親が認知症になってしまった際に、銀行口座から預金が引き出せなくなることに対する対策として家族信託が用いられるケースが非常に多くなりました。

早くから備えることのできる自由度の高い制度です。

しかし、金融機関によっては「口座の代理人登録」制度があるケースもあります。代理人として登録されている人物であれば、口座から預金を引き出せるというものです。

では、この代理人登録をすれば、家族信託は不要なのでしょうか。迷われるご家族もいらっしゃることでしょう。

この記事では、実務上の取扱いがどうなっているのかについて解説します。

銀行の代理人登録とは?

認知症患者の保有する金融資産の額は、将来的に200兆円を超えると試算されており、金融庁は2020年8月に銀行業界に対して顧客への対応の指針を作成するよう求めました。

それを受けて、銀行業界では代理人登録制度など、顧客の高齢化を見据えた制度の導入が活発になりました。

銀行の代理人登録とは、預金者本人が事前に申し込みをすることで、自身が銀行窓口やATMへ来店できなくなった時に、本人に代わって代理人が手続きできるサービスです。

預金者本人は申込み後ももちろん口座をご利用することができ、認知症などに備える方法としても用いられています。

【代理人制度の概要】

代理人制度の概要は以下の通りです。
※但し、細かい規定は金融機関によって異なるので、利用する際には必ず個別の制度内容について確認が必要です。

代理人の範囲

原則、三親等以内の親族1名(同居か別居かは問いません)

代理人が出来ること

(1)普通預金・貯蓄預金の入出金取引
(2)定期預金・積立預金の入出金取引
(3)本人の住所・電話番号変更等の諸届
(4)代理人の住所・電話番号・改印等の諸届

代理人制度を利用すると、このような取引が可能となるようです。内容を見ると、この制度があれば家族信託などの他の備えは不要ではと思うかもしれません。

しかし高齢者のお金の管理で困るのは、口座の利用が制限され、凍結された後です。

果たして代理人は、銀行口座が凍結された後でも、同じように手続きができるのでしょうか?

銀行の代理人制度の限界

このような金融機関の新しい制度ができても、高齢者の方の生前対策は十分とは言えないことは多くあります。

代理人登録をしているとはいえ、認知症と診断され、判断能力が著しく低下している場合、銀行がその事実を知れば「口座取引を大幅に制限」します。

これが冒頭でお伝えした口座凍結という措置です。

取引が制限されると、それ以降、出金や契約内容の変更(定期預金の解約など)は、原則、家族であってもすることはできません。(※参考記事:『家族が認知症患者の預金を引き出すには』)

金融機関の中には、認知症などで判断能力が低下した顧客の取引代行を可能にするサービスを始めると発表しています。

ただし同様の制度が全国的にすぐに広がるわけではなく、また、判断能力低下後にできるのは、必要最低限の医療費や生活費の引き出しに限られます。

つまり、代理人制度は、本人が元気な時期は代理行為をすることが出来ますが、認知症と診断され症状が進むと途端に窮地に陥るケースも少なくはないのです。

金融機関で求められる「後見人」

金融機関の指針として、認知症のある人の預金を引き出すためには成年後見人を立てるよう求めるケースが大半です。

成年後見人(法定後見人)の利用が開始すると、預金の引き出しや定期預金の解約、介護サービスの契約から金銭管理まで、後見人が支援に当たります。

手続きが可能になるという利点はありますが、後見人は選任されると、原則として被後見人である認知症のある高齢者が亡くなるまで後見業務を担うことになります。

つまり、後見制度の利用により、後見人は本人の資産を守る目的で支援するため、資金使途には制限がつき、資産は後見人の管理下に入ります。

また、専門家の後見人、後見監督人には指定された額の報酬の支払いが必要です。

日本では認知症の患者数が急激に増加していますが、後見人の活用は思ったほど進んでいません。その背景には、上記のような内容が家族の負担になっているという事情もあるといえるでしょう。

まとめ

銀行が用意している代理人制度があるため、この制度を利用していこうと考えているご家族も多いと思います。

ただし、本人が判断能力を喪失した後も本人の資産を家族で管理していきたいという意向があるならば、口座凍結の対策としては十分ではありません。

本人や家族の財産状況、生活状況によって適切な対策は変わってくるため一概には言えませんが、やはり選択肢の一つとして、家族信託の活用をお勧めしたいと思います。

家族にとってどのような対策が必要か、本人が手続きできなくなった後の資産管理をどうすればよいのか、できるだけ早めに検討する必要があるといえるでしょう。