家族信託をする際には、受益権の承継先をどうするかなど、細かい内容までしっかりと決めたうえで契約を行うことになります。

しかし、家族信託は数年〜数十年続く契約であるため、途中で契約内容を変更する必要が生じる可能性も十分あり得ます。

契約期間中に不測の事態が生じた場合や当初の考えを改めたくなった場合などに対応するためです。家族信託を状況に応じた適正なものとして維持するために必要な変更手続きだといえます。

ただし、契約変更には一定の注意が必要です。

この記事では、信託契約後にその契約内容を変更するための方法や注意点について解説をしていきたいと思います。

信託契約後にその契約内容を変更する場合とは

まず、信託契約後にその契約内容を変更するのはどのような時なのか、2種類の事例から見ていきましょう。

(1)受益権の承継者やその割合を変更したい場合

信託契約を開始してから承継者等の変更をしたいケースが考えられます。

● 信託契約の際には父の受益権は長男が承継するとしていたが、その後、受益権の承継者を次男に変更したくなった。

● 信託契約の際には、父の受益権を長男、次男、三男がそれぞれ3分の1の割合で承継するとしていたが、その後長男が死亡したため、次男に2分の1、三男に2分の1の割合で受益権を承継させるよう変更することとした。

このようなケースです。

(2)信託不動産の管理・処分の方針に変更が生じた場合

信託資産の管理方法について変更したい場合が考えられます。

● 信託契約の際には不動産を売却する予定がなかったため、信託契約の中に「受託者が不動産を売却できる」旨を定めていなかった。

しかし急遽不動産を売却しなければならない事情が生じたため、信託契約の中に「受託者が不動産を売却できる」旨を追加する必要が生じた。

● 賃貸する予定がなかった自宅不動産について、事情が変わり、賃貸することとなったが、信託契約書内で自宅不動産を賃貸できる旨を定めていなかったため、その旨を追加する必要が生じた。

このようなケースの他、新たに信託資産を追加したい場合などが考えられます。

【最初の段階で対策できる?】信託組成の際に対策できること

もし信託を組成する段階において、後から変更が必要ないように決めておくことができれば、後から変更するという手続きも不要になります。

先々のことまで見通して契約内容を決めていく作業は簡単ではありませんが、詳細の規定や、想定外の事態が起きたときの規定を設定しておくことで、契約内容の変更が不要となる場合もあるのです。

信託組成は家族信託を熟知した専門家に相談することで構成を工夫することも可能です。できるだけ変更を回避できる組成にしておきましょう。

なぜなら信託契約の変更には、次項より説明する変更に関する注意点や課税関連の確認が必要となるからです。

信託契約後の契約内容の変更

実際に信託の契約内容を変更する際の方法について見ていきましょう。

契約内容の変更方法については、信託法に様々なパターンが定められています。まずは実務で取り扱胃の多い3パターンについて紹介し、その次の項目で変更時の注意点について説明します。

[1]「委託者、受託者及び受益者」の合意による変更(信託法149条1項)

原則的な変更方法であり、次に挙げる[2]のような変更の際の条件もありません。

家族信託の場合、基本的には「委託者=受益者」となりますので、実質的には「委託者兼受益者」と「受託者」の2名による合意で変更を行います。

[2]「受託者及び受益者」の合意による変更(信託法149条2項1号)

「信託の目的に反しないことが明らかであるとき」には、「受託者、受益者の2名による合意」で変更を行うことが可能です。

なお、今回の変更が信託の目的に反しないかどうかについては、変更する際の状況と信託契約の趣旨に照らし合わせて判断することになります。

[3]信託法の規定に関わらず、信託契約で定めた方法による変更(信託法149条4項)

信託契約の中で変更方法を具体的に定めた場合には、その方法により変更を行うことが可能です。設計の自由度が高いという信託の特徴を活かした方法だといえるでしょう。

ただし、契約内容の変更時には大きな注意点が2つあります。次項より解説します。

注意点【1】契約変更には「委託者の意思能力」が必要

信託の契約内容の変更においては、基本的に信託契約の当事者(委託者、受託者及び受益者)の合意が必要となります。

しかし、契約内容の変更時において、委託者の判断能力が低下していた場合、変更の合意をすることができず、変更そのものができなくなるリスクがあります。

家族信託では、高齢の方が委託者(兼受益者)となるケースが多く、契約内容の変更時には認知症などで判断能力が低下しており、変更の合意ができないといったことは十分にあり得えます。

この問題については、上記[2]のように、委託者以外の人員で契約内容の変更合意をする方法を取ることで対処可能です。

例えば、「契約内容の変更には、受託者及び受益者の合意を要する」と定めておけば、受託者と受益の二者のみで変更が可能となります。

委託者の地位は代理できない

仮に、受託者にもしものことがあれば、後継受託者が就任することができます。受益者についても「受益者代理人」を指定できるため対処可能です。

このように、受託者と受益者についてはもしもの際の対応方法がありますが、委託者(もともとの資産保有者)の地位については代理人の設定はありません。

委託者に代わって合意をする者を指名することはできないのです。財産保有者の地位について、一種の保護策を設けている状態だといえます。

このような理由から、契約内容の変更時に委託者の判断能力が低下していた場合、変更の合意をすることができず、家族にとっては変更そのものができなくなるリスクになるケースがあるのです。

