断能力を喪失する前であれば家族信託も検討できる
  • どちらを利用すべきかは状況により異なるため、まずは専門家にご相談を

家族信託をご検討の方へ

あなたのご家庭にとってなにが一番合った財産管理の方法なのか、ご状況に応じた適切な対策を一緒に考えさせて頂きます。

認知症による資産凍結に関するお悩みや、家族信託・成年後見を用いた具体的な対策方法など、専門家へお気軽にお問合せください。

プレスリリース: 家族信託等の利用動向を示す土地信託登記件数 2022年上半期は昨年対比149%増加

成年後見制度とは?

成年後見制度とは、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」という2つの制度の総称です。

《成年後見制度の「法定後見」とは》

法定後見制度とは、本人が認知症などを理由に財産の管理ができなくなり、支援が必要になった後に、家庭裁判所に申し立てて後見人の手続きをする制度となります。

家庭裁判所が成年後見人を選任し、以後、成年後見人が本人の財産を管理する制度です。

《成年後見制度の「任意後見」とは》

一方、任意後見制度とは、本人が認知症などを発症する前に、将来の意思能力の低下に備えてあらかじめ後見人になってもらう人を選んでおく制度で、裁判所を通して監督人が選任されることで後見契約の効力が生じるという制度となります。

これら「法定後見制度」「任意後見制度」について手続きを順に解説します。

法定後見制度の利用手順

法定後見制度の利用手順については以下の①〜⑩のような流れとなります。

① 申し立て前の確認事項(管轄・申立権限)

法定後見制度の申し立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
管轄の異なる家庭裁判所では申立てを受理してもらえませんので注意しましょう。

また、申し立てる権限を持った人も法律で定められています。具体的には、本人、本人の配偶者、本人の4親等内の親族、および検察官等です。

4親等内の親族とは、高祖父母、曽祖父母、祖父母、父母、子、孫、ひ孫、玄孫、兄弟姉妹、甥・姪、姪孫、おじ・おば、いとこ、大おじ・大おばを指します。

これら4親等内の血族と配偶者、3親等内の姻族が、法定後見の申立権限を有します。

②「診断書」と「本人情報シート」の取得

法定後見制度を利用する場合には、医師による診断書と介護支援事業所作成の「本人情報シート」を家庭裁判所へ提出する必要があります。

診断書作成のため、先に福祉関係者(担当のケアマネジャーやケースワーカー)に「本人情報シート」の作成を依頼します。

本人情報シートは家庭裁判所が指定した様式があり、本人の生活機能・認知機能などについて詳細に記入する項目があります。

《福祉関係者へ依頼する書類》

  • 「本人情報シート」(家庭裁判所の指定書式)
  • 『「本人情報シート」の作成を依頼された福祉関係者の方へ』(案内文)

この書類で介護等利用状況の確認が行われます。できあがった本人情報シートはコピーを手元に残し、原本を医師に渡して診断書の作成を依頼します。

《医師へ依頼するときに渡す書類》

  • 診断書・診断書付票の書式(成年後見制度用・家庭裁判所の指定書式)
  • 「本人情報シート」の原本
  • 「診断書を作成していただく医師の方へ」(裁判所が用意した案内書)

これらの書類は、管轄の家庭裁判所のホームページから入手できます。管轄毎に若干、様式が異なる場合もありますので、必ず管轄の家庭裁判所の様式をダウンロードするようにしてください。

本人情報シート(成年後見制度用)の記載例はこちら から確認できます。)

また、診断書については基本的に主治医作成の診断書となりますが、主治医がいない場合や、主治医に診断書の作成を断られてしまった場合には、主治医以外の医師の診断書でも構いません。

