認知症患者が急増する現代において、高齢者の財産管理を支援する「家族信託」という制度が非常に注目を集めています。
家族信託とは 「認知症による資産凍結」を防ぐ法的制度 です。
認知症の発症などにより意思能力を喪失してしまうと、財産管理の意思表示ができなくなり、金融機関(銀行など)の口座が凍結されることがあります。
そのような事態になる前に「家族信託」の契約が済んでいれば、資産の名義を家族名義に変更できるため、口座凍結を免れることができるのです。
この家族信託を利用するためには、専門家によるサポートや、家族信託に対応している金融機関での手続きが必要になります。
この記事では各金融機関における家族信託の対応状況について、詳しくご紹介します。
要約
- 家族信託に対応している銀行・証券会社は年々増えてきている
- 家族信託をするためには、信託口口座が原則として必要
- 信託口口座を開設する際は、金融機関ごとに取り扱いが異なるので事前確認が必要
- また、金融機関から信託財産を担保として融資を受けることも可能
- どの金融機関を選べばいいか、家族信託の経験が豊富な専門家に相談ください
家族信託をご検討中の方へ

目次
家族信託で預貯金を管理する方法
認知症になると、身の回りを含めて様々な管理が難しくなります。
その中でも多くの方が困るのが、銀行預金(金銭)の管理でしょう。
預金口座の名義人が認知症を発症し、症状が進行して意思能力を喪失してしまうと、本人が自力で預金を下ろすことが難しくなる点に加えて、金融機関側が口座の保全のため利用を凍結することがあるからです。
こうなると生活費や介護関連の費用など、家族が立替える必要が出てきます。
もし早期のうちに家族信託の契約ができていれば、信託契約に基づいて預貯金の残高を信託口口座に移動するため、預金が使えなくなるのを防ぐことができます。
注意点として、本人(口座名義人)の意思能力・契約能力が必要だという点がありますが、財産を預かる「受託者」に資金管理を依頼することが可能となるのです。
【2023最新】家族信託とは?メリット・デメリット・費用について|家族信託をわかりやすく説明します
家族信託は「認知症による資産凍結」などを防ぐ法的制度のこと。自分の財産(不動産、預貯金など)を管理できなくなったときに備えて、自分が保有する財産の管理や運用、処分をする権利を家族に与えておくことができる仕組みです。この記事では家族信託の仕組みやメリット、デメリットを解説します。
家族信託に対応している銀行・証券会社一覧
家族信託に対応している金融機関をご紹介します。
数年前までは信託口口座の開設に対応している金融機関は非常に少なかったのですが、近年になり増えてきました。
今では、日本全国どのエリアでも、家族信託を利用することができるような環境が整いつつあります。
家族信託に対応している銀行(一部抜粋・発表当時の資料から引用)
●2016年
三井住友信託銀行が、信託口口座開設に対応開始
広島銀行が、民事信託に対応したローン商品の取り扱い開始
千葉銀行が、ちばぎんファミリートラストサポートサービスの取り扱い開始
●2017年
栃木銀行が、民事信託に対応した預金口座の取り扱いを開始
武蔵野銀行が、家族信託サポートの取り扱いを開始
琉球銀行が家族信託サービスの取り扱いを開始
四国銀行が民事信託コンサルティング業務の取り扱い開始
横浜信用金庫が家族信託の取り扱いを開始
中国銀行が、民事信託契約支援業務の取り扱いを開始
●2018年
オリックス銀行が家族信託サポートサービスを開始
七十七銀行が、民事信託契約に基づく預金口座の取り扱い開始
山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行が、民事信託サポートサービスの取り扱い開始
沖縄銀行が、家族信託サポートサービスの取り扱い開始
池田泉州銀行が民事信託コンサルティング業務の取扱を開始
秋田銀行が、民事信託コンサルティング業務の取り扱い開始
●2019年
京葉銀行が家族信託の取り扱い開始
千葉興業銀行が民事信託コンサルティング業務の取扱を開始
十六銀行が受託者向け信託口口座の取扱を開始
紀陽銀行が、民事信託受託者向けサービスの取り扱い開始
仙台銀行が、民事信託口預金口座の取り扱い開始
広島信用金庫が民事信託コンサルティング業務を開始
東和銀行が、民事信託サービスの取り扱い開始
三重銀行、第三銀行が、信託口口座の開設に対応開始
京都銀行が、民事信託サービス(取次ぎサービス、口座開設サービス)開始
宮崎銀行が、家族信託サービスの取り扱い開始
●2020年
長野銀行が、家族信託の取り扱い開始