委託者の明確な合意なく、後からむやみに信託契約を変更できない規制のようになっています。

このように委託者の意思能力については家族信託において重要な前提条件となっているのです。(※関連記事『家族信託と認知症』)

注意点【2】特定委託者課税の問題

では、上記の【1】をクリアすれば、信託契約の内容は全体的に変更可能なのでしょうか。

現実的ではありませんが、実際にその合意が得られれば変更可能です。

ただし、とくに信託契約を全体的に変える際には、「受託者が特定委託者に該当する可能性」を検討し、課税のリスクはないか確認しておく必要があります。

信託契約を大きく変えようとする場合、受託者の権限を拡充する可能性が高く、そうなると「受託者が特定委託者に該当する可能性」が高まるからです。

また、これから信託契約を組成する場合も、この「特定委託者」について留意しましょう。特定委託者の課税リスクと課税を回避する信託契約の構成について説明します。

特定委託者に該当する「受託者」とは

名称は「特定委託者」ですが、信託契約の「受託者」について一定の定めがあります。

下記の2項目に該当するかどうかで、「その受託者は特定委託者に該当する」が判断され、信託の契約時に贈与税が課税される可能性があります。(相続税法9条の2 1項、5項)

  • 他の者との合意などにより信託の変更をする権限を現に有している
  • 信託終了により信託財産を取得することになっている

一般的な家族信託では、受託者は信託財産についての権限を当然有しています。また、委託者が死亡するなどの相続が発生したら、信託財産を相続することになるでしょう。

これでは「受託者」役を引き受けている大半の親族は、「特定委託者」に該当してしまうのではないでしょうか。

つまり、家族信託では資産の権限が移動するため、基本的に贈与税の課税リスクがあるということになります。

ただし、その課税リスクを避けるため一定の契約内容を盛り込むことで、受託者の課税リスクは回避可能です。

その回避文言と、このような規定が設けられている理由について、もう少し見ていきましょう。

課税リスクを回避する契約条項とは

課税されるリスクを避けるためには、受託者に与えられている「信託の変更権限には制限があり、一定の範囲に抑えられている」ことを信託契約に明記しておく方法を取ります。

受託者に与えられている信託の変更権限が「軽微な変更をする権限として、信託の目的に反しないことが明らかな場合」には、「特定委託者」に該当しないからです。

その場合、贈与税が課税されるリスクもありません。

そのため、実務上は、受託者の信託の変更権限を「本信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り」と限定して定めます。

このように明記することで、特定委託者への該当を回避します。

なぜ「受託者」を「特定委託者」と呼ぶのか

この規定では、信託契約で受託者が過剰な権限を持つのを抑える主旨もあるといえます。

受託者でありながら、特定「委託者」と規定されているのは、受託者の権限が大きくなると、もはや委託者(兼受益者)と実質的に変わらない権限になると指摘しています。

  • 信託資産に大きな権限を有するなら、もはや受託者とはいえない(特定委託者として指定)
  • 条件に該当する場合、「みなし贈与の課税対象」とする

という流れです。

そのため一般的な家族信託では、課税を回避する条文を盛り込んで受託者への課税リスクを避けるようにします。

そして信託契約の通り、受託者は契約の範囲内で資産管理を行うことになります。

この特定委託者の規定は、受託者への過剰な権限譲渡が行われないよう防ぐための壁になっているといえるでしょう。(※参考記事:『特定委託者課税とは?その対策について解説』)

まとめ

信託契約後に契約内容を変更するための方法や注意点についてお伝えしてきました。

最後にもう一度、ポイントを見直しておきましょう。

ポイント①
合意が必要な者を定める際に、委託者の意思能力低下リスクに備えるため、合意者から委託者を除く方法もある

ポイント②
特定委託者課税を回避するため、受託者は「本信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り」契約内容の変更ができるという主旨の範囲で変更権限を限定する

このように留意することで契約内容を変更することが可能です。

変更する際には、変更する箇所と変更後の内容などを明記した「合意書」を作成し、合意する者同士が記名押印をして作成します。信託契約書の原本と共に保管するようにしましょう。

ただし上述しましたが、最も大事なのは信託を組成する最初の段階で後のことを想定し、変更が不要になるような組成にしておくことです。

先々まで見通した構成は簡単ではありませんが、家族信託を熟知した専門家に相談の上、できるだけ変更が不要となる組成を検討していきましょう。

家族信託について、専門家に相談する際は専門家選びも重要なポイントとなります。過去記事『家族信託を依頼する専門家を見極める方法』をご参照の上、専門家選びにお役立てください。