診断書の作成費用は医療機関によりますが、おおよそ5,000円〜10,000円程度です。

③ 申立ての際に集める書類

法定後見制度の申立ての際に必要となる書類として以下のようなものがあります。

項目 内容
本人の戸籍個人事項証明書(抄本) 戸籍謄本のうち、本人に関する事項のみ証明する書類です。
本人の本籍地の市区町村にて取得することができます。
※本人の本籍地が不明な場合は、本人の本籍地入りの住民票を取得することで確認できます。
本人の住民票 本人の住民票を、住所地の市区町村にて取得します。
本人が登記されていないことの証明書 成年後見制度を利用すると、法務局においてその旨が登記されます。
新たに法定後見制度を申し立てる際には、重複して成年後見制度を利用することが無いように、本人が登記されていないことの証明書を家庭裁判所に提出します。

※この書類は各都道府県の法務局の本庁にて取得できます
※支部や出張所では取得ができず、また、郵送で取得する場合には東京法務局でしか取得できないので注意が必要です。
後見人候補者の住民票 (後見人候補者がいる場合)
福祉関連の手帳のコピー (本人が福祉関連の手帳を保有している場合)

④ 申し立ての際に作成する書類

家庭裁判所の用意している様式に基づき、以下のような書類を作成する必要があります。

項目 内容
後見・補佐・補助開始等申立書 申立てと同時に、家庭裁判所が定める手数料(収入印紙)や切手を納めます
・申立て手数料(800円)
・登記手数料(2600円)
・手続き書類の郵送に必要な郵便切手

※金額は家庭裁判所によって異なることがあります
申立事情説明書 病歴等を含め、本人について記載
親族関係図 親族が申立てをする場合(各人の生年月日についても記載)
本人の財産目録およびその資料 財産目録…判明している限りの財産を記載
(その財産に関する資料も添付すること)

※預金は通帳のコピー、不動産であれば登記事項証明書、保険であれば保険証券などのコピーを添付
本人の収支予定表 この書類には収支関連のコピーを添付します。
●収入に関する資料(年金通知書のコピー等)
●支出に関する資料のコピー(住居の賃貸借契約書や、施設費の領収書等のコピー)
親族の意見書※ 親族(本人が亡くなった際に相続人となる人)の意見書

※親族の意見書について

家庭裁判所は、後見人の選任をする際に、親族の意見も重視します。とくに後見人候補者がいる場合には、その候補者が後見人になることについて反対意見を持つ親族がいないか、家庭裁判所からの確認が入るのです。

1人でも反対する親族がいる場合には、その候補者が後見人に選ばれることはありません。

⑤ 家庭裁判所との面接予約

家庭裁判所は後見人選任の過程で申立人および候補者に対して面接を行いますので、書類を提出する前に、その面接の日程を予約しておきましょう。

⑥ 家庭裁判所へ書類の提出(申立て)

