家族信託を組成するご家族のなかでも、お子様が一人しかいない家庭が増えてます。

例えば90歳の親の面倒を65歳の長男(子がいない単身の方)が面倒を見ているような家庭の場合で考えてみましょう。

この場合、親と長男で家族信託を組成したとして、長男が先に死亡してしまうと、家族信託はどうなるのでしょうか?

家族信託中に子が親より先に認知症の進行等によって判断能力を喪失してしまう可能性もゼロではありません。

今回の記事では、「受託者となる人物が1人しかいない場合の家族信託」について解説します。

受託者候補が1人のみでも家族信託は契約できる?

上記の例のように、長男1人の他に受託者になることができる親族がいない場合でも、家族信託の契約は可能です。

家族信託は委託者と受託者との信託契約でスタートするため、受託者になる人物がいるのであれば問題なく成立します。

受託者が死亡した場合にどう備えるか?

では、この受託者である長男が親より先に死亡してしまい、かつ他の受託者候補がいないような場合には、どのように備えると良いのでしょうか?

まず、信託法では、受託者が死亡しても信託契約は直ちに終了するわけではありません。

受託者が欠け、かつ新たな受託者が就任しない状態が一年間継続したときに、信託は終了します(信託法163条3号)。

1年間は受託者が存在しない状態で信託が継続することになります。

[1]委託者に信託財産を戻したい場合

この状況が不都合であり、委託者(兼受益者)に信託財産を戻すのを希望する場合は、信託の終了事由を「当初受託者(長男)が死亡したとき」として規定しておきます。

これにより、信託の清算手続きへと移行し、清算受託者を選任することになります。

清算受託者について信託契約に明記

しかし、もともと受託者候補が1人だったこの例では、清算受託者に就いてくれる人物もほぼいない状況でしょう。

その場合には、裁判所によって清算受託者を選任してもらえるよう、清算受託者の選任方法を信託契約に予め定めておきます。

これにより、清算受託者の不在や信託の清算事務が滞ることを回避できることになります。

家族信託の利用中、受託者にもしものことがあった場合に備える方法については、こちらの記事『家族信託中に受託者が死亡した時の対応・対策まとめ』にてまとめています。

[2]委託者に信託財産が戻ると困る場合

さて、前述の例のように受託者候補が1人のみの場合、他に備えておく方法はあるのでしょうか?

まず、受託者の席が不在となった(死亡、判断能力喪失等)場合、家族信託を終了することで、財産管理権限が親に戻る契約を設計することができます。

ただし、財産管理権限が親に戻っても、委託者本人が法的行為のできる状態とは限りません。

財産管理権限が親に戻らないようにする方法もあり、任意後見制度を活用する方法がお勧めです。

任意後見制度

任意後見制度とは、本人(親)が十分な判断能力を有する段階で、予め任意後見人となる方や将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておく制度です。

本人の判断能力が不十分になった後、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行うことができるようになります。

信託契約と任意後見制度の併用で問題を解決

つまり、家族信託の終了を想定した規定を盛り込み、同時に任意後見契約も締結するという方法です。

家族信託が終了したとしても、認知症の進む親への財産管理権限が戻ることなく、任意後見人により財産管理を行うことができます。

任意後見制度についてはこちらの記事『任意後見制度とは』で解説していますのでご参照ください。

任意後見人は誰に依頼する?

では、任意後見人は誰に依頼すると良いでしょうか?受託者候補も1人のみというような場合、必然的に親族以外の人物ということになるでしょう。

例えば、任意後見人を司法書士や行政書士等の専門職に依頼する方法もあります。

委託者(親)と任意後見契約を締結しておくことで、家族信託後もフォローできる体制を整えることができます。

受託者のもしもに備える

今回は、受託者となる人物が1人しかいない場合の家族信託について解説しました。

受託者が任務を終了する場合に備えていくつか対策ができます。

家族信託に限らず、任意後見制度など、他の制度を含めた活用も視野に入れてみてはいかがでしょうか。

任意後見人については司法書士等の専門職への依頼も可能です。(参照記事『家族信託はどこに頼むべき?相談先を決めるコツを解説』)

万が一に備えて対策をしておきましょう。