第四銀行が、家族信託の利用支援業務開始
福岡銀行が、民事信託コンサルティングサービスの取り扱い開始
山形銀行が、やまぎん家族信託サポート~Family Assist~の取り扱い開始
常陽銀行が、家族信託の取り組み強化
●2021年
平塚信用金庫が、民事信託業務の取り扱い開始
愛媛銀行で『民事信託』の顧客紹介業務の取扱を開始
●2022年
横浜銀行とトリニティ・テクノロジーが家族信託に関する業務提携を発表
広島銀行が民事信託マネジメントサービスの新商品導入を発表
肥後銀行が民事信託関連サービスの取扱を開始
常陽銀行とトリニティ・テクノロジーが家族信託に関する業務提携を発表
家族信託に対応している証券会社(一部抜粋・発表当時の資料から引用)
有価証券等をお持ちで、高齢になっても引き続き保有したい場合もあるでしょう。
信託口口座の開設に対応している証券会社も年々増えてきています。
有価証券も家族信託する(信託財産に入れる)のであれば、証券会社が家族信託に対応しているかどうかも調べておきましょう。
●2017年
野村証券が家族信託による証券口座開設に対応
●2018年
廣田証券が民事信託における受託者の口座取扱を開始
●2019年
大和証券が民事信託(家族信託)サポートを開始
●2020年
楽天証券がIFA(資産運用アドバイザー)を通じた家族信託サービスを開始
●2021年
東海東京フィナンシャル・ホールディングス 民事信託による投資を受け付け開始
●2022年
SBI証券がトリニティ・テクノロジーとの家族信託に関する業務提携を発表
めぶき証券とトリニティ・テクノロジーが家族信託に関する業務提携を発表
銀行で家族信託をする方法・手続きについて
家族信託を利用して金銭を管理する際には「信託口口座」が必要です。
受託者(子)は「分別管理義務(信託法第34条)」に沿って信託資産を個別に管理する必要がある ため、個人口座とは別に口座を用意することになります。
銀行の信託口口座の特徴
信託口口座とは、受託者が信託金銭を管理するための専用の口座で、通常の口座とは異なる取り扱いです。
また、信託口口座を開設できる金融機関は現在のところ限られており、すべての金融機関が対応しているわけではありません。
信託口口座の開設には、一定の審査(信託契約書の内容確認など)や費用が必要になることもあります。
信託法により守られている口座であり、一般的な銀行の口座開設のように簡単にはいきません。
信託口口座はさまざまな利用規程がありますので、家族信託をする際にはどこの銀行で信託口口座を開設するか、専門家と打ち合わせが必要になります。
家族信託の口座(信託口口座)のつくり方について解説
家族信託を利用する場合、信託法で受託者は「分別管理義務」を負い、信託された財産と個人の財産とを分別して管理しなければならないとされています。この記事では信託口口座の特徴や口座の開設方法などについてご紹介しますので参考にして下さい。
信託口口座へ預貯金を移動する方法
家族信託において、預貯金の残高を信託口口座に移動する手順は次の通りです。
- 財産を預ける委託者(親)と財産を預かる受託者(子)との間で信託契約を締結
- 金融機関で受託者名義の信託口口座を開設
- 信託したい金銭を、委託者の個人口座から信託口口座へ資金移動
また、信託口口座を作成する前に、信託契約書の作成時において注意点すべき点もあります。
金融機関によっては信託契約の中に所定の取引条項を入れるよう求めてくるケースがあるのです。
また、信託口口座の作成には公正証書で作成した信託契約書が必要となります。
信託契約を作成する際には、専門家に相談の上、契約の内容を固めていくようにしましょう。
信託口口座の作成が難しい場合
家族信託をする際に、一般に3つの口座の作成方法があります。
信託口口座の作成が難しい場合は、下記2、3のような方法で作成するケースもあります。
- 信託口口座
- 信託屋号口座
- 受託者の個人名義口座
1.の信託口口座は、信託法に沿った特別勘定口座になります。受託者の状況に左右されず、信託契約の内容に基づき取り扱われる口座です。
いわば信託用の機能が備わっている口座ということになります。
2.の信託屋号口座は、口座名義人の表記に「信託の受託者である旨」が明記されている口座です。
個人口座と見分けるため、受託状態を「屋号」として付記して作成します。
3.の受託者の個人名義口座は、信託用に新たに個人口座を開設して信託用に使う方法です。
通常の普通預金等の口座と同じ取扱いになるため、分別管理のためにも委託者と受託者との間で口座情報を記載した「口座指定書」を作成しておくと安全だといえます。