家庭裁判所に書類を提出します。提出は郵送でも可能です。

⑦ 面接・本人調査

④で予約した日程に、家庭裁判所に出向きましょう。申立人および候補者に対する面接に加えて、本人との面談(本人調査)も実施されます。

本人が家庭裁判所に出向けない場合は、家庭裁判所の職員の方が本人の自宅や施設まで出張してくれます。

⑧ 審判→後見開始の確定→裁判所による登記

家庭裁判所における審査の後、後見開始の審判がなされます。2週間以内に不服申し立てがなければ、その審判が確定します。

本人について後見が開始した旨が法務局において登記されます。この登記の手続きは、家庭裁判所が行ってくれますので、別途申立人による手続きは必要ありません。

個別事案の状況によりますが、多くの場合、申立てから法定後見の開始までの期間は4か月程度が目安となります。

⑨ 財産目録等の初回報告

成年後見人に選任された方は、まず、本人の財産を調査のうえ財産目録および年間収支予定表を作成し、資料を添えて家庭裁判所に提出します。

この初回報告を終えるまでは、急を要するもの以外、本人の財産から費用の支出などは行ってはいけません。

⑩ 財産管理について定期報告

成年後見人に選任された方は、年に1回、家庭裁判所に対して、自主的に財産管理の状況について報告をする義務があります。

提出時期について家庭裁判所からの案内はありませんので、自主的に期限を把握し、書類を作成して報告する必要があるため注意しましょう。

また、報酬を受け取ることを希望する場合は、この定期報告とともに、報酬付与の申立てを行います。

成年後見制度についてはこちらの記事もご参照ください。
【完全版】成年後見制度とは?司法書士がわかりやすく制度を解説

任意後見制度の利用手順

任意後見制度の利用の手順は以下のような流れとなります。契約を作成する段階と、本人の判断能力が低下した後の発効手続きという2段階に分かれています。

[1]公証役場での契約書作成

任意後見制度を利用する場合、まず、本人の意思・判断能力が健康な時点であることを前提として、任意後見契約書を公正証書で作成します。

任意後見では私文書での契約書は認められていないため公証役場で作成しましょう。

公証役場には特に決まった管轄はありませんが、出張による手続きを依頼する場合には、出張先と同じ都道府県内の公証役場に依頼する必要があります。

① 公証役場で任意後見契約書を作成する際に必要な書類

《任意後見契約書の作成に必要な書類》

  • 本人の戸籍、住民票および印鑑証明書
  • 任意後見受任者(将来、任意後見人となる人)の住民票および印鑑証明書

② 契約書案の作成

《任意後見契約書に記載する項目》

  • 任意後見人の報酬
  • 任意後見人による報告の期間
  • 任意後見人に付与する代理権の範囲等(代理権目録)

代理を依頼する内容については代理権目録で指定します。本人が希望する支援内容に応じて必要な代理権限の範囲を一覧にしたものを作成します。

契約書については公証役場に汎用性のある雛型が備え付けられていますが、契約内容は代理権の範囲など個別の事案になるため注意点もあります。

契約内容については内容の点検も含めて司法書士などの専門家に相談すると良いでしょう。

③ 契約の締結と後見登記

公証役場で、本人、任意後見受任者および公証人が、契約書に署名押印し契約を締結します。

公証人に支払う手数料は以下の通りです。契約内容や依頼内容によって費用が変わりますので事前に確認しておきましょう。

《公証人に支払う手数料の例》

項目 内容
基本手数料 11,000円
登記嘱託手数料 1,400円
収入印紙代 2,600円
出張対応の日当 (公証人の出張が必要な場合)

契約が締結された後に後見登記の手続きとなります。公証人が法務局に登記を依頼するため、本人・申立人の手続きは不要です。

登記が完了することで任意後見契約の内容(任意後見受任者の氏名や代理権限の範囲など)を公的に証明することになるのです。この登記された内容を書面化したものを「登記事項証明書」といいます。

[2]任意後見契約の発効手続

認知症などによって本人の判断能力が低下し、任意後見人による代理が必要な段階になると、家庭裁判所に対して任意後見監督人の選任の申立てを行います。

これにより任意後見契約が発効し、任意後見人による財産管理が開始します。

① 任意後見契約の発効に際して集める書類

任意後見監督人選任の申立てには、以下の書類が必要になります。医師の診断書については成年後見制度の利用時と同じです。

項目 内容
申立人の書類 申立人の戸籍謄本(全部事項証明)
本人の書類 本人の戸籍謄本(全部事項証明)・住民票
医師の診断書および本人情報シートの写し
※作成の要領は、成年後見制度と同様
成年後見登記事項証明書※
介護保険認定書、医療手帳、障がい者手帳などの写し
任意後見受任者の書類 任意後見受任者の住民票
任意後見契約公正証書の写し 公証役場で作成した契約書(写し)

※成年後見登記事項証明書は、本人の登記事項証明書と成年被後見人等の登記がされていないことの証明書です。

② 任意後見契約の発効に際して作成する書類

任意後見監督人選任の申立手続の際に作成が必要になる書類は次の通りです。

項目 内容
申立書 申立てと同時に、家庭裁判所が定める手数料(収入印紙)や切手を納めます
・申立て手数料(800円)
・登記手数料(1400円)
・手続き書類の郵送に必要な郵便切手

