認知症対策としての家族信託をした後、子である受託者から、
「母の認知症対策で家族信託を契約しても、母が認知症にならずに亡くなったらどうなるの?」
とのご質問を受けたことがあります。

今回は、「認知症にならずに委託者が亡くなったら家族信託はどうなるのか?」について、事例をもとにご説明します。

ある親子の家族信託の事例

「実家に一人で暮らす母が最近、病院への入退院を繰り返すようになってきた。」
「一人暮らしも大変なので介護施設に入居を考えている。」
「今後、介護費用のために実家を売却したいが、その時に母が認知症になっていたら困るので、今のうちに家族信託をしておきたい。」

このような希望から、母(=委託者兼受益者)と息子(=受託者)で信託契約をし、母名義の実家の土地・建物と金銭300万円を信託財産として、家族信託をスタートしました。

しかし、家族信託がスタートしてから1年程が経った夏の日、母が夏場の暑さもあり体調を崩し入院。
その後2週間ほどで容態が悪化して急逝されました。

母は家族信託の契約時から亡くなるまで、認知症の症状もありませんでした。

受託者である息子は、
「家族信託中に母が亡くなった場合の手続きはしたいがどうしたらいいのか?相続の手続きをしたらいいのか?」

との疑問が生じ、どうすればいいか分からず困ってしまいました。

委託者(兼受益者)が亡くなったら家族信託はどうなるのか?

この母子のケースでは、母が死亡した後の展開として、以下の2つのパターンが考えられます。

  • 委託者死亡により家族信託が終了する
  • 家族信託は終了せずに継続する

どちらのパターンになるかは、家族信託の契約(信託契約)の内容により決まります。

【1】委託者の死亡により終了する場合

母が死亡することにより、家族信託が終了する旨を信託契約に定めている場合です。

この場合、母が死亡に伴って信託契約の内容に従い信託した財産を取得する方(財産の帰属者)に財産を移転させ、信託を終了することになります。

信託契約では、信託が終了した後に誰が信託した財産を取得するかを、信託契約の内容で予め決めておくことができます。

このようにしておくと、信託することを決めた当事者(母)にとっては、亡くなった後に誰に財産を渡すかを予め決めておくことができ、遺言を遺したのと同様の効果が期待できます。

●参考記事:『家族信託終了後の信託財産は誰に受け継がれるか?司法書士が解説!

【2】終了せず受益者を変更する場合

委託者(母)が死亡しても家族信託が終了しない場合とは、例えば、「委託者の持つ受益権を二男(受託者以外の子)が新たに取得する」というように、「受益権」を子に承継させる方法です。

この方法を取ることで、例えば障害のある子の生活のために組成することができたり、相続対策を目的として承継先を指定することができるなどの効果が生まれます。

まずは受益者を変更する方法の例として、障害のある子の生活のために組成するパターンを見てみましょう。

【Aさん(85歳)の資産を家族信託するケース】

Aさんの妻は既に他界。兄弟仲の良い3人の子(Bさん、Cさん、Dさん)がいます。

ただし長女のBさんには知的障がいがあるため、Aさんは将来の生活に不安を感じている状況です。

普段から長女Bさんの世話を長男Cさんが家族で看ています。Dさんは独立し遠方に居住。資産状況には余裕があります。

委託者Aさんには収益不動産があり、家族信託でその管理等を長男Cさんに依頼しました。

今回は、受託者であるCさんと、障がいを持つBさんに2分の1ずつ賃貸収入を受け取って欲しいとの希望で、Aさんが亡くなっても信託契約は終了せず、AさんとBさんが二人とも亡くなるまで信託契約は続けていくという契約内容となりました。

この組成により、委託者Aさんにもしものことがあった後も長女Bさんの生活費の心配は無くなりました。

また、念のため、Cさんにもしものことがあった場合に備えてCさんの子Eさんを第二受託者として設定しています。

このように家族の事情によって家族信託の組み方を工夫することが可能となります。下記記事でも解説していますのでご参照ください。

→『障害のあるお子さんがいる家庭の家族信託

【3】終了せず相続対策をする場合

相続対策を目的として家族信託を終了せず、承継先を指定する方法についてご紹介します。

例えば信託契約により、直系の子孫に引き継がせる目的で「子→孫」と承継させる内容を指定することが可能となります。

このような家族信託を 「後継ぎ遺贈」型の家族信託 とも言います。

【後継ぎ遺贈型の家族信託】

家族信託は自身の資産の引継ぎについて「自分が亡くなった後も、男系の子、孫と順次承継されるよう設計したい」とご希望の方もおられます。

このような場合、委託者の死亡では終了しない「後継ぎ遺贈型】と呼ばれる家族信託を組んでおくことで、子や孫の世代にわたって資産の引継ぎ者を指定することが可能となるのです。

家族信託では誰に承継させるかは特段制限がありません。承継させる人として法定相続人以外の人物を設定することも可能です。

ちなみに、このような財産承継の形は遺言では不可能であり、信託が唯一の手段となっています。

遺言では自分の財産を次に誰に渡すかは指定できますが、その次の相続の段階については指定ができず、強制することもできないのです。

家族信託を資産の代々承継に活用する方法については下記記事でも解説しています。
→『【後継遺贈型信託】義理の息子に相続したくない場合に家族信託が有効

【後継ぎ遺贈型の注意点(年数制限)】

ただし注意点として、後継遺贈型信託は「30年+ 30年経過後に受益者となった者が、受益者でなくなるとき(通常は相続発生時)まで」しか継続できないルールになっています。

そのため信託財産が不動産であれば、どこかのタイミングで共有者の誰か一名が買取るなどの手続きを経る必要があります。

まとめ

以上のとおり、認知症対策の家族信託であっても、その家族信託の目的により当初の委託者の死亡時に信託を終了させる方法と、終了させずに活用する方法があります。

この点については、委託者が認知症になるかならないかは関係なく設定が可能です。

もちろん、認知症対策で家族信託を組んだのに、委託者が認知症にならずに死亡してしまった場合には、結果論ですが、認知症対策としての家族信託は不要だった、と結論付けることができます。

ただし、家族信託を作る場合には、少なくともその終了時点に関する規定を置きますので、遺言機能や財産承継機能は発揮されることとなります。

家族信託という信託契約は、このような多機能な性質を有している点も、ぜひ押さえて頂きたいと思います。