家族信託をする際には「分別管理義務」を果たすことができる口座の確保が必須条件となります。
通常の個人口座とは顧客管理番号も別となることが望ましいため、とくに受託者の個人名義口座を利用する際は、金融機関窓口で信託用に利用する旨を申告・相談してみましょう。
証券会社で家族信託をする方法・手続きについて
主に家族信託の対象になる財産は、「金銭」「不動産」「有価証券(株式等)」です。
ここでは有価証券を家族信託する方法について説明します。
※もう一つの信託資産である不動産については、下記の記事にて解説しています。
【完全版】不動産を家族信託する方法・税金・メリット・デメリットなどを解説
自宅や収益用の不動産を所有している場合、自分でいつまで不動産の管理ができるのか、いざというときには、滞りなく売却して現金化することができるのか、など不安を感じることもあるのではないでしょうか。不動産所有者の場合、家族信託を活用してどのような対策を講じることができるのか、事例を含めて解説します。
有価証券、特に上場株式等を信託する場合には、金銭を信託する方法と同じく、 証券会社にて受託者名義の信託口口座を作成する必要があります 。
もし委託者(親)が利用中の証券会社が家族信託に対応しているのであれば、同証券内で受託者名義の信託口口座を作成して手続きを進めることができます。
利用中の証券会社が家族信託に対応していない場合は、家族信託に対応している別の証券会社にて信託口口座の作成について相談する必要があります。
証券会社によっては、信託口口座に加えて委託者と受託者の取引口座や移管手続きに一定の規程が設けられています。
有価証券等を受託者名義に変更する際にも制限のあるケースもありますので、事前に証券会社に確認をしておきましょう。
有価証券等をそのまま移管できるのか?
移管に際して、まず、保有している有価証券等をそのまま移せるかどうか、という問題があります。
移管先の証券会社で同種の取扱いが無ければ移管はできない事になります。
また、信託枠では有価証券等の商品種類を指定・限定している所もあるため、証券会社で事前に相談の上、確認しておく必要があります。
移管できない有価証券等については、信託財産から除外して管理したり、早めに売却する方法もあります。
この場合、保有量や現在価額、そして課税面などから検討する必要がありますので、信託契約をサポートしてもらっている専門家に相談すると良いでしょう。
家族信託における金融機関の活用方法
家族信託では、信託口口座を作成する以外にも、いくつか金融機関の力を活用する方法があります。
例えば家族信託では、金融機関から融資を受けることもできます。
信託契約の内容に一定の条項を定めておけば、信託財産を担保として融資を受けることもできます。
受託者が信託財産を担保として受ける融資のことを、 信託内借入(しんたくないかりいれ) といいます。
信託内借入は、次のような場合に利用されます。
【信託内借入が利用されるケース】
Aさん(80歳)は、収益用不動産を保有しています。
将来的に長男であるBさんに相続させたいと思っていますが、物件の大規模修繕も必要になりそうです。
修繕費は銀行から借り入れる予定ですが、実際に借入を行うのは1年程先の見込みです。
Aさんは最近、体力も衰えてきており、軽度の認知症の診断も受けている状態で、1年後に借入や不動産手続き等をすべて自分でできるか不安になりました。
そのため、AさんはBさんに物件を信託し、信託内借入を行うことができる家族信託を組成しました。
これでAさんは、銀行からの借り入れや手続きをBさんに任せることができます。
信託内借入(融資)は、基本的に家族信託に対応した金融機関で取引することになります。
融資の審査に加えて、信託契約書の内容も融資取引で必要な条項を盛り込む必要がある場合や、信託内借入の場合は別途、手数料が設定されていることもあります。
そのため融資も検討している場合は、信託口口座の作成の際にまとめて相談をしておきましょう。
信託財産での運用を検討する際には事前に手数料や融資金利について調べ、情報を集めて損益を計算しておくと良いでしょう。
まとめ
金銭や有価証券について、家族信託を利用する場合には原則、信託口口座の開設が必要です。
また、信託内借入を検討する際には、信託内借入に対応している金融機関との綿密な打ち合わせが必要になります。
家族信託における信託口口座の開設や、信託内借入に対応している金融機関が限られていますが、年々増加傾向にあります。
家族信託を利用する場合は、お住まいのエリアでどの銀行・証券会社を利用するのと良いのか、専門家にご相談ください。