※金額は家庭裁判所によって異なることがあります
※郵便切手の種類や枚数も家裁により異なる場合があります
申立事情説明書 病歴等を含め、本人について記載
親族関係図 親族が申立てをする場合(各人の生年月日についても記載)
任意後見受任者事情説明書 身上、収入について(受任者自身が作成)
本人の財産目録およびその資料 財産目録…判明している限りの財産を記載
(財産ごとに、その財産に関する資料※も添付)

*預金は通帳のコピー、不動産であれば登記事項証明書、保険であれば保険証券などのコピー
収支状況報告書 この書類には収支関連のコピーを添付します。
●収入に関する資料(年金通知書等のコピー)
●支出に関する資料(住居の賃貸借契約書や、施設利用費の領収書等のコピー)

③ 任意後見契約の発効の申立て

書類を管轄の家庭裁判所に提出します。任意後見監督人の選任についても本人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

[3]任意後見の開始

任意後見が開始してからの手続きは、基本的に成年後見制度と同様です。ただし毎年の報告書の提出は家庭裁判所ではなく、後見監督人に対して行います。

  • 初回報告:本人の財産を調査のうえ財産目録および年間収支予定表を作成
  • 定期報告:年に1回、自主的に財産管理の状況について報告

初回報告を終えるまでは急を要するもの以外、本人の財産から費用の支出等を行なうことはできません。

報酬を受け取ることを希望する場合は、この定期報告とともに、報酬付与の申立てを行ないます。

任意後見制度についてはこちらの解説記事もご参照ください。
任意後見制度について

法定後見・任意後見ともに負担が大きい

以上、成年後見について法定後見・任意後見、両制度の手続きについてまとめました。

成年後見の手続きは決して簡単なものではありません。また、後見制度は家庭裁判所による監督の下で運用されますので、財産の管理や処分について一般的な感覚とは異なる制約の下で行われます。

しかもとくに法定後見制度については、一度開始すると、実質的に本人が亡くなるまで中断もできない構造となっています。

そのため申立てに際しては、長年にわたり一定の負担が続くことをあらかじめ認識し、また、手続きを開始する前に他の選択肢についても検討しておくことが大切です。

また、そのような制約を受けず、自由で柔軟な財産管理を実現するために、「家族信託」の制度を利用する人が増えてきています。

家族信託は本人の判断能力・契約能力のある段階での手続きとなるため症状の面で制約がありますが、家族内で財産の管理をするため使い勝手の良さがあります。

資産の管理を指定された受託者が行うため、希望に応じて家族の中でお金の管理を取り扱うことが可能です。

例えば持ち家を売却して老人ホームへの入所資金にするなど、希望に合わせた資産の管理・処分が可能となります。

成年後見制度の利用について検討している場合、家族信託についても検討してみてはいかがでしょうか。

[参考記事]
家族信託とは?メリット・デメリット・費用をわかりやすく解説

高齢の家族は一人ではないと思います。これから高齢世代に入る家族も含め、準備と対策のための知識を増やしておきましょう。
家族信託と成年後見の違いは?どちらを使うべき?

制度の利用には、判断能力・契約能力とのバランスが重要となります。また、認知症対策や判断能力の判定についても司法書士等の専門家からアドバイスが可能です。

疑問や家族の財産管理の悩みなどについてもぜひご相談ください。

[参考記事]
【完全版】成年後見制度の費用・後見人への毎月の報酬について解説

家族信託をご検討の方へ

あなたのご家庭にとってなにが一番合った財産管理の方法なのか、ご状況に応じた適切な対策を一緒に考えさせて頂きます。

認知症による資産凍結に関するお悩みや、家族信託・成年後見を用いた具体的な対策方法など、専門家へお気軽にお問合せください。